主≠監。
split card【fake】
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どうしてあのとき、他人の魔法に興味はないと言ってしまったのか。
ない筈はないというのに。
自分だって、多少なり学びに就いている筈なのに。
「……」
多分、海辺に居たあの場を早く解散したかったから、自然と口にしてしまったのだと思う。
そうとでも思わなければ、ちゃんと……少しでも調べておけばよかったという後悔の念に、名無しは押し潰されそうだった。
「………」
すっかりと見慣れてしまったハーツラビュルの風景は、庭に広がる木々たちの緑色にさえ癒される。
見ているだけで気持ちが和むのは、それだけ名無しの情緒が穏やかではなかったからだろう。
「……」
待ち合わせ場所まで迎えに来てくれたトレイが真横に居て、今日も隣を歩き、彼の部屋へと向かう。
嬉しそうにしている表情を見るのが辛かった。
迎えていた今は、トレイにねだられていた水着を彼の部屋で見せる、予定”だった”日だ―――。
――――。
――。
「……名無し?」
「!!あ……、ん…ちゃんと聞いてるよ?試験管、割れなくてよかったね……変わった人もいるんだね……部活」
「ああ。……俺がどれだけ普通か分かるだろう?ははっ」
後ろめたさを抱えるとすれば、名無しにとってそれはただひとつ、折角の水着姿を見せられなくなったことだろう。
そのことは多少なり、彼女に暗い影を落としていた。
けれど悪くない表情でいられたのもまた、トレイのおかげでもあるのだ。
出会った頃よりも増えた何気ない日常会話で場は和んだし、困り眉で呆れ笑う彼を見ていると、心より楽しい、嬉しいと思えたのも事実だった。
「ふつう……トレイが?」
「ん?なんだ……俺は普通だぞ?お前と一緒に居ない時はな」
「ッ……もう…」
「ハハッ」
別に水着は見せられるものなら見せればいいと思う。
名無しがそうしないのはトレイへの気遣いであり、普通に考えれば逆の立場に置き換えた時、自分だったら絶対に嫌だった。
知らない方がいいこともある……嘘をつくのではなく、そう捉えることで平静を保つことを、名無しはいつしか学んでいた。
「さ、着いたぞ……今日は四時間は一緒に居られるかな……ありがとな、俺の我が儘きいてくれて」
「っ……そんな…平気だよ。……遊びに行ける来週末まで待てなかったトレイが、その……ちょっと可愛いな……とは思ったけど…」
「フッ……今週末は副寮長としての仕事が立て込んでてな……どうにも地元には帰れそうにないんだ。……したかったな、デート。お前と観たい映画もあったんだけどな…」
結局水着は洗濯した後、箪笥の中に片付けていた。
また友人らと海やプールへ出かける用があれば、そのときに着用すればいいだけなのだから……。
トレイには、一番にその姿を見せたいという思いは、名無しにはどうしても妥協できなかった。
自分がジェイドと切れない、ましてやそのジェイドに先に見られてしまったことへの、トレイに向ける贖罪と謳うにはそれは大げさかもしれない。
が、彼女にとっては、それがせめてもの償いでもあった。
そして償うためにも、名無しは今日、手ぶらで来るわけにはいかなかったゆえの行動を起こしていた。
「そっか……あ、……じゃあ終わってなかったら来週一緒に行こう?たのしみだな…、……!わ……っ」
「チュ……ああ、来週な。――……考えてたんだよ、色々想像もした……お前がどんな水着を買ったのか。今日が待ち切れなかった」
「ッ……トレイ…」
部屋に着いて、いかにも水着が楽しみで仕方ないと言わんばかりにトレイに抱き寄せられる。
日常会話の中には、同じ部の同級生の話題で笑いも生まれていた。
冗談を織り交ぜてリラックスさせられつつも、彼の目の奥に見えた着実な熱は名無しを高揚させ、じんわりと、その熱が伝染る感覚も身体に走った。
「無理言った俺も大概だが……着て来てるんだろう?名無し……」
「あの、ね……トレイ。実は…」
「ん……?」
名無しがこれから口にすることは優しい嘘だ。
言い聞かせて打ち消すのは自責の念……。
それを悟られないよう、あくまで自然に、自然に唇を動かす。
ふいに交わされた、キスの余韻の残る自身の口元に手を宛がいながら、名無しはそっとトレイに話した。
そのとき赤らんでいたらしい頬を見て、トレイが驚きと落胆、それから興奮といった感情をぐちゃぐちゃと表に出す様子は、なかなかどうして印象的だった――。
「気に入ったのがあったのね……水着。でも、わたしに合うサイズが、その……ネットもお店も売り切れてて……他に可愛いと思えるものもなくて……」
「な……売り切れ?!じゃあ……」
「!あ……っでもね、……えっと…、――……だからあの……水着は、もう少し待って欲しいんだけど……かわりに、その……~……ッ」
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