主≠監。
mistake eraseⅡ
Please input the ur name.
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ジェイドと気まずい関係になる前に、トレイとのことを彼に何処まで話したか、きちんと覚えておくべきだった。
まあ、だからといっていちいちスマホのメモにそれを記すわけにもいかないし、相変わらずベッドの中で話したことであれば、記憶もおぼろげになっていて当然だ。
「……だからって…」
「おや?この部屋……入ったことが?なら他にするべきでしたね、ふふ」
「ッ……別にいいよ…シャワー浴びて、服乾かすだけなんだし……」
「そうですか……ふふふ」
「ッ……」
そもそも誰かとひとつの傘の中に入ることすら、その経験は少なかった。
トレイとだって、雨の日の街を出かけたことはまだなかったのだから……。
名無しはジェイドの真横を連なる形でその場所に来てしまったことに違和感を持ち、改めて今、自分の隣に居るのがトレイでないことに嘆きを覚える。
目的が一致して、仕方なく其処へ訪れた。
部屋を選んだ時にジェイドが躊躇なくひとつのボタンを押して、その瞬間、きっと自分は”話していた”のだろう……と、名無しは小さなため息を零した。
「………」
「名無し、お疲れでしょう?少しくらいは横に……」
「ならない……ソファでじゅうぶんだから……それにお湯だってすぐにたまるし。……いれてくる…」
「おやおや……流石はお詳しいですね、ふふ」
「っ……」
「ふふふ……だって僕、こういうところには疎いものですから。名無しは?トレイさんとはどのくらい来られてるんですか?」
「、……訊くかな、普通……。――……そんなに来てないよ…。たぶん……」
「ほう……」
隣を歩いているときも、フロントに着いたときも、エレベーターに乗ったときもとにかく不安でしかなかった。
いつ自分の肩や腰にジェイドの手が伸びたことか……。
考えるだけで正直頭も、そして身体にも、その全身に疲労は更に溜まっていった。
もっとも、幸い部屋に入室してからもジェイドは名無しに手を出すどころか、ある程度の物理的な距離すらとっており、それがまた別の意味で彼女を驚かせていたのだけれど。
ひょっとしたら、本当に約束は最後まで守るつもりなのだろうか……。
とはいえ一瞬の油断も隙も見せられないことには変わりなく、部屋の主と言わんばかりの大きなベッドに身を預けるのは、あまりにも危ない行為だと思えたのは当然だった。
名無しは自分への気遣いにだけ謝意を抱きつつ、ジェイドの案を丁重に断る。
そしてここまで来た目的を果たすため、ひとり速やかに行動をとった。
「!……この部屋、クローゼットに乾燥機能ついてたんだ……。よかった……」
「?気が付かなかったんですか……?今まで」
「っ……雨の日に来たことないから……スイッチがあるのも今気付いたし、それにわざわざ見渡さないでしょ……」
「………」
「、……なに?ジェ……!わ……」
名無しにとっては訪問済みだったその部屋の隅、名無しは定位置とも言える場所に鞄を置くと、その中から濡れたハンカチを取り出した。
水分を吸って重くなったそれを広げながら移動して、手を伸ばし、開けたのは出入り口傍のクローゼットだ。
そのとき、中をまじまじと見ていた名無しはひとつのスイッチがあることに気付き、思わず声を上げていた。
勿論、そうやって物珍しげに発声するのはあまり良いことではないと思ったのも事実である。
興味をそそられたジェイドが部屋奥の一人用ソファから立ち上がり、そこに来る可能性も否めなかったのだから……。
実際、ハンガーを持った瞬間、その気配は一気に近付いた。
名無しはジェイドに背後をとられると、そのまま驚きも余儀なくされた。
「ッ……?!」
「ああ……本当ですね。これなら服もすぐに乾きそうです、ふふふ……」
「……っ…吃驚させないでよ……もう…」
「すみません……。――……何かされると思いましたか?」
「!……思いません……ッ。……ハンカチ…掛けるから……下がってよ、もう……っ」
「ふふ……ああ、貴方は本当……――」
「……?」
雨にも打たれ、ジェイドと密室に来ていた以上、緊張感を張り巡らせる名無しにとって感じていた疲労度はなかなかのものがあった。
色々があってこの選択だ……間違いなど起こしたくなかったし、何より、絶対にトレイを裏切りたくないという気持ちも強かった。
だから背後をとられただけで彼女の焦りが尋常でなかったことは、その表情と、ジェイドに対する声音を聞けばよくわかったことだ。
「――ッ……ジェイド……寒いって言ってたよね…」
「ええ……部屋に着いてからはだいぶと落ち着きましたが……」
「お風呂。先に入ってきて……?わたし座って待ってるから……」
「!」
クローゼットの機能に揃って歓心する……そんな些細なことだって、本当はトレイと見つけて一緒に笑い合いたかった。
名無しは距離の迫ったジェイドと再び離れるべきだと即座に感じ、気持ちも切り替えるべく、そのために今度は冷静に声をあげた。
彼を入浴へと促せば、暫くはひとりで居られる。
ぼうっとすることもできれば、考え事に耽ることだって可能な……とにかくひとりの時間が欲しいと思った。
名無しは浴室に向かう手前でクローゼットに触れていたし、疲れていても、湯船に今すぐ浸かりたい欲は意外にもすぐ取っ払えた。
「ご心配ありがとうございます。ですが……僕が先でよろしいのですか?貴方こそ、真っ先にゆっくり入浴したいのでは……」
「……ローブだけ貸して…。着替えて、先に服も掛けて早く乾かしたいから……」
「そうですか……畏まりました。ではそのように」
「………」
このとき、名無しにとって朗報となり得たのは、幸いジェイドがすんなりと承諾してくれたことだった。
レディファーストだなんだと言わずにいてくれた振る舞いが、今はどれだけ救いだったか。
ハンカチを掛け、ジェイドにも彼の分のハンガーを手渡すと、名無しはひとり部屋の奥へと戻る。
そしてクローゼットから早々に離れたもうひとつの理由は、もう風呂の湯くらいは自分で入れてくれという投げやりな態度で、相当だった疲労感を察して欲しいという表れでもあった。
「……名無し?ローブ、此処に置いておきますね。貴方も早く着替えてください」
「ん……ありがと」
「!」
「……、なに…?」
「いえ……。この状況でお礼を言われると、少し可笑しいなと思って……ふふ」
「………」
「すみません……ふふふ、ではお先に……。いってきます……――」
名無しの疲弊していた様子など、ジェイドならば悟るに容易いことだ。
実際多少の言葉を投げ合っても、これ以上は余計であり、もう浴室に向かうべきだというタイミングさえ絶妙だった。
嫌味のつもりなど毛頭ないのであろう。
とはいえ礼を含めたそれらがやけに癪に障る……それも容易に見てとれる。
それは名無しが、自身が今はどういう立場にいて、自分とはもう切れたいと既に望んでいたからこそ感じている想いなのだと、ジェイドは軽く推察した。
1/7ページ