主≠監。
ferocious moray F
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フロイドの気まぐれは今に始まったことじゃないし、いい加減慣れるべきだった。
そうは言っても理屈ではないし、予想がつかないからこそ、気まぐれという喩えもあてはまるのだが……。
「え……」
「あー、心配しないでねー?ジェイドにはオッケー貰ってるんだ~」
「…ッ……」
フロイドもいつかは名無しを自室に連れ込み、その身をベッドで抱きまくりたいと愚痴を零しているのは知っていた。
確かに図書室やラウンジばかり、シチュエーションとしては、女一人を襲うのにはじゅうぶん過ぎる場所だろう。
けれど、彼がそれを継続できる理由がないのだ。
何せ、気分屋なのだから……。
「さ、入ってください?名無しさん」
「!!……フロイド…っ」
「あは~やっぱ最高ー……そのビクッてなる表情オレめっちゃすきー」
「…っ……」
「お前さぁ……結構変態なトコあるじゃん?変態はさぁ、それらしいセックスじゃねえと満足できねえじゃん?だからさー」
「ッ……いや…、あ……!」
この日の名無しは、フロイドの相手をしなくてはならなかった。
スマホの着信はメッセージで、夕刻、彼からストレートに送られてきたのは「しよう?」の一言だった。
返事を打つまでもなくその一言にどう返せばいいか悩めば、間髪入れずに電話が鳴る。
これに応答しないままでいれば身の破滅を意味しているのだから、名無しは出るしかなかった。
「……っ」
「ジェイドもさーイイ匂いするよね~……どうー?押し倒されて。シーツきもちいいでしょー?目ぇ閉じてスンスンしたら思い出す?優しい優しいお前の好きなジェイドをさ~」
「あ……ッ」
「そんなに嫌がらないでくださいよ……名無しさん?」
「!やめ……ッ」
電話に出て、今日はどちらの相手をするのか問う前に言われたのが、ジェイドは不在という心を折られるフロイドからの言葉だった。
相変わらず気怠そうに、けれど好奇心を持ち、早く自分を抱きたくて彼がうずうずしているように感じたのは、名無しも少なからず同じ気持ちだったからだ。
抗えない身体は、そろそろ二人との繋がりを求めてしまっている……その頃合を見計らったかのように、いつもスマホが鳴り響く。
名無しが無意識にジェイドに抱かれたいと思った日に限って、相手はいつも違っていた。
フロイドが嫌なわけじゃない、むしろ……。
そしてその果てが結局いつもの、どちらも欲しいというそれだ―――。
「オレさー、あのとき失敗したかなーとかちょっと思ったんだよね……でもお前マジで間違えてたじゃん?」
「っ……それは…、……!このこと…ジェイドに」
「あー……ジェイドが気付いてねえわけねえじゃん……?だってジェイドだよ?あの。山を愛する会の。あはは~」
「…ッ……やっぱり…!ん……」
「だから間違えたこれは~オレからの罰ゲームでーす。いいじゃん気持ち好くなれる罰ゲームとか、普通ないよー?………ほら、服を脱いでください?名無しさん」
「ッ……んん…や…」
名無しが寮内に連れられたとき、フロイドに腕をとられていたゆえ、少しでも目の前の視界はいつもと違えるだろうとばかり思っていた。
フロイドの部屋が何処にあるか自分は知らない……ジェイドのそれの隣かもしれないし、案外とめちゃくちゃ離れているかもしれない。
名無しが目を見開き、奥歯を多少なりカタカタと鳴らして動悸を起こしたのは、二人して立ち止まった場所がジェイドの部屋だったからだ。
何を血迷ったのかと腕を引いても、当然フロイドは逆に引き返し、抱き寄せた名無しをその部屋へと容赦なく押し込んだ。
見慣れたジェイドの部屋、もしかしたら彼が中で待っているのでは……なんて考えすら及ばないのは、気配がまるでなかった所為だろう。
扉を閉め、施錠したフロイドが名無しをベッドへと押し倒すと、うつ伏せられたときに感じたジェイドの匂いが鼻を掠め、彼女の気持ちを一気に色付かせていた。
「フロイド……ふざけ…」
