主≠監。
shivering butterflies
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――――。
――。
「――……なあ名無し……、次会うときな……その、帰りは家に来ないか?寄ってけよ、俺の部屋」
「!え……ッ…え……あ、…トレイの……家、ってこと?!」
「べつに構わないだろう?まあ……誰も部屋に来させないように、家族の都合は上手くつけとくさ。フフ」
数分ほど前まで、深刻な顔で話をしていたとは到底思えない。
ほんのりを超えて、顕著に赤くなった顔色を零す名無し見たさに漏らした冗談は、眼前すぐに見えた正門、二人が別れる場所でトレイが発したものだった。
「ッ……!そ…、別に……お邪魔する立場なら、そんな都合なんて……私は…」
「ハハ……来てくれるんだな。まあ単純に、ウチのケーキを食べて貰いたいだけなんだけどな……ドキっとしたか?」
「……っ…!もう……そういうことなら、ん……じゃあ、……甘えよう…かな」
「フッ……そうか、よかった。これでまた一週間頑張れるよ……延期した実験と、明日からのルークの独り言にもうまく付き合えそうだ」
「…っ……トレイ……」
名無しは弱い人間じゃない。
そんなことは分かっているけれど、自分が守るべきと思っているからこそ、きっと少しでも陰りが見えれば、トレイは無自覚に過保護にもなってしまうのだろう。
笑み見たさに口にした冗談を本音に置き換えたのは、それこそ本音でもあるからだ。
自分と会うことを楽しみにしてくれている名無しを想うだけで、それだけで日々のモチベーションにだって繋がった。
「……、私も……楽しみが出来て嬉しい…ありがとう、トレイ……さっきのことも……」
「気にするな……俺も幸せだよ。こんなに可愛……――」
――困った顔、照れた顔。
ベッドの中で恥ずかしがる顔も、何もかもが愛おしい。
名無しの髪を撫でながら、トレイは自室から正門までの彼女の帰路を、冗談と本心で上手く結んでいた。
周りに見つからずに難なく歩くこともできたし、自分の体調も随分と元に戻っている。
だからこそ思えたのは、ベッドに居た先刻、名無しをもう一度くらい抱けたのではないかという浅ましい願望だった。
人間は本当に単純だ……問題なければ現金になれるし、難儀があれば諦める局面も少なくない。
もっとも、トレイが例に漏れず浅ましかった自分を嘲笑したのも、名無しと想いを重ね合わせることが出来た嬉しさゆえだ。
たとえ歪でも、これが相愛なのだと実感できることの、どれだけ幸せに溢れていたか――。
「あ~~!ウミガメくんじゃーん!何してんの?こんなトコで」
――そんな嬉々とした渦中に居たときに、その渦を突如としてぐちゃぐちゃに乱されれば、笑顔で締めくくれた筈の今に再び陰りが訪れてしまうのも無理はないだろう。
トレイは名無しに、「じゃあまたな」の一言でいよいよ彼女の背中を見送ろうとしていた。
巻き起こったのは、まるで横殴りの雨のような出来事だ……。
「!!フロ……」
「ッ……」
今まで一度たりとも、誰にも見られずに出入りを繰り返してきた。
油断だってしていない。
が、向き合っていたトレイと名無し、名無しの背後から聞こえたのは、学園にたった今戻って来たらしい、フロイドの声だった。
「オレら外に買い出し~。アズールがヒトづかい荒いからさー……ちょうど大荷物持って帰ってきたとこなんだけど……もしかして隣に居るの、ウミガメくんのカノジョ?可愛いね」
「!ああ……」
「へえー…金魚ちゃんほど真面目じゃねえのは分かってたけどさ~……ウミガメくんもやるコトやってんだね……しかも大胆にこんな場所まで。まさか連れ込んでたりすんの?部屋」
そのとき、トレイと名無しの肝が冷えたのは、相手がフロイドだからというのもさることながら、シンプルに人に見られてしまったということが原因にあったからだった。
真後ろから声をかけられて名無しが振り返れば、長身の彼が二人を見下ろし、飄々とした笑いをまろやかに零している。
声色は明るく、ご機嫌だったことは救いととるべきか……。
両手に抱えているのは話のとおり、ラウンジで使う食材や資材なのだろう。
重そうなそれも軽々持っている印象がやけに強く残った。
「おい……冗談はよせフロイド……」
「あはは……!心配しなくても言わないよ……面倒くせえし。それにカノジョの一人や二人みんな連れ込んでるもんじゃね?知らないけどさ」
トレイはフロイドから名無しを隠す様に位置取りを改めていたのだけれど、声をかけられた瞬間、彼はひとつの疑問も同時に抱いていた。
夕刻、暗めだった良好でない視界。
名無しを送りだすにはいつもどおり好条件だった。
にもかかわらず、現れたのがフロイドだ。
まるで偶然と見せかけ、多少は鉢合わすことを読んでいたかのようにさえ、トレイには思えて仕方なかった。
そして聞き逃すところだった、フロイドの言葉に隠れていたのは、意味が分かればより冷や汗の流れるようなそれである。
いっそ聞き逃していれば、心臓のあたりも凍り付かずに済んだだろうか……。
「――ハァ……、……!おいフロイド……今”オレら”って……」
「こんにちは、トレイさん」
「!!」