主≠監。
mistake erase
Please input the ur name.
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「………」
――的確な語彙……は、用意できたと思う。
エースを欺く表情も、言葉も、完璧と言っても問題ないだろう。
それでもトレイの胸中は抉られていた。
画面に見えた、目に映ったそれを認めたくなくて、必死で都合のいい理由とこじつけを探して、頭を抱えた。
「ッ……」
エースは何事もなかったかのようにトレイと通常営業の如く接し、にんまりとした彼特有の笑顔を漏らし、楽しそうにしていた。
歩きスマホを咎められたこともまるでなかったかのように……何と彼らしいことか。
おかげで疑われる余地もないだろう……そこは心配するところではなかった。
トレイはエースと別れたあと、直行したキッチンに来るとすぐさま扉を閉め、誰もいないことを確認しながらその場で崩れていた。
下半身から脱力したその場は扉を背にもたれ込み、脳裏に焼きついた画には思わず、手のひらを口元へと運び抑え込む。
「はぁ……っ…――」
別に嗚咽を孕むようなそれじゃない、目に見えたものはただの集合写真だった。
エースの言う通り場所は海辺、海水浴。
被写体は彼らバスケ部がナンパしたらしい、水着姿の女子学生。
グループは二桁に満たないとはいえ、それなりの人数で撮影した写真は、広角レンズを使ってセルフィ―で撮ったものらしかった。
トレイがエースと居た際、一瞬のうちに確かめたのは、前列四人、後列二人がしっかりとカメラ目線だったこと。
残りの後列一人は、その撮影に消極的だったところを無理やりメンバーがアングルを作って、なんとか画角におさまるべくしていたように見えた。
その証拠に、後列一人だけはその後列そのものには並んでおらず、そこから数歩ほど後方で立ち、ビーチタオルを持っている仕草をとっていた。
「水着…だったよな……?あの格好……元々持ってたやつか…?それとも……」
海水か、風で舞った砂をはらっているのか、口元をバスタオルでおさえて伏し目がちにしていても、エースはこの人物にさえ可愛いという形容を用いていた。
話した限りでは、そのとき本人を見たわけではないのだろう。
けれど対面していればきっと節操なく声をかけていたであろうことをトレイが他愛なく想像できたのは、それがエースであり、うちのバスケ部であるがゆえだ。
「っ……――」
そこに写っていたのが自分の彼女でない理由を探すことが困難なほど、はっきりとしていなくとも分かってしまった。
もっとよく日付を見るべきだった……そう悔いても、そこまで見えていれば逆におかしいし、疑われるかもしれないことだって百も承知だ。
「……名無し……ッ――」
トレイは、あの投稿の中に名無しが居たことを受け入れるため、膝に力を込めてその場から立ち上がった。
が、紅茶を淹れるべくポットに湯を沸かす……そんなことすらできないまま、暫くのあいだは変わらず扉に背を預けていた。
物入れから取り出してみたスマホですら、らしくもなく何かを操作する気分にはなれない。
ただただ考えるのは、自分が今すぐ会いたくて仕方がない、名無しのことばかりだった―――。