「だからさー……此処は使っていいってジェイドが言ってくれてんだってばー。いいですよ……彼女もさぞ僕を思い出してくれることでしょう…って言ってたよ?」
「……っ」
「ぷ……っ。なに?嬉しいんじゃん……お前が心配しなくても、ジェイドはちゃーんとお前のこと考えてくれてるよ~?よかったねーはいはい両想い~?」
「!あ……ん…」
「でもさ、ジェイドのベッドでオレとヤッて罪悪感とかねえわけー?あーあるわけないか……お前オレのことも大好きだもんね……ほら…んむ」
「……!!」
ジェイドの枕にめがけて顔をぽふりと落とした名無しは、背後で両手を拘束されて立ち上がれずにいた。
膝から下をぱたぱたとしても、フロイドが座り込んできたことでうまく身動きもとれなかった。
耳の裏側をスーッと舐められ、次の瞬間に軟骨を強く噛まれれば、そこには複数の型が残る。
まるで刃先に押されたような感触は、フロイドの歯の鋭さをよく物語っていた。
「ん……ッ」
自分も寝具で名無しを抱きたい……。
そう日頃思っていたフロイドが、ジェイドの部屋を最初に選んだのも、単なる気まぐれのひとつにすぎない。
もっとも、自室で抱けば乱れるに決まっていたベッドシーツの後始末が面倒だという理由は、勿論込みである。
ジェイドと違って、事後にあっさりとしていた自身の性格を考えれば、自室を選ぶのは賢明ではないとフロイドなりに思っていたのだ。
それに、此処での名無しの反応を見るのを余程楽しみにしていたことは、彼の饒舌っぷりを見れば名無しにも強く伝わっていた。
相当ご機嫌な有様も、いつも以上に耳を攻められていたゆえ、嫌でも分かった……。
「ほら……脱いでください?下着姿になって、僕に貴方を見せてください」
「っ……やめ…ほんとに……、ッ……」
「ん……名無しさん?」
「…ッ、ひ……」
そして何より、あの日おかしたミスを餌に、まんまと釣られて今はフロイドの手の中だ。
此処はジェイドの部屋なのに……本当に悔しかった。
フロイドの、ジェイドを装う演技に逐一胸を高鳴らせる恥ずかしさに、かけられる息遣いまで勘違いしてしまう。
そんな己の馬鹿さ加減にもはや呆れられなかったのは、その度に疼く身体がもう濡れて、確かなものが今すぐ欲しいと感じていた所為だろう。
「あはは……なになにぃ可愛い下着じゃん…。あ……ここ赤くなってる~ジェイドが付けたの?」
「ッ……」
「ウソーー。オレだよね~ちゃんと覚えてるって……ん。……ジェイドはいつもこの辺だよねーほら。いーーっつもスケベなトコに付けてさーハハッ……きわど~」
「んっ……」
「……ふーん、なぞっただけなのに濡れちゃったー?だからオレお前のこと好き~マジで楽なんだもん………ほら脱げよ」
「!」
ジェイドのベッドに名無しを背面から組み伏せたとき、枕元に見えたものがフロイドにはあった。
名無しの髪の毛だったのだけれど、それは今、この瞬間に抜け落ちたものではないと直感で思った。
部屋を隅々まで綺麗にしていて、清掃も決して怠らない。
そんなジェイドが、寝具周りの手入れを甘くするわけがないことはフロイドもよく知っている。
引き裂かれようのない絆を持ち合っていようとも、煽られたと彼が思うのは当然だろう。
そりゃあ部屋を貸せと言った時、ジェイドは二つ返事でイエスと答えるわけだ……。
「………」
フロイドのご機嫌は引き続き変わることはなかった。
けれど普段なら宿ることのない、闘争心のようなものに火は点いてしまっていた。
燃やす相手は勿論名無しだ。
とことんまで辱めてやろうと、その瞬間、フロイドは目を細めてせせら笑っていた。
――――。
「あ…ッ……フロイド…んんっ」
「…ッはぁ……ああ…キモチイイ…そんないきなり絡みついてくんなよ……、ほんっとスケベだねーもう…」
目に見えている筈の、フロイドと分かりきっている筈の彼に演技で翻弄され、抗えずに服を脱いだ名無しは、自身の下着姿を彼にさらしていた。
ベッドの上でもたつき、ヘッドボードに背を向け逃げ惑う。
膝を擦り合わせて両腕は胸元を覆えば、恥じらいの典型的な姿がフロイドの目に広がった。
