主≠監。
plz forgive me.
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特定の音が鳴って表情が綻ぶ。
予想よりは少し遅めに感じた着信は、トレイの疲れをまたやんわりと癒していた。
「もしもし?」
スマホを手に取る仕草も思わず逸る。
”ただいま”。
”帰ったよ”。
そんな言葉を期待して、予測して、けれど耳元で聞いた名無しの声は、トレイの想像とは少々異なっていた。
「おかえり、名無し」
『……っ…ただいま……トレイ……――』
「?ああ……無事に着いたみたいだな……よかった。――どうかしたのか……?」
自寮の部屋に戻っていたトレイは名無しからの着信にすぐ気付き、それを滞りなく受けていた。
会っていたばかりでも楽しみと思えるのは、ただ電話で話すことそのものにだって、何気ない尊さを抱いていれば当然だ。
が、同時になんだか出ばなを挫かれたような……。
そんな気持ちに陥ったのは、名無しがいつもの元気な声色でないように思えて仕方なかったからなのだけれど――。
『ッ……』
では、どういう声だったか。
それはトレイが今まさに寝そべっている、自身のベッドに彼女を押し倒したときに聞けるような、実に甘美なものだった。
「名無し?」
『ッ……帰って、すぐに掛けたかったんだけど…私も疲れてたのかな……遅くなってごめんね』
「ああ……なんだ……、そういうことなら気にするな。連絡するにもタイミングはあるしな、誰にだって……。ほんと、今日はありがとな」
『…っ……うん…、……』
「……?」
トレイは正直、不安がないわけじゃなかった。
別れ際に遭遇してしまったジェイドのことが気にならないといえば、それは確実に嘘になる。
とはいえそれを名無しに悟らせたくはなかったし、考え込むのもよくないと思えるのもまた、トレイの長所のうちではある。
名無しがどんな気持ちでひとり帰路を辿ったか……その情緒に起伏が出るのも、きっと仕方のないことだろう。
「なあ。その……気のせいならいいんだ。――……お前…」
電話で話せること、声が聞けることそのものを、いつもならありがたい、嬉しいと心から感じられる。
だから尚更、それを今こそ改めて噛み締めるべきなのだろう。
家まで帰宅した疲れ気怠さに混ざり、甘ったるさの漂う名無しの声に対し、自分がどう問うべきかはただひとつ……。
「名無し……」
『トレイ……会いたい…』
「!」
それは耳心地の良い声音に、トレイが自身の今の気持ちをぶつけようとしたときだった。
名無しには直球でも問題ない……もうそういう関係でもあるのだと、それなりの自負は持てている。
「お前……」
熱情に溢れ、溺れ乱れた時間から引き摺る余韻からなかなか抜け出せない。
離れてもまだなお求めることには、笑って呆れられるかもしれない。
けれどそんな小さな悩みは、一瞬で杞憂に変わった。
先に名無しの口から聞かされた言葉は、トレイのおおよそ想像していたものと同じだった。
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