――――。


ずっとずっと同じ体勢を頑なに強いられた。
長らくジェイドの上に浅く座らされていた意味が、そこでやっと、はっきりとした気がする。

こうして一瞬でも思考できただけでも凄い方だろうか……名無しはそう虚ろに痛感していた。

もっとも、今は同じことを考え続ける余裕など本当になかったし、今度こそ気が狂うと思ったのは、恐らくはいたって自然な発想だ。


耳に響く、自分の嬌声が酷くうるさかった。

そして呆れながらも漏れ続けるそれを嬉々として聞いている……ジェイドとトレイの顔を見るのが、名無しはただただ怖かった。


「――あ…あッ……！んぁ…、舌……やだぁ…嫌ッ……！！ア……」


ベッドの天蓋を仰ぐ時間が増えたのは言うまでもないことだろう。

かくかくと揺らぐ頭に、その脳内では異常値を示すかのような強い快楽が、突如として注がれ続けている。


全身を駆け巡る悦は本来名無しが望んでいたものだ。
けれど、こんな形じゃない……。

こんな屈辱……こめかみや腋、腹部に吹き出る汗は、余計に名無しの身をいやらしく演出していた。


「やめ……トレイ…らめ……舌離して…っ、ねえ……」

「ン……ふふっ…、ジェイドが言ってただろう？……貴方、同時に攻められたことなんてないでしょう？……って」

「…ッ……」

「今日は初めて尽くしとも言ったよな……？俺がクンニしてるあいだ、ジェイドはお前にキスして、胸なんかもずっと舐めてたな……けど、そんなのはこの前やった」

「何言ッ……っ！だめ…だめトレ……ぃ！！あ……ッ」

「チュ……んん」

「こんな……ら、…ア……ッ、まって……！こんなのすぐきちゃう…だめなの……ト…、ジェイド……ッ」


尻の甘い肉感、割れたその隙間に近しい部位がジェイドの唇と隣り合わせならば、当然名無しの性感帯は上を向き、恥丘は半ば自由の身でもあった。

ゆえに膣中に舌を伸ばすジェイドが居ようと、トレイが同時にそこへ近付くのはあまりにも簡単だった。

強い刺激に名無しが背を弓なりにしていればなお容易い……。
表皮だって、親指ひとつでめくれるほどそこは簡単に解れていたし、恥ずかしそうにトレイの視界圏内に入る実の熟れようは尋常じゃなかった。

たとえ、自分たちの顔が近付こうとも……そんなことを考える方がくだらないらしいことも、二人の行為を以って痛感できたことだ。


「おねが…ッ……いや…こんな……こんなの初めて、…だから……ッ！！イヤ……」


セックスのさなか、ジェイドに挿入された過程で、指や玩具を芽に添えられることは過去に何度もあった。

けれどジェイドとトレイ、彼らの舌が陰部の一箇所に集まるなどという行為は、名無しにとっては未知の体験がすぎたことだった。


今この瞬間、頭と身体でまた新たな快楽を記憶させられ、なまあたたかいその二枚が好き勝手、縦横無尽に蠢いている。

その感触たるや、ただの一箇所への愛撫が齎す全身に巡る心地好さは、何を相手にしても比じゃなかった。


「やだ……い、……んあァ…っ！！きもちいい……ッ、クリも…どっちもきもちいい！だめも、…イキそ……ッ」


元々弓なりになっていた名無しの背中はよりぐっと湾曲し、開脚していた足は、尻肉からハムストリングにかけて大いに引っ張られ、痙攣さえ匂わせる。

どれだけ否定に否定を重ねども、無慈悲に続けられるのはランダムに舌が這うそれと、唇が窄まって吸引される、刺激の強い愛撫ばかりだった。


そしてすぐそこまで来ているように感じてしまった兆しは、充血した先端めがけてか、それとも膣中の好いところか……。

どちらか分からなくなる程どちらも気持ちが好すぎて、名無しは改めて天蓋を仰ぎ、艶めかしく嘶いた。


「――ひぃ……ンぅ、ひぁッ…いっちゃう……！！きもちいい…アッ……いくい、く……――ッ」


自分の身体ももう、ロクに支えられなかった。
ジェイドが曲げ続けていたその足へここへきて背を預けると、名無しはぐったりともたれ込み、開口したまま必死に酸素を求めた。

