主≠監。
heat haze
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――――。
「オレ飽きたからマジでシャワー浴びてくるね~。あとよろしく」
「……ふふふ、……相変わらず自由ですね、あなたは」
自由――。
そう口紡ぐジェイドの言葉に込められた皮肉が、どうしてか目に見えて怖かった。
決して言葉にはしないそれは、言い換えればただの気まぐれだ。
胸中に孕む新芽が渇く。
だから名無しは水が欲しかった。
物理的にも、精神的にも、何かしらを施してもらわなければ、心が枯れそうだった。
「!」
「おっと……どうやら飽きたのは本当みたいですね……。お訊きになりましたか?フロイドが今閉めた扉の音……ふふふ、少し驚きましたよね?」
肩が竦んだのは大きな音が立った所為だ。
名無しは離れゆくフロイドの背を最後まで追うことはなかったけれど、彼が本当に部屋の端、シャワールームに向かっていることだけは理解していた。
飄々とした態度、目元を細める表情も、面倒と口漏らすわりには楽しそうに見えた。
再び掻いた汗を流す為、フロイドの関心は、既に名無しからシャワーへと移っていた。
「っ……あ…、……」
朦朧とする意識に、それでも共に一度は絶頂までのぼりつめてしまった。
捌け口として惨めな思いをする傍ら、そんな扱いでも拒めないほど残る、フロイドへの恋慕。
歪んだ情も気持ちもいまだに捨てたいと、名無しの心の中ではいまだに自分同士が争いをみせている。
それがどれだけ不毛なことかも承知の上で苦悩すれば、自ずと顔色は曇りゆくばかりだというのに……。
「ッ……ジェイド…、!や……」
「大丈夫です……貴方のことを教えたら、フロイドが先に貴方を抱きたがっていたものですから……僕は引き気味、遠慮していたんですよ。だから落ち着いて」
「な……っ…」
フロイドがシャワールームの個室の扉を強く閉めたのは、どうやら不機嫌だからというわけではないらしかった。
単に力強かったという理由が当て嵌まるのは、逆に名無しとの性交を終え、勢い余って清々しい気分でいたともとれよう。
長身は膝を曲げてしゃがみ込み、名無しの傍でそうやって話しかけてくるジェイドに、名無しは嬉しさを隠しきれず不意に目を潤ませた。
「…、……またそうやって……嘘…」
「まさか……ふふ。ですが、確かに怯えていましたね?先程までの僕を見る貴方の視線……とても痛かったです」
「!うそ……、ッ…あ……」
「嘘だったら、僕はいま貴方の頭を撫でていませんし、早々にこの身を貫いていると思いますよ…?キスも愛撫も省いて、弱りきった……けれどフロイドに感じていた、この身体を」
肉親相手とはいえ、既に他人に汚されて、そのままの状態だった名無しに好き好んで優しくするジェイドの言動もまた、彼女にはなかなか理解し兼ねるものはあった。
入室時だって冷ややかな目をされた。
日中廊下で会ったときのような柔和さなんて、微塵も感じられなかった。
名無しが嬉々として涙目になっても、フロイドと同様にジェイドのことも怖いと思うのは当然だろう。
交互にその顔を使い分けて、会う度会う度、彼女の奥へと侵入してゆく……。
その恐ろしさはどうにも形容し難かったし、それが性癖を的確に突いているのだから、悔しいに決まっていた。
「それに……僕が傍に居るのというに、貴方はフロイドの声で……ふふ。まあ……上手くないとも言い切れないところがありますから、僕もそこは責められません。本当に複雑です」
「……ッ…ジェイド……!ん……」
それはまるで水中でもがく、泳ぎの下手な自分を近くで煽り続けるかのような……。
行き止まりまで追い詰められ、逃げ場を失った哀れな状況にも等しく錯覚できた。
きっと、迫られた時にかけられる慈悲が、ジェイドの場合は選択肢が多かっただけだ。
ただ犯されて、それでも感じるがゆえ、結果オーライだったのがフロイド。
が、ジェイドはそうじゃない。
ちゃんとして欲しいことを殆ど叶えてくれる、気持ち好いことを沢山教えてくれる。
一緒に、夢を見てくれる……。
それがたとえ、誘惑の果てに見るフロイドとは違う地獄だったとしても、少なくとも名無しはジェイドの存在に救われていた。
「ん!んん……チュク…ンッ……は、ぁ…」
「ちゅ……ん。……こうしたかったのでしょう?構いませんよ……いくらでもして差し上げます……ほら、もっと口を開けてごらんなさい」
「いやッ……だめ、ジェ…!んん……ッあ……ふ、んぁ…」
「開けなさい、名無し……あまり手間取らせないでください。僕が貴方を抱きたいんです」
「!ッ……、ジェイ……」
「……フロイドに抱かれるのを近くで見ていれば、僕だって焦れますよ……。嘘だと思いますか?」
ジェイドは本当の顔を見せてくれない。
仮面を何枚つけているのかもわからない。
巧みに丸め込まれて唇が重なっても、名無しが素直に口腔をゆるせないのは、簡単な女だと思われたくなかったからだ。
たとえ、それが今更だったとしても……。
二人で自分を統べる為、二人なりの策が何重にも張り巡らされていることくらい、もう嫌でも分かる――。
ただ、それでも名無しは、フロイドには与えられない、ジェイドだけがくれる愛情を今すぐにでも欲しいと渇望していた。
その身を押し返せなくても結局誘惑に甘え、蜜の塗りたくられた言葉を耳に、あまりにも容易く唇を明け渡す。
曇りがかった表情に赤らみが戻り、再び身体が疼くのは程なくしてのことだった。
名無しはジェイドに抱き起こされると、今度はジェイドが、その堅い座面に背を預けた。
「!ん……ハァ…」
「ふふ……顔を赤くして……可愛いですよ」
「ッ……、っ……ジェイド…」
「さあ?シャワーの音が聞こえてきたでしょう……?フロイドのことはいまは忘れて、僕と気持ちよくなりましょう?……僕の名無し――」
心の隙を突くように、片方ずつ、色の違う瞳に吸い込まれる。
揺らぐ陽炎が空に消えるように、気持ちも、願いも、何もかも盗まれる。
ジェイドに跨らされた名無しは、甘く見つめられたその瞳に身を焦がすほど全身に熱を孕み、彼への急いた恋心を抑えられずにいた。
元々傾いていたその慕情、また自分はこうやってフロイドから乗り換えて、少しの蠱惑に踊らされるのか……と、そう悔いても、どうしても欲望は止められなかった。
ジェイドのことが好きだと――。
「ッ……」
優しく触れられた後頭部は、髪を巻き込んできつく、優しく抱き寄せられる。
再び重ねたジェイドの唇はとても柔らかくて、あたたかくて、やはり離れたくないのだと酷く痛感させられた。
「…い……」
「?」
「ッ……して…?抱いて……ジェイド……ちゃんと、ちゃんといっぱい……――」
「……ええ……、畏まりました…――」
――嘘の上手い男だ。
同時に下手だとも思った。
こんな汚れた身体に、じっくりと、ねっとりと彼の綺麗な指が伸びて、舌が優しく露出した肌に触れてくれる……。
キスに込められた熱情は確かに本物だった。
けれど名無しは、言葉や手のひらを使い下から自分を愛でるそのときのジェイドが、微笑の仮面をつけた元で愛撫していることにもいよいよ気付いていた。
そして気付かないふりをして彼に感じていることに、ジェイドが気付かない理由もまた、皆無だった――。
heat haze
20200605UP.
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