主≠監。
lol and fear
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運営委員の仕事の忙しさをこの目で見て、それでも自分の相手をする時間をジェイドは作ってくれた。
部屋で過ごせたそれは限られていたけれど、もうじゅうぶん幸せだと思えたし、悔いるなどという気持ちも抱くことはなかった。
「……ふぅ…」
きっと、これ以上の幸せを求めれば欲張りだと誤解されるかもしれない……。
だからこちらからの連絡は引き続き控えるようにしていたし、メールだって、あとでいいだろうと勝手に決めつけた。
「……――」
陽も沈んだ、今はすっかり夜のこと。
名無しは赤い顔をして一般客と同じ流れに沿い、帰路を辿ろうとメインストリートから正門へ向かっていた。
が……。
「?……、……ッ…!!」
「ふふ……何も言わずに帰ってしまうなんて……これではまるで、僕たちが喧嘩でもしているみたいじゃないですか」
「っ……忙しいんじゃ…、なんでまた……抜け……、ッ……」
「――……先程。……フロートから見えた名無しのあんなに嬉しそうな……それでいて構って欲しそうな顔を見てしまってはね……どうしようもなくなったんですよ、僕も」
「ッ……――」
そのとき、淡く期待していた自分の想いを掻き消すのに必死だった名無しが、突然目の前に降りかかった出来事に大きく目を見開いたのも当然であろう。
相変わらず解いてはいない凝った仮装姿は、風に靡く包帯が何処か物憂げだ。
「ジェイド……ッ」
「この時間はもう、みなさんパーティーに夢中です……抜け出しましょう、僕と――」
――――。
―――。
来客をもてなすことに喜びとやりがいを感じていたジェイドが、それよりも自分のことを優先してくれた……。
どう喩えれば、こちらの嬉々を彼に伝えられるだろう。
そんなことを考えているあいだに、名無しはジェイドに連れられてあっという間に目的の場所に到着していた。
正門近くから移動したそこは、またしてもジェイドの部屋だった。
「!ん……っ、はぁ……」
「ちゅ……チュ…――……名無し」
「ッ……気付いて…くれてたんだね……目が合ったかなとは思ったけど……」
「ええ……フロートはゆっくり稼働していましたし。夜とはいえ、ランタンの光でもじゅうぶんに顔を確認できるほどの明るさがありましたからね」
「っ……」
メインストリートで待っていてくれたら……あるいは、背後から肩をポンと叩かれたら、どんなに嬉しいだろうとささやかに夢焦がれた。
前者が現実のものとなって、これはハロウィーンだからそういう夢でも見させられているのかもしれないとさえ一瞬は思った。
けれど、それは夢でも幻でもない。
自分を呼び止めてくれたのは、紛れもなくジェイドだった。
邪魔にならないようにそそくさと帰るつもりが、こんな形で彼の部屋に再びなだれこむ結果にはなったけれど、名無しの本音などもはや綴るまでもないだろう。
部屋じゅうに響くリップ音が、二人の気持ちをぐんぐんと高めてゆく――。
「それにしても……てっきりどこかの最前列で見ていて下さっているとばかり思っていたので、少し意外でした」
「っ……だって…周りの人たちもめちゃくちゃ楽しそうにしてたから……確かに私もそうだけど、でも…この人たちの方が、滅多に此処に来れるわけじゃないしって思ったら、ね……」
「ほう……」
「…それに……」
「?」
「ジェイドは……フロートの上にいたから…どこにいても、見つけてくれるかも……って…ちょっと自惚れてみたり…も……ッ」
「!ふふ……構いませんよ?もっと自惚れてください……ああ見えて、僕が見ていたのは名無しだけですから……チュ」
イベントそのものはまだ終わってはいなかったし、気を抜ける状況でもない筈だったけれど、ジェイドは名無しを急かすような素振りは一切見せなかった。
確かに時間はそれなりに限られている……が、夕刻時の比ではないということだろう。