もたれ込んでしまったことで、まるでジェイドに借りができたように錯覚した彼女がそのとき感じた絶頂は、何とも言えない背徳感に塗れ、それがまた快楽を増幅させていた。




「ハ……はぁ…はあ……―――」


ジェイドの腿が名無しを支えていなければ、きっとその身はベッドへと倒れ込んでいただろう。

脱力しきった見てくれから、嫌でも伝わる倦怠感。
そこに絡みつくのは絶頂の後を引く、ねっとりとした余韻。

彼女は今どんなに気持ちが好くて、多幸感に溢れていることか……考えただけで隆起するのは、肌に触れてから主張を止めない自分たちの象徴だ。


「ン……ハァ…。フッ……クリトリス、まだ勃ってるな……可愛い」

「！！ん……ト……や、ら……」

「気持ちよかったろ……？スケベな顔して…甘い声漏らして……上向いておもいっきりイッて……めちゃくちゃ興奮したぞ？」

「ッ……――こんな…、はじめて……わたしもう……ほんとに…」

「ははっ。……ジェイドの舌……お前のナカにずっと挿入ってたな。今も……――けど、もっと太くて硬いのがそろそろ欲しいんじゃないのか？」

「！…ッ……ら、め…」


名無しの頬の赤らみは、まるで捲れた陰部の内側、その赤と同等の色味になっていた。

それだけ卑猥ということだろう……。
健康的な肌色に赤や桃が滲めば、自ずと気持ちも扇情的にさせられた。


「あ……」


名無しは自分の目元を片腕で覆い、息絶え絶えにトレイの言葉に返答をする。

自身の上肢すべての重心をジェイドにかけていたことを悪いと思いながらも、起き上がれずに拵える下がり眉は、今の彼女か弱さをどうにも表していた。


トレイは既に陰核から舌を離し、名無しの反応を窺う為、その可憐な表情を飄々と見下ろしている。

頬に伝っていた雫を指で拭いながら舐め取れば、甘じょっぱい味覚が彼の咥内にほんのり広がった。


「こんなにいっぱい気持ちよくなって……それでもまだ欲しいよな？知ってるぞ？お前はえっちな子だから」

「っ……ちが…」

「違わないさ……一、二枚の舌だけじゃもう、お前は満足できない……かといって指を何本か挿れたところで、そんなことも今更だ」

「いや……もういい…っも、ふつうがい、い……、……！？」


顔にあてがっていた腕をトレイに奪われて久々に視線が重なると、名無しは更に頬を赤らめた。

トレイの瞳は確かに鋭利で、その部位だけでも、猛々しい雄という印象を今でも漂わせている。
たとえ優しさが僅かに匂おうとも、舐陰時と同様、そのサディスティックな様子は健在だった。


