主≠監。
heat haze
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――――。
会場の正門で最後の挨拶を簡単に済ませると、瞬く間に輪は解け、部は解散した。
各々が帰路を行く夕刻前、空は少しだけ快晴に赤が混じり、一日の終わりが着実に近付いていた。
「……――」
名無しは部員全員が散り散りになる様子を暫く見届けると、周囲に見知った生徒が居なくなったのを確認して、そのまま体育館の方へと戻った。
いくつかの部は既に試合を終えていたけれど、対戦カードも多く、試合開始時間に差のあったこの日は、まだ数校が同じ会場に残っていた。
だから別に、名無しがひとり会場へUターンするというのは、特に不自然なことではなかった。
「……ッ…」
敷地に戻って変わらず耳に入ったのは、いかにもバスケが行われているとわかる無数の音色だった。
緊張感がなかったのは、それが試合ではなくただのダウンだったからだろう。
身体を動かしているらしい皆々の楽しそうな声も、コート上を朗らかにしているのがよく伝わっていた。
ドリブルの音。
バッシュとコート面が摩擦し合う音。
ゴールネットにボールが吸い込まれてゆく音に、掛け合いも続くプレイヤーたちの声音。
その全てが尊くてずっと聞いていたいと感じるも、名無しが恐らくこれから耳にするのは、それらとは一切無縁のものだ。
「………」
正門から館内に戻るまでのあいだ、名無しは開いたスマホでメールを確認していた。
ミーティングの最中受け取っていたのは勿論、ジェイドからのものだ。
彼は予告どおり本当にとあるロッカールームを確保しており、扉に記されている部屋番号のプレート画像が、そこに添付されていた。
「ッ……」
部活のあいだは切り替えられた。
だからもう一度だけうまく演じなければいけない。
今はもうバスケとは程遠い、自分の別の顔になりかわる瞬間がそこまで来ている。
「……大丈夫…」
鼓動が速まり、緊張で息が短くなって、足も段々と竦んだ。
が、行かない理由も名無しにはないのだ。
「すぅ……はぁ…」
――やがて数分ほど歩みを進めると、到着したその扉の前で深く息を吸い、ドアノブに手を掛けた。
何をされても、平然としていられますように。
弱音を零さず、彼らの前でしばらくのあいだ、従順でいられますように。
そうして込めた願いを脳裏に焼きつけて、名無しは静かにドアを引いた――。
「ばぁ!!」
「ッ……!!ひ……ッ」
「あっはァ!おつかれ~……お前居たんだねー……久しぶりじゃね?なに……元気してたの?」
「…っ……フロ…!!わ……」
そのとき、名無しは自身に落ち度があり、まんまと失念しているものがあることを思い出していた。
それはどんなに頭のなかで段取りを組んでも、色々と覚悟を決めていても、フロイドという男を前にすれば、それらすべてが無意味に終わるということだった。
度を超えた気まぐれによる制御出来ない性格。
お手上げにならざるを得ない状況。
それらを何度と経験していても、日が空くと抜けてしまう呆けよう、その情けなさったらなかった。
「アー……お前バカなの?んなトコにずっと突っ立ってたらバレんじゃん……折角いい場所おさえたのにさー」
「っ……あ…」
「ほら来いって……あはは」
「っ、あ……、フ……!……、ジェイド…」
ちゃんと深呼吸もして、ゆとりを持って手を伸ばした……。
その筈なのに、扉が開いた途端いきなり驚かされ、名無しはフロイドによって一気に余裕を失っていた。
同時に脈も不規則になれば渇いた唇がただただ震える。
その身は抵抗の余地もなく、名無しは瞬く間、二人が待つロッカールームへと連れ込まれた。