主≠監。
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――――。
ローブの中に手が入っていなくてまだよかった。
なんて、そんな程度の低い話で自分の胸を撫で下ろしている場合じゃない。
どのみち絶望感が溢れたのは言うまでもないことだ。
こんなシチュエーション、たとえトレイに見られていても恥辱に満ちていただろうに、よりにもよって、ジェイドに……。
「あ……」
「ふむ……すごい絵面ですね……こうも肌色が多いと、見る方は逆に集中できなかったりするのでは?それとも、そこも好みの問題なんでしょうか」
「っ……、何言…っ……」
「シャワー……お先にありがとうございました。湯船もとてもきもちよかったですよ……如何に雨のべたつきがストレスになるか……、久々に身に沁みました」
「……ッ……」
「名無しもお早くどうぞ?――ああ……それとも、まだ行けませんか?このチャプター、最後まで見たいですもんね?」
「!な……」
ジェイドと一緒に居て、こんなに気まずいと思ったことなど今までなかっただろう。
出会った当初を除いても。
たとえ彼が自分とトレイを引き合わせた、あの日を差し引いても……。
心拍数が上がって悪寒さえ感じる。
けれど内なる熱は都合よく放たれることはない……それがなんだか、無性に腹立たしかった。
「変な風に言わないでよ……ッ…普通の放送が見たかっただけだよ……ニュースとか……。なのに…」
「ほう……おおかた、こちらはトレイさんと鑑賞したことのあった作品…といったところでしょうか……?ああ、すみません、また当たりました?」
「ッ……」
部屋には少量の湯気が漂い、入浴時に生まれる独特の空気感と心地よい香りが広がっていた。
無論ジェイドはさっぱりとした様子で、自身が快活な状態であることをその体を以って表しており、表情は常ににこやかだった。
もっとも、名無しのベッドに寝転ぶ姿と、モニターに映る映像、それを見て悶える彼女を目にした瞬間ばかりは、そのクールめいた微笑にも驚愕を孕ませてはいたのだけれど。
動揺はしたようでも、決してそう見せないあたりの彼らしさは、相変わらずに思えた。
「ふふ、なるほど。色々思い出されていたんですね……」
「ちが……」
「まあ、確かに貴方は特別えっちですし。僕の知らない間に、彼に触発……フフ、開発なんかもされて、こういう類のものを好いていても、何ら違和感はありませんね……フッ」
「な…っ……」
ジェイドほどの長身が羽織るそのローブ姿には、もしも彼への恋慕があったならば頬も染まったことだろう。
シャワーを浴び、ほんの少し湯船の中で疲れをとってきたらしい彼の濡れ髪は、短髪ゆえか殆ど乾いているようだった。
ジェイドはベッドに居た名無しの傍に近寄りつつ、けれど一定の距離を保つことを維持し、端に腰を下ろしながら足を組む形で彼女と対峙した。
言葉の節々に煽りを感じたのは、名無しがそれだけ意識していたという証だ。
状況も迅速に把握され、言い訳も逃げ場も失っていれば、どうしてもばつが悪くなってしまうのも無理はなかった。
「わたし…は……っ…」
開き直る勇気もないくせに。
思わず強がって言い返す。
見られたことがすべて。
ジェイドに勝てる気がしないことなど、今更だ……。
「っ……そう…かもしれないね……そうだよね。ジェイドは……見ないもんね……?でも、トレイだって別に好きじゃないって言……っ」
「おや……僕も多少は目を通しますよ?フロイドが好き好んで、色々スマホで共有してくるもので……勿論、僕も慰め目的で見ることはありませんがね」
「………ッ」
「ですが、やはり少し妬けますね……僕も貴方とこうやって鑑賞していれば、名無し好みのお話を一緒に探して、楽しめたのかもしれません」
「っ……お話って……、だから……!好きじゃないってば……トレイと見たことのある動画だったってだけで……」
「ええ。ですから、そういうことを僕がするべきでした。デートの経験もなにもない。ただ貴方の身体を抱いて、性感帯と性癖を暴いて、いやらしいことに貪欲にさせた……それだけです」
「…ッ……それは…そういう関係だから……でしょ…」
「!フフッ……そうですね…。ええ……僕と名無しは、ただのセックスで……身体だけで繋がった……割り切った関係でしたね」
ベッドに腰を下ろすジェイドは場を理解すると、苦笑いと企み笑いを半々に、改めてモニターに視線を送った。
二人が会話を繰り返しているあいだにも当然流れゆく映像からは、延々と誰かしらの吐息が聞こえ、時々大きな嬌声が響く。
こんな状況でまともに話している自分たちの懸隔さには、思わず高笑いさえ零してしまいそうだ。
とはいえ、名無しがどれほどその映像に興味をそそられていたか……ジェイドはそこに関心を抱き、彼女の気持ちを酌むべくモニターを見続けた。
「…ッ…ジェイド……」
「……フッ……、それに……」
「……?」
ベッドに戻って、たった数分。
それっぽっちの本番行為を目の当たりにしただけで、ジェイドには胸の内、思うことが溢れていた。
名無しの性癖、願望、口には出せない、けれど気付かれたい本音があるということ。
女が高鳴るそれらを、自分の知らないところでトレイはやってのけたのだろう。
そしてモニターの中のほぼほぼ同じ構図も、他人のユニーク魔法を使って、既に……――。
「名無し」
対抗する気など毛頭ない。
自分は自分で、名無しとの肉体関係をただ楽しみたいだけ。
その為に自然と浮かぶ案のひとつひとつがたとえ悪逆めいていても、ジェイドはにじり上がる口角を抑えられずに微笑んでいた。
すべては抗いがたい自分の存在そのものに、態度に、言葉に、名無しがとても弱いということを知りすぎていたゆえに……――。
「それに、非常に残念です…僕は貴方と約束しましたから……。今は服を乾かして、雨に汚れた身体を洗い流すためだけに此処へ来ています。……貴方を抱けません、名無し」