主≠監。
may be a crush
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――――。
実際、周囲から付き合っているようにしか見えなくても、そう見られていたとしても、自分たちがそれを話題にすることは絶対になかった。
口にするのはあまりいいことじゃない……そう思ったのは、身体だけの関係である者ならば、それを心がけるべきだという勝手な先入観があったからかもしれない。
たとえ現実的に結ばれない関係でも、ベッドの中でだけは実っているのだから。
疑似恋愛で、身体はじゅうぶんに気持ち好かった……筈だ。
「ん……ッ…、トレイ……時間はあるから…っそんなに急が……!んん……」
「チュ……、ああ……いっぱいあるな…でもする……ん」
「ッ……ん、ぅ…っ……」
濁された言葉に込められたトレイの気持ちは名無しと同じだったのだから、二人の向かうべきが一瞬で定まっていたのも当然だ。
大きな街にはない筈がない。
通りを一本ずらすだけで、男女がペアで歩くには相応し過ぎた。
「は……んん…ッ」
小慣れた足取り、手慣れた操作。
それを隣で見ている限り、トレイはこういう場所に来るのは初めてではなかったのだろう。
彼の方が歳も上だったし、知り合う以前に過去の交際相手や異性と来ていると考えるのは、何らおかしなことじゃなかった。
エレベーターの中で抱き寄せられて、微かに感じた汗の匂いが、自分の背後には今トレイが居るのだなと思わせてくれる。
こんな偶然、きっと二度とない。
本当に嬉しかったからこそ、名無しも一時の時間、彼との非日常を選んでいた――。
「トレイ……ッ…はぁ……!ん……」
「ああ……時間はたっぷりあるんだけどな……けど、こういうトコロに来ると逸るよな、やっぱり……フフ」
「っ……」
「ん……キス、オレンジの味がする……何か飲んでたのか?」
「ッ……じゅ、ジュース……。本屋に入る前に歩きながら……」
「!はは……そうだったのか。美味いよ……だから舌、もっと伸ばして?名無し」
選択した部屋の扉を開けると、一気に現実から遠ざかった。
名ばかりの意味を成さない閉ざされた窓が開放されることもなかったし、暗い照明が一気に、二人のあいだに流れていた場の雰囲気に艶をかける。
そこは互い、それなりに重い参考書を購入した後に来る場所ではまずないだろう。
それでも欲しい気持ちは我慢できなかった。
何気ない一人での外出とはいえ、めかし込んでいた名無しにトレイは欲情していたし、名無しは純粋にトレイと遭遇した、偶然というシチュエーションにときめいていた。
「…ん……ッ」
「はぁ……。…此処、バスタブも大きいし……お前とゆっくり風呂にも入りたいんだけどな……後でいい?」
「っ……でも、汗が……きれいに……」
「ああ……お前の汗、舐めたい……。それと…もう熱くなってる筈の、お前の蒸れたココも……たっぷりしゃぶりたいかな。今すぐに」
「!む……、ット……、あ……ッッ」
「ん……」
入室して、ベッドまでは迷いなしのほぼ一直線。
そこに一度なだれ込んでしまえばもう、自分の意思では起き上がれないと名無しは思ったし、逃げられないのもほぼ確実だった。
だからせめて横目に見えた洗面所、先にバスタブに湯を張りたいという気持ちが彼女にはあった。
「あ……っ」
折角来たのだからシャワーで汗も流して、綺麗な身体でトレイに身を委ねたかった。
それは名無しなりに抱く女心だったけれど、そういう気持ちを薙ぎ払ってでも自分を押し倒し、キスに夢中になる彼の勢いは凄まじいものがあった。
もっとも、不思議なことに入浴が叶わないのを恨めしいと感じなかったのは、名無しも無意識のうち、トレイを貪欲に求めていたからだろう。
漏らす吐息をも口吸われ、舌を念入りに絡まされれば、自ずと性的な感情にも侵食される。
押し返す腕の力も、気が付けば弱まっていた。
「は……ッ!ああ……」
「ん……ん、ッ…ちゅ……フフ…、どうした?もう抵抗しないのか……?」
