主≠監。
tea time
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数多の法律に厳しい規則。
それらが目立つ寮とはいえ、例外があることには本当に助かっている。
おかげで副寮長としての尊厳も体裁も保たれたまま。
後輩をはじめ、親友にだって、後ろめたさを感じずにいられるのだから。
「んん……」
手入れの行き届いた庭園は、その迷路をわざと彷徨うのも嫌いじゃなかったし、行き止まりで休憩するというのもなかなか風情があった。
もっとも、そんな趣向でいることを知っているのはただ一人だったし、彼は寮生の誰にも打ち明けるつもりはなかったのだけれど――。
「あー、ほら……唇に生クリームがついてるぞ、名無し」
「ッ……あ、自分で取……っ!ひゃ…」
「フッ……ここは俺が取るところだろ……どう見ても。ほーら…もっとこっち向いて?」
「~……ッ!んっ……ン…」
「そうそう……。ん……チュ」
なんでもない日を逆手にとって、トレイは時々、名無しを寮の敷地に招いていた。
それは違反というよりは、法の抜け道に近かった。
だから罪悪感もなかったし、まあ、もしもこれがリドルに知られれば、トレイは多少、彼の機嫌を損なうことになるかもしれない。
それでも薔薇の庭の入り組んだ地理を利用して、同じ時間を過ごす……。
名無しとひととき、ささやかな茶会を開くことが、トレイにとってはここ最近の楽しみのひとつだった。
「はぁ……、…お茶が冷めるよ…トレイ……」
「んー?ああ……大丈夫だよ。ポットの注し湯はまだ温かい。それより……」
「っ……あ…」
「なあ……今日はどうした…?ケーキ、美味くなかったか?」
「!ちが……っ、そのー…」
「?」
薔薇の庭の、白薔薇が赤く塗られた木の傍が、ちょうど二人にはベストポジションだった。
特に手入れされたてであれば他の寮生は近付かないし、他人の目を避けるには随分と好都合なのだ。
名無しの存在はリドルも知っていたし、別に堂々と招待し、テラス席をセッティングしてお茶をすればいいのかもしれない。
けれどそれをしてしまうと自動的にリドルも同席することになるし、彼が如何に気の利く寮長とはいえ、トレイにも譲れないものはある。
「んー?どうした……名無し?」
「ッ……や…、そこで話しかけないで……」
「教えてくれないなら、こんなこともしようかな……と。……ン」
「…ッ……」
所詮、年頃の男なのだから。
どんなに理性的であっても、好きな女性を自分の隣に居させるときくらい、赴くままに行動したい。
寮の部屋のベッドで彼女を乱すことも、実家の部屋で、帰った途端にその身を組み伏すこともできた。
が、今のトレイが望んでいたのは、スリルを間近に、名無しを可愛がることだ。
「……や…トレイ……っ、ケーキなら…ぜんぶたべるから……待っ…」
「名無し……」
「~~……ッ」
庭の後方は行き止まりで腰をおろし、ピクニック気分でトレイの作ったケーキを茶請けに、紅茶を嗜む。
月に何度かのそれは、用意していたケーキがなくなった頃、大体はトレイが名無しに仕掛けることで、そこにしっとりとした雰囲気を孕ませていた。
緑緑とした植物の壁にもたれかかり、向かい合わせで名無しがトレイの上に座り、唇を重ねる。
今日もそのつもりで、トレイは片方の立て膝をつくり、ゆったりとした格好で名無しと午後を過ごしていた。
「え……?」
「ッ……だから…!少し、ふとったの……もう…ッ、言わせないでよ……!」
「!ああ……悪い悪い。……けど、どこも気にならないけどな、俺は」
疚しい気持ちがあろうとなかろうと、自分の上に好きな女を座らせるというのは、なかなかに気分のいいものである。
けれどこの日は名無しの様子のおかしさがやたらと目立っており、スムーズに彼女を受け入れることは出来なかった。
