主≠監。
shivering butterflies
Please input the ur name.
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「フフ……いや、……起きて最初に見るのがお前の顔で……ホント幸せだなと思ってな」
「ッ……だからって…、また横になっちゃったら……。こういうことしてると、すぐ時間来ちゃうんだから…もう……っ」
名無しは先に起床したとき、絶対にこのベッドに横になるまいと軽くひとりで誓いを立てていた。
嫌というほど自覚した、トレイが自分に寄せる大きな愛……。
それを知って、名無し自身も彼を愛しいと痛感して、そんな気持ちでまたベッドに飛び込めば、起きた意味も着替えた意味もなくなるかもしれない。
つまるところ、もう一度横になってしまえば、何もなしに再び立ち上がる自信も名無しにはなかったのだ。
「そうだな……でも少しだけ……。一分でいい…抱き締めさせてくれ、名無し……」
「!んぅ……じゃあ、一分ね……、……?トレイ……?」
結局、簡単に抱き寄せられて、あたたかいベッドとトレイのぬくもりに包まれる。
名無しは余裕を持っていた時間があっという間になくなってしまうことを危惧しながらも、それなりに二度目が始まるかもしれない覚悟をその場で固めていた。
が、意外にもトレイは名無しにがっつくどころか、ただ彼女を抱き締めるだけだった。
それが何を表しているかを紐解いていけば、行きつく場所は数時間前まで使っていた魔法に辿り着くだろう。
意識がはっきり戻っているとはいえ、トレイはまだまだ疲れている様子だった。
「トレイ……、どうかした……?」
「――ハァ……死ぬかと思ったよ……、ケイトがいつも言うんだ……自分のユニーク魔法を酷使した後に。……俺もさっきまではまさにそんなかんじだったな……死ぬほど疲れた」
「っ……」
このとき名無しが感じたのは、また抱かれることばかり考えていた自分の方が、よっぽどトレイにがっつかれるのを望んでいたかもしれないということだった。
恥ずかしさに頬が赤らむ……。
至近距離で抱擁を浴びているぶん表情はあまり見られなかったけれど、どう足掻いても自分は淫蕩なのかもしれないことを考えさせられる瞬間でもあった。
そんな人間でありたくないし、手遅れでも純情でだっていたいのに……。
名無しは自分がどんなにトレイを求めているか、そして襲われないもどかしさを抱き、身体の奥に少しのむず痒さを感じていた。
「ッ……私は…その、嬉しかったから……ちゃんと伝わってるから…トレイのきもち」
「!」
「…ッ……だから……無理しないでね?……吃驚しちゃうから……それに、トレイのブロットが溜まっちゃうのはもう……少しのことだって見たくないよ…」
抱かれなかったことに対する安堵。
抱いて欲しかったことに対する不満。
両方が名無しのなかでせめぎ合い、くだらない争いを起こしている。
もちろん軍配が上がっているのは、ほぼほぼ前者ではあるのだけれど……。
名無しは、トレイが心情を吐露してくれたこと、そして再び信頼されているのだと感じられたことを喜ぶべきだと気持ちを改めた。
リスクの伴う、半端のない疲労感に襲われるくらいなら、そんな他人の魔法を自分の為に使わないで欲しい。
どんなに自分が性に貪欲で、いやらしいことにとらわれていても。
名無しにとって一番大切なのは、トレイそのものだ。
そして気付かされることで、どんどん彼女の中で、トレイだけに愛されていたいという想いも孕んでゆく。
すぐには無理かもしれなくても、それでも……――。
「名無し……フッ。ああ……わかったよ。それじゃあ次は三ヶ月くらい間を空けるか……スプリット・カード用に、魔法を蓄えておく魔法を習得すればいいんだろう?」
「~……っも…、訊いてた?!今の話……っ」
「ハハ……ッ!ああ、訊いてる訊いてる……かわいいなお前は」
「ッ……、むう……あ、それよりトレイ……ッ、スマホ……!さっきから何度か鳴ってて……多分またかかって……!ほら……っ」
腕の中に抱かれ、一分だ、と言ったトレイが約束した時間が過ぎてゆく。
多少はオーバーしたところでまだ問題はないだろう。
トレイの魔法に対する考え方も聞けた。
それに関する冗談も聞いて笑い合えた。
あくまで冗談は半信半疑として頭に入れることで、名無しは自身の気持ちを軽やかに自己完結させていた。
何より、時間が経過したことで、名無しにはまだトレイに話しておくこともあった。
「!ああ……サンキュ…。――……あー、……これは出た方がいいやつだな……――……もしもし?」
自身のもだけれど、トレイの睡眠をほんの少し妨げていた原因がそれだ。
名無しは上肢を起こすと、寮服のポケットから机上に移していたトレイのスマホを彼に手渡し、しつこく鳴り響く着信があったことをようやく本人に知らせていた。