「ッ……抵抗したって…お風呂に入れるわけじゃない……もん…」
「ああ……そうだな。流石、相変わらずお利口さんだ……ん」
「!ひゃ……ぁ…」
「ハァ……、可愛い声……いっぱい聞かせてくれ…此処では遠慮しなくていい……名無し」
耳に響くのはただ、トレイのねっとりとした声色と甘いリップ音だけだった。
用途に見合った補正が効いている所為か、ベッドは重心のかかった場所の軋みに嫌な感触はなく、まるで寝具が自分の役割を理解しているようにも思えた。
名無しの部屋のものよりも大きく、トレイの部屋のそれよりも広い。
どんなに手を伸ばしても、端にすら届かなかった。
「はぁ……ッ」
服の上から全身に彼の手が行き交って、生地が肌に纏わりつく。
涼しげな格好をして出かけていても、帯びた熱は外へ逃げてくれない。
どころか、それをトレイによって増幅させられていれば、名無しの息は瞬く間に上がっていた。
「んぁ……あッ…」
「チュ……ん…」
「ト……ッ……あぁ…」
部屋の空調は適温だ。
が、早くも熱の影響か、名無しは暑そうに赤ら顔をさらけ出す。
無駄な抵抗が字の如く無駄だと分かっているからこそ、トレイと溺れることを早々に選んでいた名無しの判断は、ある意味どこまでも正しかったのだろう。
キスの夢心地に脳までとろけ、舌が離れれば、名無しはもの欲しそうに唇を求めた。
「フ……エロい顔……んん」
「!ん……ッ…はぁ……んぅ…トレイ……」
「そんなにキスばかりねだって……他にして欲しいコト、あるだろう?ん?」
「っ……脱…がせて……も、熱くて……」
「それだけ……?」
「、……部屋、今よりももっと暗く……!あ……」
「ハッ……そういうのじゃなくて…な?……お前の身体に、俺がすることだよ……」
「ん……ッ」
「寮の部屋と違って、此処は外に気を遣う必要もない……俺とお前の完全に二人きりだ。……だから、いつもより喋らせるぞ?」
トレイに指摘された自身の表情が、彼が言うように既に淫猥になっているのかと疑問に思えば、名無しは目を見開いた。
驚愕の顔をしたその額をコツンと同じ部位で触れられ、からかわれついでに所望していた唇が何度も重なる。
ふと、今すぐにでも抱きたい……そう言い回す割りには、トレイにはまだゆとりがあるように見受けられた。
いつもよりその余裕を前面に押し出している気がしたのだ。
彼は寮でも散々自分を組み敷くけれど、見えないプレッシャーや不安も抱えている筈だという仮説は否めない。
確かに副寮長という立場、背負う肩書きに何処までも反した行為……。
欲望のまま走っていれば、その背徳感は広がるばかりに違いなかった。
「ん……あ…」
「……フ…、今日も可愛いの着けて……誰かに見せるつもりだったのか?」
「ッ……誰か…って……」
「んー?……その辺の男とか…?お前、声かけられることも少なくなさそうだし、すぐついて行きそうだからな……。或いは、ジェイドかな……?」
「……!そんなわけ……ア……ッ」
「!あっはは……っ。冗談だよ……ムキになって……フフッ。そういうところも可愛いよ……ん…」
学園内の自室がどんなにプライベートな空間でも、どんなに計らっていようとも、起こらないとも限らないイレギュラーに無意識に怯えるのはきっとおかしなことじゃない。
そんな葛藤をもしも本当にトレイが抱きつつ名無しを手中にしていたのならば、それらを枷としないこの部屋で、これから起こることは彼女にとってどんな地獄となろうか。
その形容に込められた意味がただの天国よりも上の境地ならば、名無しに正気でいられる自信はなかった。
眼鏡の奥に見える、まばゆさに満ちたトレイの瞳は自分を捕らえて離さなかったし、トップスの裾を掴む五指にさえ、熱く力が入っているのも伝わっていた。
ベッドに倒されて覆い被さられ、身の上を制圧されたときに名無しは気付くべきだった。
代価を払って二人で独占したこの一室。
タイムリミットが来るまでは、トレイは決して自分を離さないだろうということに――。