主≠監。
end in melancholy.
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――――。
――。
そこがベッドの中ならば、優しく襲ってくる微睡みに身を任せ、そっと目を閉じたままでいたかった。
そんなことが許される場所でも、恰好でも、シチュエーションでもないのは、なかなかどうして笑えるものだ。
笑えるのは、きっと何もかもが終わった事後ゆえだろう……。
「……あまり時間はかけられませんでしたが……ご友人方、まだ遊んでいらっしゃいますね……流石に驚きました」
ジェイドが他人に驚愕を見せるのは一応稀有な方だ。
隣で目を見開く姿を見ていると、自分よりも……トレイよりも背が高いことを改めて知らされる。
離れた岩陰、その海中より元の浜に泳いで戻った二人は、そこで名無しのパーカーをぎゅっと絞り、水気を落とすジェイドの腕力の強さが彼女の印象に残っていた。
「私は……この場所にジェイドが来たことにもうずっと……驚いてる…けど……」
「!ふふふ……ですが……しっかりと感じて、一緒に達ってくださったじゃないですか……たくさんえっちな声も漏らして……ね?名無し」
「ッ……」
魔法の解除に、何度も服用する薬。
人魚と人間の姿を行ったり来たりする手間をかけさせて申し訳ないと思うも、名無しはそう思う自分にすぐ疑問符を抱き、申し訳なさを小さなため息へと変えていた。
「………」
――ジェイドは事後名無しから離れると、名残惜しそうにあからさまな目つきで、その水着姿を見つめていた。
元の場所に戻れば、彼女が一目散にパーカーを羽織ることを分かっていたからだろう……文字通り見納めていたのだ。
それに濡れていようがいまいが、きっとそうするに違いないとジェイドが思うのも当然だった。
水分を飛ばしていたのは、無理やり岩陰まで誘った彼なりの詫びと礼も兼ねてのそれだ……せめて少しでも着心地が良くなればと、腕を交錯させていた。
「それにしても……ご友人方のグループにバスケ部は混ざっていなかったようなので、少しホッとしましたよ。まあ……声をかける一連の流れはあったかもしれませんが」
「……あとで聞いとくよ……わたしも、離れてたいいわけ考えなくちゃだし…」
「おや?海の中から急に人魚に声をかけられて、そのままひと気のない場所でセックスしてきた……って、そう言えばいいだけなのでは?」
「!ジェイド……ッ…」
「冗談ですよ。ふふふ……可愛いですね名無しは……顔が赤いですよ?元に戻して……さあ」
「~っ……誰の所為で…、む……ッ」
ジェイドが水気を切ったパーカーを手渡すと、受け取った名無しはすぐさまそれを羽織った。
そして乱れた髪を整えるためのタオルを取りに、敷いていた自身のレジャーシートの傍まで駆け寄ると、振り向いた時に彼が自分のあとに続いていないことに名無しは気付いた。
まあ……姿を変える煩わしさは、自分がもしも同じ立場ならば分からなくもないことだ。
名無しはタオルを頭に乗せ、髪に生地をぱふぱふと馴染ませながら、人魚の姿をしたジェイドの居る波打ち際まで戻った。
置いてあったシートも、ビーチタオルもそのままだったのは、この砂浜の治安の良さもあってこそだろう。
「さて。僕もそろそろ戻りましょう……。……次は?トレイさんにはいつ会うんですか?……三人では…」
「!だめ……一緒にはもう……ぜったい…、だってトレイが……」
「フッ……。そうですね……嫌がるでしょう、間違いなく。……しかしそうですか……やはり無理ですか……。寂しいですね」
「…ッ……」
浜に戻って最初に小さく笑い合ったのは、名無しの友人グループが未だにビーチバレーに夢中になっていたからだった。
ついさっきまで激しく交わって、とろけた気持ちにはうつつを抜かしていた。
肌や口吸いでぶつけあった熱情が、そういうひょんなことで冷めゆくのは悪くはない傾向なのだろうけれど、だからこそ名無しは少し危機感を覚えた。
ジェイドとは身体だけ……。
それ以外に情を持てば、本当に彼がトレイと同等の立場になり得てしまう。
名無しは、その可能性を完全否定しあぐねていたのだ。
もっとも、ジェイドはそうやって自分たちの関係の変化を危惧する名無しを、誰よりも俯瞰で見つめていたのだけれど……。
焦りや不安を孕む彼女の心が読めるうちは、少なくともジェイド自身は、己が暴走することはないだろう……と、軽やかに考えていた様子だった。
「二人同時に攻められている貴方を見ているのは楽しいので……名無しも好きでしょう?まったく残念です、ふぅ……」
「…っ……。それよりあの、ジェイド……」
「ああ……ご心配なく?このことを彼に話すつもりはないですから。……きっと二度とは見れない、今日の貴方の水着姿は、僕の此処だけにとどめておきますよ。ふふ」
長い下半身を最大限まで浜に打ち上げさせ、波打ち際で話すジェイドと名無しの姿は、本来ならやはり目立つ光景だった。
が、誰も目もくれないのは、単純に野暮だったからだろう。
ジェイドは下がり眉を作り、トレイとの三人での再会を望み、それを拒まれるとあからさまに微笑を零した。
表情にはしょんぼりとにやにや、ふたつの変化をつけ楽しんでいる。
名無しが、本当はそれを嫌っていない……。
どころか、実は間違いなく好いているという、彼女自身、半分は無自覚な弱みを口にしながら、顔の赤らんでゆく様子を海面から窺っていた。
