主≠監。
heat haze
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季節と一緒に、自分の気持ちにも何か変化があればいいとずっと思っていた。
けれどそんなに簡単に変われるのならば、そもそもこんなに苦悶することもなかっただろう。
「……はぁ…」
――数ヶ月ぶりに来た会場であちらこちらから響く、バッシュの音が耳に心地よかった。
日々の練習を見ていても感じるけれど、自分はバスケが好きで、だからマネージャーにもなったんだと再認識させられる。
が、部活のノートと、スコアブックを持つ手にはどうしても力が入ってしまっていた。
「…ッ……」
思い出してしまうのだ。
初めて声をかけられて、舞い上がったあの日のことを。
のこのこと後ろをついて行き、天国と地獄は紙一重だということを教え込まれた、あの瞬間を――。
――――。
「………」
それはとある晴れた日のことだった。
名無しは部活でよく来る体育館に、彼らと関係を持ってからは初めて訪れていた。
ただのきっかけに過ぎなかったその場所は、間隔が開いても、その建物を見るだけで身体が疼く。
一向に忘れられなかったのは、ずぶずぶと、あの二人に自分ものめり込んでいたいい証拠だろう。
「……――」
あるときは薬を駄目にされ、あるときは置き去りにされた。
朝まで付き合わされる日もあれば、またあるときは傷心を慰められもした。
飴と鞭ばかり交互に、時には偏って浴びせられて、身体は調教されゆくばかりだった。
「……」
終わりのない葛藤を終わりにして、すべてなかったことにしてしまいたい。
そう思いつつ、それでも恋慕し続ける彼らへの想いも名無しにはあった。
肌を重ねた時にだけ得られるもののために猫撫で声を自ら零して、都合よく腰を振る。
なんて、そんなはしたない真似も本当にやめるべきだったし、早急にやめたかった。
「……やめられるなら、こんなに苦しんでなんか……」
到底気持ちの変化も期待できそうにないというのに。
何という体たらく。
それはきっと意思の弱さだけが原因じゃなかったし、そう思えたのは心のどこかでやはり、名無しがどうしたって求めていたからだ。
フロイドとジェイド……二人のことを――。
「……ふぅ…」
打ったため息は一度だけ。
――というのも、きっかけが生じた場所に居た名無しは、必死で目の前の仕事を今は全うしようとしていた。
既に始まっていた、対戦校とのバスケの試合。
最終クオーターまではただひたすらに、コート上を走り回る仲間へ声をかけた。
そうすることで気持ちを無理やりにでも紛らわせて、なるべく考えないようにしていたのだ。
マネージャーとてミスも怠慢も許されない。
だからきっちりとペンを握って記録を残したし、スコアボードの緊張感ある点差には、それを広げる為にベンチから立ち上がり、夢中になって味方を鼓舞し続けた。
「…っ……」
ここまでしなければ、頭のなかから二人は消えてくれなかった。
場所柄、特に今はフロイドが……。
ブロックは違えど、校名が記載された対戦表を見たとき、名無しの胸は動揺と高鳴りで張り裂けそうだった。
彼も今、同じこの会場の何処かに居るかもしれない……。
その情報はどうしても名無しを懊悩させ、実際彼女の視野は見事に狭窄していた。
狭まった視界に貶められる。
無理にでも考えないようにした結果、自分に首を絞められる――。
「おや、あそこに居るのは……――」
――名無しは試合に集中しながら、まだ鉢合わせてすらいないフロイドを気にするあまり、彼の応援に来ていたジェイドに見られていたことに気付いていなかった。
彼女がジェイドの存在を認識したのは、試合終了後……コートから退場して向かった、控室までの廊下で声をかけられたときのことだった。
「こんにちは、名無しさん」
「ッ……!な……」
それは奇しくも最初の日と酷似しており、名無しのメンタルを削ぐには、じゅうぶん過ぎる状況でもあった。
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