主≠監。
mistake eraseⅢ
Please input the ur name.
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
小さく聞こえる換気扇の音は特に気にならなかった。
そんなことにいちいち反応していては、日頃、後輩たちの出す騒音を前に冷静でなどいられるはずもない。
「――……フゥ……」
寮のキッチンに来て暫く。
落ち着きを取り戻したトレイは、当初の目的だった紅茶を飲むことで、文字通りひと息ついていた。
半端に記憶したエースのスマホの中身に、正直まだ胸はざわついている。
が、だから何だと言うのだ……そう思えるほどには、ひとまず精神面は回復していた。
「!」
「あっ、いたいた~!トレイくん、オレにも一杯淹れて欲しいな」
「ケイト……」
――それは場を持ち直した……というより、自分自身を持ち直したトレイが、二杯目の為に湯を再び沸かしていたときのことだ。
ちょうどひと気を感じ、折角一人でゆっくりとできると思ったところに水を差され、少々らしくなく眉間には皺が寄っている。
が、彼がすぐに元の表情に戻ったのは、出入り口からひょっこりと顔を出したのがケイトだったからだ。
ケイトはニコニコと目を細めて笑顔のままトレイに近付き、ティータイムに便乗して紅茶をねだっていた。
「珍しいな……お前が飲みたいだなんて……ぬるめにするか?」
「そ?まあ、たまにはね……あ、熱々で平気!……それにオレ、ちょうどトレイくんのこと探してたからさ。誰もいない此処に居るって聞いてラッキー、みたいな?」
「?ああ……エースに聞いたのか……。で、どうかしたのか?資料のことか何かなら、リド――」
「エースちゃんがさ、あのマジカメに写ってたトレイくんのカノジョ、実はチョー好みッス!!って、さっきすれ違ったときに言ってたよ」
「?!……ッ……ゴホ…、っ……がは…、~~……おい、ケイト……?!」
ケイトは顔だけでなくその身すべてをトレイの前にさらすと、変わらず笑みを浮かべたままアイランドキッチンの台に両肘をつき、低い体勢で頬杖をつくった。
補習か課題提出で授業でも受けていたのだろうか、制服姿だった彼の足元はクロスされ、片方のつま先を床に立てている。
作られた曲線に沿うように、白いスリッポンはその足によく馴染んでいた。
このとき、トレイはケイトが来たことで、警戒心も小さな苛立ちの一切も解いており、心なしか救われた気さえ感じていた。
親しい友人というだけで、今の居心地に大きな変化の波が起こらず、それがどれだけよい傾向だと思えたことか……。
棚から取り出した、缶入りの茶葉を付属のスプーンで掬ってポットに足し、ケトルには水を追加して湯を沸かしなおす。
ちょうど、白い湯気が浮かんできたあたりでトレイはケイトに用件を聞いていたのだけれど、その際トレイは、ケトルを持ち上げる前でよかったと痛感した。
まあ……そのかわりに自分のティーカップを持っていたのだけれど、危うく手が滑りそうになったのは言うまでもないことだ。
咽ぶ咳はわざとじゃない。
ケイトがトレイに放った言葉は、ひとくち紅茶を含み、それを嚥下しようとした瞬間と重なっていた。
「やっぱり!……カノジョなんだ?あの子……ゴメンゴメン、引っ掛けるようなことしちゃってさ」
「ッ……!やっぱりって、……お前なぁ……、――……アー。黙っててくれよ?くれぐれも……ゴホッ……」
「勿論!あ……エースちゃんもそんなことは言ってないから、心配しないでね?ただトレイ先輩の知り合いかも的なコがーって、さっき話してただけだからさ」
「、……そうか…。フゥ……」
きっと、自分は不器用でもなければ器用でもないということだろう。
それがよくわかった瞬間だった。
持っていたカップの紅茶を飲みながら、人の為に淹れる紅茶を作る……そんな一連の所作さえままならない。
ケイトの言葉にどれほど動揺し、咳込んだことで、それが相手には確証を獲させている……。
挙句、かまをかけられていたのだとすぐに分かれば、ため息のひとつやふたつ、許して欲しいとも思えた。
「……ほら。入ったぞ……?熱いうちに」
「ん、ありがと!トレイくんッ。いただきますっと」
ケイトは突如として自分に本題を吹っ掛けてきたけれど、知られた以上、トレイは彼に正直でいることしか既にできないでいた。
紅茶を淹れることも続けなければならない。
以降どれだけ冷静に戻れ、そういられるか……それがある意味肝かもしれないなと胸中で感じた。
このとき、トレイはケイトが報告してくれたことに一応感謝はしており、後輩の口の軽さというものをつくづく痛感していた。
ケイトはエースがデマを流している可能性も否めず、もしかしたら此処まで来ていたのかもしれない。
けれど憶測で進めるべき内容でない以上、やはり正直になる必要はどうしてもあった。
無論、名無しとの出会いも、今の関係も……その殆どは素直に話せないものではあるが……――。
いま一度肩の力を抜いたトレイは、自身の紅茶を飲んだ直後、ケイトに向けて口を開いた。
そして、ケイトはやはりケイトだと思わされる返答に、表情は自然とゆるんだ。
1/8ページ