もっとも、すっと伸ばした長い腕で膝を掴めば、フロイドは名無しの股を開かせ、より彼女の羞恥心を誘うまでだ。
「……」
耳や頬をはじめ、肩や膝なる曲線が紅潮していることに、ジェイドはいつも高揚を覚えるらしい……。
同時にその身を隈なく、舌と指先を使って愛でたいのだと、常に自分に謳ってくる。
が、その気持ちだけは、どうにもフロイドには理解できなかった。
愛でる暇があるならば、彼はさっさと挿入して、赴くままに腰を動かしたかったのだから。
「ん…ァ……あ…っ」
「はは……やらし~。………気持ち好いですか?名無しさん……そんなにいやらしい声を出して」
「ッ……ら…ほんとに、やめ……ひゃ、ぁ…」
「こうやって……強引にされるのも悪くないでしょう?ふふふ……僕も興奮します」
「…っ……フロイ…ド……おねがいだから…」
下着姿を眺めて視覚的に昂ぶったフロイドは、自らも服を剥ぎ捨て、名無しを組み敷いた。
動けないよう、四肢には四肢を以ってそれをシーツに縫い付ける。
なすり付けた下半身は、欲望の渦に沈みたさゆえ、トクトクと疼いていた。
「あ……ッ」
鎖骨や鼠蹊部を、甘く、爪を立てながらなぞったとき、肌色によく目立つ鬱血痕にフロイドが触れれば、名無しの顔は更に真っ赤に染まった。
どちらがいつ、どこに付けたものかをそれなりに覚えていたフロイドは、わざと間違えることで彼女を一瞬傷つけ、またそれを癒し飴と鞭で踊らせる。
すべての衣類を脱ぐことを強要すれば、名無しは唇を噛み締めながら下着を二枚、ベッドの下へと震える手で掃った。
それを中立ちで見下ろすフロイドは、名無しが裸になった途端、再び彼女に肌を密着させた。
「……ッ…」
陰部にじわりと伝わる熱が彼の昂ぶりを表すと、すぐに「来る」……と名無しは感じ、思わず慄き、腰を引いた。
まあ当然、そんな所作は無意味に終わるのだけれど……。
爪が食い込むようフロイドに掴まれたくびれは、すぐに下腹部同士の密着を許していた。
そしてまた、キスひとつも降らされないままに迎えた彼の陽物が、自分の膣中にすんなりと挿入ってゆく――。
再び抱いた悔しさに、それでも名無しの陰部は、ジェイドのベッドシーツを既に濡らしていた。
――――。
「は…んぁ……フロイド…や……ッ」
「ん……ねーきもちいい……キモチイイ…、ん…ぁ……ッ」
「ッ……」
「あは……ベッドっていいねー……えっちしてるって感じがすげえしてさー…、ああやべえ……ゾクゾクしてくる…ァ……」
「…っ……フ…ロィ……」
「ジェイドが此処に連れ込みまくるの分かるわーなんか……ねえ名無しも気持ち好くてたまんないよねー?めっちゃエロいカオしてるよ……?スケベ丸出しのさ」
「や……ァ…ッ、ん…」
枕に後頭部をつけ、フロイドの腰から下に目が移った時、その下半身がいきり勃っているのは見えていた。
垂れる銀糸も筋を伝い、竿そのものはひとつの生き物のようにぴくぴくと動いている。
まるで意思を持っているかのようにも思えた。
フロイドのそれが陰部のひくついた入口にあてがわれると、まともな愛撫は殆ど皆無だったのだから、普通ならば簡単に挿ることなど容易じゃなかった筈だ。
だからこそ、あっさりと挿し込まれた瞬間にはいつも、自分が自分で普通じゃないことを肯定している気がして、名無しはそれが屈辱だった。
フロイドは名無しに忍び込み、早くもグチュグチュと音を上げた結合部を見下ろし、口角をにじり上げる。
華奢な膝裏を抱えていたそれを面倒に感じれば、自らの両肩に踵を促し、より奥を突く体勢にも身構えを改めた。
引いては突くを繰り返せば、肌と肌がぶつかる音にも互いに反応して、更に性的欲求を煽り合う。
名無しは力なく喉の奥より嬌声を上げ、濡れた唇から流れる唾液もまた、シーツの色味に濃淡を与えていた。
「あ…そうだー……ジェイドがさ~枕の裏にイイもの置いとくって言ってたんだっけー……なんだろ」
愛無き律動によがる自身を恥じながら、虚ろな瞳をフロイドに晒す……。
が、そのときフロイドは上肢を倒して、ふいに名無しを抱き締めた。