「ッ……」


名無しはジェイドにだらしなくもたれ続けており、自身が起き上がる体力は、絶頂の所為でその回復が遅れている。

そんな彼女の耳に触れるトレイは、わざと続きを示唆してねっとりと息をふきかけていた。

甘い誘惑に艶な声色……。

高波が引き、名無しにまともな判断力が戻ってきた頃合を見計らうあたりは、実にわざとらしかった。


「トレイ……」

「ん……？ふふ、ほらな……そんなに甘えて……フッ」

「あ……っ」

「確かに、俺ももうずっと興奮しっぱなしだ。……けど生憎、これからお前のナカに挿入るのは、俺じゃないんだよ」

「？！あ……」

「まあ……ぶち込む前に少ししゃぶってくれれば俺はいいさ……ハハ。――見せてくれ……ジェイドに抱かれるお前を」


名無しがそこで迎えていた絶頂は、その全身に相当の快楽を齎していた。

膣中と実、どちらともに舌が這った感触は、暫く忘れられそうもないだろう。


少し前に一度達った、乳首でのそれだって酷い衝撃だった。
けれど根本的な質の違いが、どちらの方がよかったか……なんて不毛な比較を起こさせない。

無意識、潜在的に、彼女にとっての絶頂はすべてが崇高で、心より欲していたものなのだ。


だからやめられないし、拒んでも拒んでも、身体は勝手に望んでいた。


「ジェイ……ド…？」


そして波が引けばまた、新たな肉欲に駆られるのもそこにある事実にほかなかった。

トレイの甘い囁きが名無しの隙を突き穿ち、身体が中から何度でも濡れてゆく。

その流れのまま、脇腹を抱かれた名無しはトレイに寝かされて、ようやく背中をベッドにつけることを許されていた。


が、長い長い前戯が終わって真に抱かれる瞬間がきたのかと思えば、彼女をそこで組み伏せたのはトレイではなく、同じく起き上がったジェイドだった。


「ッ……あ…ジェ、ィ……んん！！」


先刻の、浅く騎乗していた立場から体位が一気に逆転する。

ジェイドに掴まれた両腕はシーツに縫い付けられ、重力に従いひらひらと垂れる襯衣の裾が、名無しの汗ばんだ腹筋にソフトに触れる。

くすぐったさが臍の下をズクンと疼かせれば、ずっと舐められっぱなしだった陰部からは、膣液と、彼の唾液がどろりと溢れる感触が走った。


起き上がったと同時、スラックスを下着ごとずらしていたジェイドが名無しに下肢をなすりつけると、複数の体液に彼の先走りが、秘所でじっとりと混ざり合っていた。


「ん……、んく。――ふふ……こんなに零して……僕の顔も、こんなにビショビショです」

「ッ……あ…、ジェイド……」

「クリもナカも最高だったでしょう……？僕とトレイさんの舌が、卑猥にずっと……フッ。いつもの指やローターでは味わえないものがあった筈ですよ」

「や……っ、ジェイド…もう……ッ」

「貴方は本当にはしたない人です……だから好きなんですよ……ふふふ。さあ、これからより一層、一緒に好くなりましょうね…――」


身を起こしたジェイドが自分にさらけ出す姿の卑猥さというのは、寮服が乱れている時点で察しも付いていた筈だった。

が、今はそう察した以上の色気や艶が醸し出ており、腕を振り払う所作ひとつとれず、名無しは彼の瞳に吸い込まれる。

再び芯から身体が震えれば、確かに満たされた陰核が改めて勃起して、表皮からその顔を覗かせた。


「…ぃ……！あァ……ッ――」


ベッドの端ではいつぞやあのときと同様、壁にもたれたトレイが中心を隆起させ、その様子を見てはにやついている。
何かが肌にぶつかる音が聞こえたのは、膨れたそこが圧迫される苦しさに限界を感じ、結果、ボクサーから解放した陽物が自身の皮膚を弾いたからだろう。


「ッ……ジェイ……あ…、っ――」


やがて名無しの広げられた股に伝うジェイドの熱が直接あたれば、その瞬間、彼女はまた気持ち好くなりたいと無意識に願っていた。


「ッ……あ…、んく！！チュ……んん…」

「ちゅ……んん…、ン……ハァ…。……名無し」

「…っ……」

「ふふふ……そんな声を出して……気持ちよさそうですね。ああ…」

「！！ひ……ぁ…」

「ナカ……とろとろにとろけていますね……焦らした分だけ、ぐっしょりと…。僕のをこんなにも包み込んで……フッ」

「言、わ……あッ……ジェイ、ド……んあぁ…」

「それに素直で、僕は貴方のそういうところにとても感心します…名無し……？もう、あまりイヤって叫ばないんですね、ふふふ」

「ッ……い、……！んん…」

「チュ……、ふふ……拒まれるのも勿論好きですが、今日はもう言わせませんよ……かわりに、貴方が僕に叫ぶのは、ほら……お分かりでしょう？」


ぎしぎしと呻るトレイのベッドは、ジェイドの寝具のそれとは違い、軋みはどこか大らかに聞こえていた。
まあまあに規則的だったのは、一定の動きが始まったからだ。

それはピストン運動そのものであり、ジェイドが名無しの中に挿入り、出し入れを繰り返しているまさにその音だった。


「あ…ァ……！んぅ、……おッ…」


この部屋に来てから、その殆どの時間をペッティングに費やしていたような気がする。
挿入前、ジェイドはふやけた唇を何度も自ら舐め回して、名無しの漏らした蜜の味を噛み締めていた。

その日名無しは潮こそ噴いていなくとも、似たような感触は何度も浴びせられた。
ジェイドの顎や、首に垂れた彼女の体液の量は、それこそ計り知れたものじゃないだろう……。

指で拭い、糸を引く甘露を、音を立てて飲み干される。

名無しが見上げたジェイドの姿は、そんな姿さえ様にもなっていたし、尚且ついやらしくもあれば、その胸はキュンと高鳴るばかりだった。


「あ……んぁ…ッあ……っあ…」

「フ……ん、…ッ……名無し…」


正装が着崩れ、普段から身嗜みが整っているジェイドが自分の上で息を乱し、眉を顰めて感じている。

視覚的、内面に感じる懸隔は絶大で、名無しはふと、そこから派生した熱情やときめきも止められずにいた。

それはできれば二人には悟られたくない、彼女の抱く、ささやかな女心とでも形容すべきか……。

もっとも、反応や所作のひとつひとつにそれらが散りばめられていれば、ジェイドとトレイが気付かない理由など、当然なかったのだが――。


「あ……ッ…！！」


自分に挿入ることを望むジェイドの濡れた怒張を目にしてしまえば、建前上拒んでいた名無しがそれを本心で拒むことは、到底無理な話だった。

陰部に擦り付けられた陽物がねちねちと音を立て、ゆっくりとその内部へ沈まされてゆく。

本当に求めていたものが与えられた彼女には、素直になるしか謝意を示す道がもはやなかった。


焦らされた反動、ねだった結果に齎される欲望の檻がいま、理性と共に壊される……。

挿入を決めてからの名無しは見違えるほど本当に素直で、ジェイドはそういう面を持つ彼女のことも、ジェイドなりに相当好いていた。