「……ありがと…」
「貴方も……本当に好きになってしまったんですね……ふふ。でも僕との関係を断てない……僕は、そんな名無しが好きですよ」
「、………」
「仕方ないでしょう……トレイさんは人間ですから……。人魚の僕が貴方にして差し上げられることを……同じことを、彼にはできません」
「ッ……でも、トレイもいっぱい咬んで……!!はっ……」
「!……ふふふ、そうでしたか……では、それでも断てないのなら尚更……僕も本気で貴方を好きになってもよろしいですか?」
こうやって悠長に話している場合で変わらずいられたのは、自分たちに刺さる視線が皆無だったからだ。
いい加減友人の一人や二人、迎えが来てもいいくらい単独で自由行動をとっていた筈だけれど、名無しにはその気配もなかった。
そしてジェイドもまた同じである。
まだまだ名無しと話せていたのは、彼自身がフロイドや、フロイドを含むバスケ部の存在を近くに感じなかったからでもあった。
まあ、ずっと、というわけにもいかないことくらいは、双方が自覚していることだけれど……。
自然と話が締めくくられつつある雰囲気を感じ取れば、場を散る流れにも自然と辿り着いた。
が、それに意図的に逆らえば、ジェイドは名無しを煽り、名無しはその挑発にムキになって返答していた。
罪悪感からくる彼女の空回りを逃さないジェイドの、今だって変わらない狡猾さは健在だった。
「っ……もう…ッ、冗談……」
「お互いの欲求不満を解消するためのセックスとはいえ、何度も愛し合っていれば情くらい湧きますよ、僕だって。――……ね?セフレに少し、そういう感情を含めるくらいは……」
「!ジェイ…、ド……」
「もちろん冗談です。フッ……いいんですよ、僕は二番目で。ですが……これからも宜しくお願いしますね、名無し。ふふ……」
「ッ……ん…、……」
ジェイドから見る名無しというのは本当に隙だらけだった。
というよりは、普通なら付け入ることのできないであろう、小さな穴に彼が気付いてしまうというのが正しい喩えだろう。
別れ際の会話に色をつけてぶり返させる。
そうするだけで名無しは頬を染めていたし、ジェイドもそれが楽しいことだと思えた。
最後には必ず冗談だと、そう一言添えることで、それだけで彼女の焦りと安堵を同時に見ることもできる。
ジェイドにとっては、それらは単純に次回もあることを促す為の文言に過ぎなかった。
けれどいちいちまわりくどさを交えるあたりは、相当名無しが彼の中で特別なのだという、いい証拠にもなっていた。
「ああ、最後に。そういえばトレイさん、ご友人のユニーク魔法について、そのご本人と熱心にお話しているところを先日図書室でお見かけしましたね」
「え……?友人…、……あのノリの軽い人のこと、かな……最近やっとお友達の話もするようになったから……」
「!ええ……合っていると思いますよ。その軽い人……の、名無しはご存知ですか?ユニーク魔法」
「ん……知らない。あんまり興味ないから……。――…ジェイド……?」
「………」
会話は可能だったけれど、だらだらだと話し続けるのは良いことではない。
やがてそういう段階まで時が進むと、ジェイドはいよいよフロイドたちと合流する為、長身を海中に浸け、名無しの傍から少し離れた。
小さな波飛沫が舞い、名無しの顔にぴちゃりとかかると、名無しもジェイドが帰るということを実感する。
二人の距離が数メートルほど開いた時、抱かれたばかりの身体が内側からきゅんと疼くと、名無しはそれをささやかながら悔しく、そしてもどかしく思っていた。
「ジェイド?」
「……そうでしたか……ふふ。……いえ、あまりお気になさらず。それじゃあまた……そのうちお会いしましょう、名無し」
それはジェイドが海中にダイブしようとした瞬間のことだった。
名無しも一旦は振り返り、友人らがいる方へと視線を向けていた矢先である。
まだ何か言いたげにジェイドが声をかけてきたゆえ、名無しは折角乾きかけていたサンダルを波間に乗せ、彼に少し近付いた。
耳を傾けるんじゃなかったと思ったのはすぐのことで、ジェイドがトレイの話題を振ってきたことの気味悪さに小さくため息をつく。
救いだったのは、自分たちの性に関する内容じゃなかったことだろうか。
それにしてもまた異色めいた方向性の話だったゆえに、この場が再び長引くかもしれないという思いが彼女にあったのは確かだ。
まあ、結果的にジェイドは話を切り上げ、今度こそ漸く名無しと別れてひとり、海の中へと姿を潜めていたが……。
名無しも暫くぶりに友人らと合流すると、その後は何事もなかったかのように、再び身体を動かしていた――。
そして―――。
「……フッ。まったく残念……とは言いましたが……。どうやら杞憂で終わりそうですね……ふふふ。おめでとうございます、名無し?」
名無しに釘をさしたジェイドは、そのまま海の中で優雅に自身の身体を伸ばし、暫くの遊泳へと戻った。
その最中、浜に残された名無しが何を思い、何を浮かべ、何を次に求めるかを考えながら鰭をはらりと靡かせる。
薄い唇を割って、漏らした独り言は海中で。
自分が次に名無しに会うときは、彼女は確実に物足りなさを感じていることだろう……そういう確信を抱き、ジェイドは静かに微笑んでいた―――。
end in melancholy
20200928UP.
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