もっとも、そうしなければならない理由があっただけに過ぎないことが、直後に分かってしまったのだけれど―――。
「……え…、ッ……!!待……っ」
「!……あはは…ジェイドおもしろ~……ちゃっかりしてるなあもうー。コレ、なーんだ?」
「――いや……それは…、それ……ッ」
フロイドに全身を密着させられるだけで、まだ胸がどきどきとする。
また初恋を思わせるような、変わらず場に似つかわしくない感情が名無しの乙女心を擽れば、そんな想いを抱くのも烏滸がましいとばかりに、視界に広がるものがあった。
枕の端に手を入れるため、フロイドは名無しの耳元に自分の顔を付ける。
息遣いに首筋を撫でられてゾクゾクしても、彼がついでにそこを舐めてくれる、なんてことはありえなかった。
これがもしジェイドなら……そんなことを思ったから、罰があたったのだろうか。
悪夢は現に。
そしてそれは、フロイドの手のなかに――。
「見つけちゃったんだから使わない手はないよねー?ヘンタイちゃんには持って来いじゃん?んーー……」
「あ…!!っ…ひァ……ッ」
「ハハー…ッ、オレのが挿入ってるから、お前のココ広がっててさ~……クリが剥き出しだもんね…どう?めーっちゃあたってヤバいんじゃない?まあそのカオ見てりゃあ分かるけどさ」
上半身を起こしたフロイドが律動を一旦止め、名無しによく見えるようにわざわざ彼女の目の前に晒したそれは、あのローターだった。
名無しに忘れられるわけがなかった……。
ラウンジで、ジェイドに抱かれた時に使ったものと同じそれを見せられたのだから。
血の気がさっと引き、そうであるにもかかわらず、速まるばかりの脈が全身を強張らせる。
必然的に筒がフロイドを締め付ければ、陰唇もべっとりと彼に絡みつく……。
意図せず、動作なくして彼に悦を齎せば、フロイドは更にご機嫌麗しい様子で、高笑いを零していた。
「いや……いや!!やめ……」
「あはは…ッ、楽し~……お前もいやいや叫んでないでさー……うそつきだなぁもう。ほらもっと感じろって……クリきもちいいって言ってよー」
リモコンと少しの有線コードを持ち、名無しの目の前でローターをぷらぷらと揺らす。
そのときのフロイドの顔ほど、楽しそうで、同時に恐怖を連想させるものはなかった。
ローターを見てしまった瞬間、名無しはジェイドとの行為が脳裏によみがえり、身を激震させた。
思わず頭中に降ってかかった、あのときのジェイドの艶やかな表情を思い出してしまったのだ。
その瞬間、またじわりと愛液が夥しく滲んだのを自らも感じていた。
それはつまりフロイドにも伝染しているということだ……が、名無しが何を想って濡らしたかを悟っても、フロイドは変わらず楽しげに笑っている。
ジェイドに対するささやかな悋気めいた感情を持つよりも、彼もまた、目の前の名無しを凌辱することでいっぱいゆえ、胸が躍っていたのだろう。
ボタンに指を添え、設定は当然のように、はじめから一番強力な振動を。
ローターは名無しの陰核にまんまとあてがわれ、フロイドはそこで律動を再開させた。
「あて……っ、いや!はなして…ほんとに……ッ!ら、め…フ……ロ…――?!」
「どうですか?名無しさん……その甘い声で、気持ち好い…って。もっと激しく突いてって……聞かせてください。……僕だけに」
「!!……あ…ァ――…ああ……ッ、いく…いくイク…――ッッ」
名無しがどんなに手を伸ばしても、フロイドに届くことはあっても、彼女の理想の未来は絶対に訪れない。
振動で頭もクラクラして、口角から垂れる唾液はその量が増していた。
口外へと半端に露わになった舌も、艶が加わり、名無しはまともに口が訊けなくなるほどフロイドの下で悶えていた。
それだけ齎されていた下半身への刺激は、あまりにも度をこえた強さだった。
強烈な快楽しか感じられず、それ以外の感覚が麻痺すれば、気付かないうちに狂った腺が名無しに涙を流させる。
そんなとき、フロイドがトドメを刺すかのように激しい抽送に織り交ぜたのは、不意を突く彼による演技だった。
偽りの声音に膣は窄み、芽が狂う。
