主≠監。
he got cuckold.
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世の中にはついてもいい嘘が溢れているから、きっと自分も道を間違えるのだと思う。
それを正す気はあってもどうしても踏み切れなかった。
理由なんてない……。
狡賢くなってゆくことに嫌悪感が持てるのなら、元より既に、正直に生きられた筈なのだから――。
「来週……ん。大丈夫……何時がいいかな…」
『俺はできるだけ長く会いたい……ダメか?』
「ううん……じゃあ、この前みたいにお昼から……えっと……」
『そうだな……あと、またあそこに行きたい。……一日じゅうお前と二人きりで居られる……誰にも邪魔されずに済む』
「っ……うん。わかった……、じゃあそろそろ切るね……?電話ありがと……トレイ…――」
――握り締めるスマホは少し熱を帯びている。
切れかけていたバッテリーを充電するのに、コードを繋げたまま会話をしていたのが原因だ。
ワイヤレスのイヤホンを持参しなかったことを少し悔やみながら、名無しは暫くのあいだ、そのスマホを耳にあて通話を続けていた。
相手はトレイだったのだけれど、彼女にはそのとき、気を付けていたことがひとつだけあった。
『ああ。俺も早く会いたい……楽しみにしててくれよ?』
「ん……、ッ……――」
『………。また連絡するよ、名無し……じゃあな』
話をしていた数分間。
気がかりだったそれは、トレイに自身の声色を言及されはしないかということだった。
着信は向こうから……。
何食わぬ顔で通話ボタンをタップして、名無しは普段と変わらない様子を「演じ」、トレイに応答していた。
会話そのものも普段する内容と変わらなかったし、大体締めくくりが近付くと、日常会話を経て次に会う日取りを決めるのが定番だ。
都合の良いときを照らし合わせて、互いに合意すれば、最後の挨拶を済ませて終話を迎える。
さよならを言う瞬間、声音が上擦ったことを悟られてさえいなければ、名無しはそれでよかったのだが……――。
「……あ…、ッ……もう…」
「――……大丈夫ですね。ん……ちゃんと通話は終わっているようだ」
「ッ……ジェイド…、……!!あ……」
「万が一切れていなかったら大変ですからね……。傷つけてしまうでしょう?彼を……ふふ」
「……っ」
その日名無しは、ジェイドの部屋はベッドの上で、トレイからの着信を受けていた。
電話の出だしもまた、よくあるお決まりの台詞から始まっていたのはお約束だ。
今はひとりか?
少し話しても大丈夫か?
そうトレイに言われて、その両方に対して肯定的な返答をする……というより、させられる。
それはまさに、ジェイドに組み敷かれていた矢先の出来事だった。
「ん……最後に少し気がかりが残りましたね……トレイさん、お気付きになったかもしれませんよ?途中で息を飲んだりして……」
「、っ……ジェイドが…急に舐めるから……、んっ……」
「おや……、僕の所為でしょうか……?ふふ……僕としては、此処が弱い貴方の落ち度だと思うのですが……今日は耳に加え、首筋もとても敏感で……チュ」
「…ッ……あッ…」
「まあ……全身と言っても過言でないのは、いつものことかもしれませんが」
名無しがトレイに嘘をついたのは、セックスの途中、スマホの電源を切っていなかったことに対する、ジェイドに強いられたささやかな仕置きゆえだ。
当然、最初は受電を拒んでいた。
けれどベッドで長らくのあいだ戯れを成し、これからひとつになろうという機に着信音が響けば、ジェイドとしては興醒めも甚だしかった。
それも、よりにもよって相手はトレイである。
普段のジェイドなら気にもとめなかったところだろう……。
が、服を脱がした名無しの身体に残っていた鬱血痕を見るや否や、少なからず波打つ想いというのも彼には芽生えていた。
さすれば今は、多少の意地悪も止む無しだった。
「わざと……でしょ、……っ!ああ……」
「ええ……勿論わざとですよ」
「ッ……」
「ふふ……どう思いますか?名無し……もしも本当に気付いていたら、今頃彼は……」
「!……あ…、あッ……ぁ…」
「ん……、ご自分の部屋はあのベッドで……耽っているかもしれませんね?お一人で」
「…ジェイド……は、ァ……」
「……僕が少しアシストすれば、鏡舎を通って、ハーツラビュルまではすぐですよ……行かなくていいんですか?」
「……っ…ひど……」
その日名無しを呼び出すと決めて待ち合わせをした時、彼女の自分を見る嬉しそうな表情は、いつものそれと同じだった。
周囲を撒き、オクタヴィネルに入り、部屋に連れ込むときもまた同様だ。
ジェイドは自室の扉を閉めると、久々だったこともあって珍しく名無しを抱き寄せ、黙ってそのまま抱擁を続けた。
明るい毛色をした髪に鼻を宛てがい、女性らしいシャンプーの華やかな香りを感じ、彼女の体温と鼓動に安堵をみせる――。
「そんなこと……言わないで…、冗談でも……」
「どうしてです?………構いませんよ?僕は。名無しにとって悪い話ではないでしょう?最近ますます、トレイさんとの相性も好くなっているようですし……ふふ」
「……ジェイド……ッ」
副寮長というポジションは、色々とやることが多かった。
ゆえにトレイほどではないにしろ、ジェイドにだって抱える心労はないわけじゃない。
勿論、たとえば風邪でも引かない限りそれを面に出すことは皆無なのだけれど、安らぎたいと思う気持ちは他人と変わらないのだ。
名無しを抱くことでその穢れを浄化し、日頃の憂さも発散できるとあらば、面倒な感情を込みにしたとしても、ジェイドにとって彼女とのセックスは絶対に不可欠だった。
「ん……ちゅ…」
「っ…はぁ……ア…ッ……」
その面倒事を挙げるならば、ベッドの中で紡ぐ言葉の信憑性くらいだろうか。
そもそも快楽に身を任せているあいだは、好きの一言に嘘も本当もないのだが……。
何を言っても蕩け落ちる名無しを懐柔する手間など、ジェイドにはないにも等しいことだった。
「ジェイド……ッ」
「……、――……ふふ……」
そんな名無しにトレイを紹介して、各々が楽しんでいる状況を自らも楽しんで、何もかも首尾よくすべては進んでいた……筈だった。
ジェイド自身もその違和感に気付いていたし、腹に含む感情の正体にも、何となく心当たりはあった。
トレイがいつも抱えている、一人で葛藤しているあの醜い気持ちのことだ。
いまは確実に、ジェイドの中にもそれが胸中淀みを見せ、極小ながらも渦巻いていたことが唯一、彼を驚かせていた。
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