というのも、ピクニックバッグには、まだトレイの作った複数のプチフールが残っていたのだ。
自分の作ったものを残す名無しが気になるのは当然だろう。
まあ、同時に原因が想像付いてしまうあたりもまた、トレイの頭の回転の良さゆえだが……。
トレイは名無しの腕をとり、自分に引きよせはしていた。
が、向かい合わせではなく、彼女を自分にもたれさせる形として、後ろから優しく抱き締めていた。
「心配するなよ……今日のケーキは、あんまり甘くない筈だ……。それに、完食してくれないと拗ねるぞ?」
「ッ……ト…っ」
「ふふ……それとも…俺が食べさせようか?な……名無し」
「!……んん…ちゅ…」
「ん……」
名無しの後ろにぴたりと座り込み、見える耳元でふわりと息をふきかける。
そのまえには、唇についた生クリームを舐め掬いながらキスもしていたし、そのぶん彼女の頬はよく赤らんで見えていた。
果物の酸味が混ざったクリームは甘酸っぱく、キスを、いつもの何倍にも魅力的な行為に昇華させる。
艶めいた繊細な髪を掻き分けて耳朶を甘く食めば、名無しの身体は二度ほど震えた。
「ハァ……」
トレイの予想どおり、名無しがケーキを残していた原因は、彼女自身の体重に関係していたからだった。
もっとも、トレイにとっては名無しは何処をどう見ても細かったし、平均的であり、そして魅力的にも目に映っている。
そのあたり、複雑な女心というものがあるのだと彼は考えさせられていた。
まあ、悪気が無いのは分かっているし、トレイとしては、本音は完食して欲しいところだ。
甘く囁き、下腹部が疼くような提案をすれば、名無しは一瞬でトレイのそれに落ちていた。
片腕を伸ばして手中にした、素手で取った小さなケーキを、イチゴを含みながら口に入れる。
そのまま名無しに口付ければ、あとは同じ甘みを共有するだけだった。
「んく……、…ッは、ぁ……」
「……えっちなカオだな…お前」
「!!トレイ……ッ」
「は……ッ。……このまま、此処で抱きたいくらいだ」
「っ……もう…!それこそ、リドルくんに見られたらトレイが終わ……」
「…ああ……、ちょっと考えただけで汗が出たな。はは……」
トレイが咀嚼してくれたイチゴの果肉が甘い汁を垂らし、名無しの咥内に送られる。
触れ合った舌は心地よく、喉の奥に固形を保っていたケーキを流し込みたかったところを、邪魔をするは大好きなキス。
驚きに一度目を閉じ、再びゆっくりとそれを開いたとき、眼鏡の奥に光るトレイの眼差しに、名無しの身体は確かな反応をみせていた。
これ以上の口吸いはもう、ほかのことを求めてしまうから……。
だからどうかやめてほしいと心の中で願い、それに気付いたトレイは、自身もまた己を律する為、名無しから唇を離した。
「……まあ、一度此処でお前を抱いてみたいけどな…俺は」
「!……っも…」
「冗談に思うか?……半分本気だよ…、フッ」
「ッ……トレイのばか…。お茶……!」
「そうだな……飲み直すか」
トレイの言葉はなんだか、すべてがいわゆるフラグのように聞こえた。
名無しはそれが嬉しかったし、どきどきともしていた。
けれど、決して悟られてはいけないということも分かっていたのは、彼の為を思ってこそだ。
愛らしい背後からの抱擁が解かれると、名残惜しくもシートの上に向き合って座り直す。
トレイのティーカップを持つ仕草ひとつにも胸を躍らせながら、名無しはまだ残っていたケーキを今度は自ら手に取って、それを口元へと運んだ。
彼の見ていないところでまた走り込みをして、努力をしなければと思いつつ……。
頭のなかでうっすら、密やかに浮かべていたのは、同じこの場所でトレイが表情を乱す姿だった――。
tea time
20200330UP.
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