主≠監。
he got cuckold.
Please input the ur name.
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――――。
――。
「……フゥ…」
ハーツラビュルは自室の勉強机に向かって、無心でノートにペンを走らせる。
名無しがジェイドの部屋で彼に抱かれているまさに同じ頃、トレイは学生らしく本分を全うしていた。
「………」
ただ、集中しきれていないことをまるで裏付けるかのように、ペンを持つ反対の手にはスマホが握られている。
それを手放せなかったのは、部屋で自習をすることで嫌な感情を吹き飛ばそうとしていたからだ。
たとえ少しでも……とはいうものの、やはり胸に痞えるしこりは最後まで除ききれなかったゆえ、彼はスマホを持っているのだけれど。
まあ、気が付けば長らくの時間、名無しと最後に通話をしていたベッドに座ったままだった、なんて結果にならなかっただけましだろう。
都合よく自分を正当化して、何か違うことをしていなければどうにかなってしまいそうだと、トレイは思っていた。
「……!おっと……着信、か…、……!」
それはトレイが椅子を引き、その場で伸びをしていた瞬間のことだった。
うんと伸ばした手には変わらず、左右にペンとスマホ。
左手のなかが極小の振動を覚えて、耳に響く音色に驚くというのは、きっと誰にでもよくある話だ。
トレイが更に驚いていたのは、その鳴り響いた着信音にあった。
たとえばリドルやケイト、同じ部の連中から来るそれは、皆共通する音を設定していた。
逆を言えば、今トレイのスマホを震わせていたのは、その誰でもなかったということである。
「フッ……あいつ…」
自分は男だし、いちいち音を指定するなどという女々しい行為にわざわざ走るあたり、おかしいことなのであろう。
多少のイタさも自覚済だ……そういうことは、彼女になりうる相手にすべきものだとも勿論思っている。
――思っているけれど、それを差別化することで、トレイのその着信相手に充てる想いもまた決定付けられていた。
鳴り響くのは、名無しから着信があったときのそれだった。
「名無しか?なんだどうし……――」
そのとき、トレイが何の疑問も抱かずに嬉々として通話ボタンをタップしてしまったことは、彼の中で暫く引き摺る出来事となった。
具体的に言えば、次に名無しに会うその瞬間までは、少なくともだ……。
どうして嬉々としてしまったか、なんて他でもない。
シンプルにその文字通りのことがすべてだった。
自習中に抱えていた靄が、着信音が鳴ったことによりすっきりと晴れるのならば、喜んで耳にもスマホをあてるだろう……。
「?……おい、名無し……」
『――はぁ……ッ…あ……ん、……アッ…』
「…ッ……――」
『い……もっと…、突い……激しく…、なめ……ジェイド……ッ』
「!………ッ…」
それはたった数秒ほど前の、舞い上がった自分を殴ってやりたくなった瞬間でもあった。
嬉々として。
浮かれて。
どれだけ彼女からの着信を喜んでしまったことか。
一瞬にして応答したことに後悔して、耳元から頭のなかに入り込んでゆく音に覚える気持ちなど、トレイには逃避以外思いつかなかった。
『ジェイド……好…き、……すき…、んあ……キス、も……』
「………――」
混沌と動揺、トレイがぐらつく頭を右手で抱えたのは、握っていたペンが脱力ゆえに落下したからだった。
消えゆく握力、塞がらない口。
けれどそんな困惑した状況でも、トレイは名無しの番号から、そのスマホから、自分に着信があった意味を追求していた。
そのからくりはむしろ、解けない方が難しかっただろう。
経緯も、誰の差し金かも、すべて手に取るように分かるからこそ、苦悩だって加速するばかりだったのだから……。
「――名無し……?」
『ふ……ぁ、んん……!はぁ…アッ……ジェイド……、ジェイド…あッ……――』
「ッ……、っく……」
そのときトレイは眉を顰めながら、名無しとの通話を終わらせる直前に抱いた、違和感の真実まで辿り着いていた。
嫌な予感は的中していて、だからといっていざ、彼女の元へと乗り込むことができないもどかしさが、胸をきつく締め付ける。
自分は名無しの彼氏じゃない……ただのセフレでしかない存在だ。
それは電話の向こうで今名無しを抱いているであろう、ジェイドにも言えることではあった。
が、そのジェイドがわざわざ、こうして名無しのスマホを利用して発信してきているのだから、その先を考えるのは得策とは言えなかった。
牽制に牽制を返した結果が、また牽制など……それもこんな生々しい――。
延々と続くタイブレークのようなものとでも思わなければ、トレイは自身の身がもたない気さえしていた。
『ジェイド……もっ…、あ……ッ』
「……っ、……」
”俺が此処で必要以上に呼びかけないことも、君には分かっているんだろうな、ジェイド……。”
そう心の中で叫ぶトレイは、まんまとジェイドの思惑に嵌っていた。
二度三度名無しの名を呼んだあと、黙り込んだままトレイが愕然としてしまうことも当然織り込み済みなのだろう。
したがって彼女のスマホには当然何も響きはしないし、名無しがスマホの異変に気付くこともおそらくありえない。
もっとも、電話の向こうで二人が交わっているのであれば、そんなときに自分が多少呼びかけたところで、名無しが気付くとも到底思えなかったけれど。
脳内が花畑で溢れた状態の彼女が、ジェイド以外のことを考える筈はないのだから。
「………」
ゲームメイクの運び方、相手を罠に嵌める為の、その策略。
何度改まるべきか……。
ジェイドのすべてが恐ろしいと、それはトレイが再び痛感した瞬間でもあった。
「……ッ…、ん……」
そして皮肉なのは、こんなときでさえ耳元で響く、名無しの声音に身体が正直だったことだ。
落としたペンを拾い上げることも失念し、トレイは左手のスマホを一度も耳から離すことはなかった。
では右手はどうしていたか……なんて、静かに下半身に伸ばすほかなかったことが、彼の自尊心を良くも悪くも狂わせていた――。