主≠監。
he got cuckold.
Please input the ur name.
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――――。
頭のなかで咲き乱れる花は最高に見栄えもよく、大輪と呼ぶに相応しいそれが沢山溢れていた。
欠点を挙げるならば、それはあまりにも儚く、そしておぼろげなものであるということだろうか……。
実体のないものに縋りついて得られる、数秒の享楽のためにいつだって必死になった。
やめられないのは、やめる気がないのと、本人がそれを望んでいるからだ。
快感の波が引いたところで、罪悪感を抱いたことなど一度もなかった。
「おや……?本当に型が消えかけていますね……名無しは治癒能力でもお持ちでしたか?」
「ッ………、私は普通の人間です……それに型は消えても、痕は……その……」
「ええ……名無しの肌はとても白いですから……やはり残すなら、目立たない場所に限りますね。僕としたことが、ふふ」
「……っ…」
自分の身体からジェイドが出てゆく瞬間を切なく感じて、もう少しだけ……と訴えていた名無しの声音はとても小さかった。
もっとも、静まり返った部屋でそれを耳にするにはじゅうぶん過ぎたのだけれど。
枕元、繋がったままのスマホも勿論のこと、彼女の声をしっかりと拾っていたであろう。
『………』
ひとつのセックスが終わりを迎えたとき、ジェイドは再び名無しのスマホに目を向けていた。
面白さについ声を出して笑いそうになるのを堪えながら、彼はいまだ光りっぱなしだった、画面の中の動く数字を追う。
そろそろかと、それはジェイドが一考していた矢先のことだ。
絶頂を迎え互いに満たされたのち、か細く名無しが声を出して間もなく、スマホは切れていた。
その瞬間を目の当たりにしていたジェイドは、トレイが頃合を見計らって、意図的に通話を終わらせたことをひとり察していた――。
「それにしても、本当に痛くなかったんですね?あんなに喘いで……」
「も……っ、言わないで……自分でも、驚いて……身体が変になって…」
「ふふふ……でしたら、また探しましょうね。名無しの好いところ……今度は何処を噛みましょうか……チュ」
「!ッ…ん……」
繋がりが解ければ、一気に相手との距離を感じさせられる。
目の前に居て、伸ばした手だってじゅうぶん届くというのに……。
そう思うのは心が通い合っていない所為だろうか。
或いは、互いを結ぶ関係もまた遠因に含まれるのだろうか。
別に自分たちの関係そのものを切ないとは思わなかった。
名無しが寂寥感に苛まれるのは、セックスが終わってしまうというひとつの過程を次に味わうまでの、その長い時間が苦痛だったからだ。
慰められ、何度も何度も愛されようと、彼女にとってはその関係が崩れることはない。
好きだと叫ぶのも最中特有。
たとえ本音が入っていたとしても、事実いまジェイドに溺れていても、あくまで名無しは、分かった上で口にしていた。
「………」
彼らだって同じ筈だ……そう思うのも自由であろう。
名無しの計り間違いは、トレイも、そしてジェイドも……好きという言葉の中に込めた想いが、今ではどれだけ膨らんでいたかということだった。
無論、彼女がそれを知るには、今はまだその兆しすらなかったのだけれど――。
「名無し。スマホをお忘れですよ……ほら、ちゃんと持ってください」
「あ……っ、ありがとう……ジェイド。――……ッ」
「……」
その後――。
長引く余韻に吐息を漏らし、目元に手をあてがう名無しの言動を目で追いつつ、ジェイドは彼女のスマホの電源を落としていた。
そんなことまでしなくとも、と思いながら、律儀な性格が出ているなと自嘲するのは勿論、腹の中でただ一人感じたことだった。
充電しっぱなしだったスマホは、ケーブルに名無しの髪が巻き込まれないようにそっと毛先を撫でて配慮も見せる。
ついでに抱き起こせば最後にきつくその身を両腕で包み込み、ジェイド自身も名無しの匂いと体温を味わい、胸を撫で下ろした。
「案外と、引き摺ってらっしゃるんですね」
「え……?」
「ふふ……ですから、お送りしましょうか?ハーツラビュルの方まで」
「ッ……ジェイド…っ」
「妬けますねえ……たったいま肌を重ねて、シャワーを浴びる時間を擲ってまで、愛し合ったばかりだというのに」
「ジェイド……ッ」
「!」
ふと時計に目をやれば、そこには名無しが帰らなければならない時間がしっかりと迫っていた。
名無し本人はというと、此処が夢の中ではないということもしっかりと自覚している。
性的に呆けていた頭も身体も、そして火照りさえも、儚く消えゆくのを受け入れていた。
「名無し……?」
体液を拭き、髪を整え、着替えてしまえばそれでもうお終いだ……。
また日が空くことだけは辛かった。
けれど、それでも名無しは、ジェイドとも事後を楽しむ方法をきちんと理解していた。
ただ、この日ばかりはそうもいかないと思ったのは、帰り際のらしくもない、ぎこちない態度が原因だろう。
まあ、名無しにはそうなった理由も分かっているのだが……。
「………」
新しく身体に仕込まれ、覚えてしまったものがあった。
ジェイドがやけにトレイの名を口に出し、変に煽られもした。
そのことを間際まで気にしていた自分にも驚いていたけれど、名無しは何より、自分のことよりもジェイドを気にかけた。
「……ふふ、言い過ぎましたね。お詫びします」
「っ……ジェイドの、言うとおりだから……」
「……?」
「…ッ……今日は…、ジェイドと会ってる日だから……ジェイドのことしか考えられないのは本当だよ……。でも、だから私は絶対、自分からは言わない…」
「名無し?」
「っ……二人とも……いつも相手の名前、口にして……ッ、……もう…――」
「!……フッ、…そうでしたか……ふふふ」
ベッドに置いたまま部屋を出ようとしていた名無しのスマホを手渡しながら、ジェイドは素直に彼女へと一言詫びをいれた。
それは自覚がじゅうぶんにあったからこそ言えた言葉だろう……。
名無しを煽る目的の為とはいえ、トレイの名を口にし過ぎていたことは、ジェイドも認めざるを得ないものだった。
ただ驚くべきは、トレイも同じだったということだ。
おおよその想像はついていた。
けれど名無しの態度を見る限りは、その想像の上を行くほどなのだろう。
ジェイドはそのとき、行為の所為で掻いた汗にかかわらず、身体の内側からゾクゾクとした気持ちを孕まされていた。
恐怖や畏怖の意のそれではない、ただただ昂ぶらされるような高揚感だ。
それは、トレイがいよいよ名無しを狙って、機を窺いつつ仕掛けてくると思ったからだった。
共有の約も何もかもの意味がなくなる、彼が本気で名無しに惚れてしまっているということ。
名無しの心を盗りに、そろそろ……。
もっとも、だからこそたとえその推察が固くとも、ジェイドは名無しのスマホでトレイを煽って良かったと思っていた。
そして鋭い歯を見せながら笑む表情には、またひとつ、企みを含ませながら――。