件の問題も解決していた後だったし、既に運営委員が手を拱くような現状ではなかったことは、余程ジェイドにゆとりを持たせていた。
もっとも、それでも名無しが自重していたのは、自身の存在がジェイドに負担をかけると思っていたからだ。
のちに杞憂であるらしいことが嫌でも伝わるのは、きつい抱擁に、押し倒されたいつものベッド。
うんとねだってくる唇をそこで重ねた時に感じた、ジェイドが自分を欲しがっているという強かな想いがすべてだった。
「ん……っ…、ジェイド……あ…」
「フッ……そういえば、ヴィルさんほどではありませんが……この仮装の効果も相まって、僕も結構人気者だったんですよ?撮影を何度も頼まれました」
「っ……、そうなんだ…――あ、じゃあ……マジカメのハッシュタグで探さなく、ちゃ……ッ…んぁ……ジェイド…?!」
「マジカメのID程度ではありますが……個人情報の書かれたカードも、数枚手渡されましたよ。ふふ……」
「、……ジェイ…ド……んっ……あ!あ……ッ」
パーティー会場から鏡舎に向かうとき、ジェイドと名無しの姿を気に留める者はほぼほぼ皆無だった。
中止になりかねなかった状況に夜宴まで無事決行されて、待ちに待った食事の席も広がっているとあらば、その殆どが料理に目が行くことをジェイドは利用していたのだ。
移動の際は、何処で同じ寮の面々に出くわすかも分からなかったけれど、堂々と繋いだ手を引いてくれたジェイドの後ろ姿に名無しは見惚れていた。
「ん…あ……ッ…」
自分の大好きなひと……。
少し前まではイベント運営に右往左往して、夜間、フロートに居るのを見つけた時は、遠い存在にさえ一瞬見紛うた。
多くの客人で埋まっていた両脇の道に目配せをして、特に女性に対し優しく手を振る姿には、ほんの少し抱いた芳しくない気持ちも名無しにはあった。
「ご安心ください……名無しがしっかり妬いてくださっているのは、一瞬のうちに理解できましたから」
「な……っ…あ!ぃ……や、ぁ…ジェイド……挿…」
「フッ……勿論、カードはすべて丁重にお返ししましたよ?だから今はまた……僕のことだけを考えてください。…名無し……ン…ッ」
「ッ……―――」
絶対的に体も心も繋がっていても、些細な膿は時折孕むものなのだろう。
そしてそのことに嫌悪を感じる名無しの複雑な女心をジェイドは分かっていたし、彼女の扱い方もお手の物と言わんばかりだった。
仮装した衣服を剥ぎ、名無しのトップスもスカートも乱し、ありのままをさらけ出しあう。
艶やかな肌に舌を滑らせながら、ジェイドは行為を堪能していた。
好きでしていても、愛想を振りまいた後に抱く大切な女性のぬくもりを、その幸せを……彼は強く強く噛み締めているようだった。
「ジェイ…、……ジェイド…ん……ッ、熱い……ジェイド…」
「ええ……浮かされています…貴方の熱に……それと、……許して下さいね?嫉妬している名無しは、本当に可愛い……」
「ッ……んんっ…ちゅ、……!はぁ…ジェイド……」
「ふふふ……仮装を解いた、今の僕はもうただの男です……名無しのね……ン…――」
「――……ッ…」
ひとつになってベッドが軋む擬音に、部屋の出入り口で抱かれた時の既視感が被さる。
どちらも力強く、激しく……。
けれど甘ったるさの悉く含む、ジェイドの愛情に溢れたセックスだ。
眉を顰め、全身に汗を掻きながら腰を振るう彼の姿など、それを目の前で見られるのは自分だけ。
そして名無しが嬌声を漏らし、いやらしく乱れている姿を見ることができるのもまた、ジェイドだけ。
一夜限りの浮かされた時間、とろとろと絡み合う熱に溺れた二人が、ランタンで彩られた絶佳燦爛たる外の景色を再び目の当たりにするのは、まだ暫くあとのことだった―――。
lol and fear
20201115UP.
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