主≠監。
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忘れたい。
考えないようにしたい。
頭の中でぐるぐるとうねるようにぶり返すのは、耳元で最後に聞いたトレイの言葉だ。
「………」
あれから数日が経っていた。
学生という身分、優先すべきことは勿論念頭に、それでも毎日々々いたずらに時間が過ぎることがやるせない。
名無しはスマホでそれなりにトレイと連絡を取り合っていたけれど、それはあくまでメールでだけのやり取りに過ぎなかった。
寂しいという気持ちを無いことにはできない。
けれど今のトレイは余程多忙だということも理解していたし、名無し自身も簡単に彼と通話する時間を作れずにいた。
「トレイ………」
声が聞けないことがこんなにも苦しいなんて、それだけ恋をしている証拠だと思った。
言い聞かせじゃない、でまかせでもない。
自分は本当に、トレイに愛い感情を抱いているのだと……。
そうして話せないままに迎えようとしていたのは、いよいよ訪れた週末だった。
名無しはその日を自ら虚無として過ごすべく、外出をする予定も敢えて作らずにいた。
「っ………」
理由なんてひとつしかなかった。
メールでの返答を待っている……そう言われていたジェイドへの連絡を、避け続けたまま過ごすために――。
――――。
――。
「――……はぁ…」
件の週末。
ジェイドに会わないようにするため、名無しは徹底して根回しに気を遣った。
学校ではクラスメイトとの交流をいつも以上に避け、遊びに出かける予定すら作る隙を見せない。
万が一、友人に誘いを受けてしまっても、そこはありがちに用があるからといって難なくごまかした。
「……うまくいってたのに…もう……」
が、名無しは一瞬にして自分の計画が崩れゆくのを、自室のベッドの上で目の当たりにしていた。
――それは週末一日目、朝の出来事である。
目が覚めてすぐ、両親からメールが来ていたのは気付いていた。
けれど念を押してか、名無しが起床後向かった居間にも、同様の内容が記載された手紙が置かれていた。
ジェイドのことがあった分、名無しはあまりスマホを見ないようにもしていたし、メールを開いたのはその手紙に目を通したのと同じタイミングだった。
中身を読み終えて脳がそれを理解したとき、部屋に戻ったベッドの上で彼女が項垂れるのも無理はなかった。
「……買い物…。終わったらさっさと帰らないと……はぁ…」
手紙とメールには、仕事の都合で週末の休日二日間、家を空けること。
加えて早朝出発の急すぎた出張ゆえ、食事の支度もままならず、調理するための食材も冷蔵庫にあまり入っていないことが記されていた。
居間のテーブルには手紙の隣に二日分の生活費が置かれており、実際名無しが朝食を摂るために冷蔵庫を開けると、見事に冷えていたのは殆ど空間だけだった。
「………」
ここはおそらく、デリバリーでも頼めば済む話である。
けれどそればかりに頼るわけにもいかないことくらい、少し考えれば分かることだ。
絶対に外出しないという決めごとが崩れたのは名無しにとって想定外であり、朝から多少の苛立ちが募るのも致し方なかった。
それでも苛立つ自分により苛立ちを覚えれば、冷静でいることの大切さも手伝い、なんとかため息は数回でおさまってくれた。
「……」
いっそ思い切って街へ出かけ、欲しい食材を買い足して、料理もして、ひとりのびのびと二日間を楽しもう……。
そう切り替えられれば、心労も少しは和らいでいった。
それに、たとえば好きなひとのことを思いながら食事を作ることができるだけでも、悪くはないだろう。
トレイは自分の為にケーキを焼いてくれると約束してくれた。
振る舞い相手は自分自身、けれど同じように気持ちを込めて料理をするという経験がいま味わえるのなら、その経験も後々きっと役に立つと信じたい――。
「……早く食べたいな…トレイのケーキ……」
作りたいものも大体決めた。
名無しは起床後、自身の胸中の整理が終わるとクローゼットからお気に入りの服を取り出して、そのまま支度も済ませて街へと出かけた。
靴を履いて玄関を開けたとき、スマホの電源をわざと落としたのは、今の彼女にとってはごくごく自然なことだった。
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