足はつま先から頭の天辺まで、一気に駆け上がるあの官能的な気持ちを……名無しはもはや抗う術ひとつなく、自身の兆しを感じていた。
「は……はぁ、…ッ……はぁ―――」
我慢などできるわけがなかった。
潤み目を晒し、虚を突かれ、抱き締められた。
たとえそれが紛い物であっても、耳元で自分を愛でるジェイドの声に反応しない理由が、彼女にはなかった――。
――――。
「――ハァ………」
「……わぁ…、すっご……お前さァ…」
「…!見……いや…もう抜いて……ッ離して…ください……おねがい―――」
ベッドはそれなりに軋んでいた。
頭を何度も左右に振り、胸は乳首が、どちらもぴんと勃っている。
乱れた髪の隙間から見えた名無しの淫猥な表情は、腰を突き、ローターをあて続けていたフロイドを根底から昂らせていた。
「みないで……ふ……、ぅ…ッ」
時々カタカタと聞こえるのは、上下の奥歯があたっている音だろう。
震えの止まらない名無しを見続けていると、乳輪に浮き立った鳥肌ごときにもいちいち興奮して、どうしようもなかった。
なによりフロイドがたまらないと感じていたのは、自身が名無しの内部に浸りながらにして、まだなお溢れ出続ける淫水にまみれていたことだろう。
そのなまぬるさに抱く享楽は、いつものセックスとはどうにも比較しようもないほど最高だった。
自分をここまで楽しませてくれる……フロイドは更に、名無しの恐怖に怯える顔と熱に溺れる表情の、どちらをもまだ求めた。
今ならばこれ以上ないほどに、自分なりに、彼女をどこまでも可愛がってやれる自信もあった。
「っ………ッ――」
ローターの音は少し邪魔だった。
けれどフロイドがスイッチを切ることはない。
陰核にあたり続けるように、互いの身体のあいだにうまくそれを挟ませて、律動に集中するためにローターに取られていた手を解放する。
絶頂後、名無しがどんなに息を乱し、我に返っていようが嫌がろうが、彼には関係なかった。
まだまだ続けて、犯してやる……それだけだ。
「いや…あ……んぁ…」
「ッ……名無し……可愛い…お前ほんと……」
「!!やめ……いや…」
両手で名無しの腰をぐっと引き寄せて舌を出し、片眉を歪ませる。
今度は自分自身の言葉で。
どこまでも容赦なく嬲って、何度だって淫水を垂れ流させるつもりで。
でたらめに絡みつく肉に抱擁されたフロイドの陽物は、射精の為にその硬さをまさに今、顕著なものとしていた。
名無しの両手の自由を尊厳と共に奪い、艶めかしく打ち付けた下肢は、ぴくぴくと動く臀部がその予兆を表している――。
「…ッ……、あー無理オレも今すぐイク……今イキたい…だってお前やばいんだもん…、なにこのスケベでグショグショなマン……、んぁ……イ…」
「!!イヤ……いま…だめ…ほんとにイッ……!……らめ、なの……ジェイド…―――ッ、!……」
「………」
射精の瞬間なんて毎回同じだ。
そういう、どこか冷めた気持ちを覆していたのが、名無しと交わる今だった。
「………」
別にわざわざ、求め合っているからと言って情熱的にキスをすることもない。
フロイドはフロイドらしく相変わらずのままだ。
それでも全身に這う多幸感が、今日はいつもとは比べ物にならないほど彼を高揚させていたし、早くその瞬間をと、腰を何度も何度も打ち鳴らさせた。
「――………」
「あ…ッ……、フロ…――ッ」
フロイドの気まぐれは今に始まったことじゃないし、いい加減慣れるべきだった。
たとえそれがベッドの上、淫らに肌を重ね合っているときでも―――。
「!!ん……ッ…ン…!」
「――………ねえ、イクよ~?名無し……グッチョグチョに濡れたお前のナカをさー、オレので汚してやるよ」
「――…ひッ…ァ…!!」
「いいよねー?ジェイドに中出しされたと思い込んでればもう一回イケるよねー?お前スケベでヘンタイだからさ……!ほーら一緒にイこ?あ…ァ……」
実際に音なんて聞こえていないし、けれど敢えて羅列するならば、いま名無しが耳にしていたのは結合部の水音とベッドの軋み。
恥部で下敷きになっていたローターの振動と、それからあとは、自身の嬌声だった。
それ以外に確かに聞こえたのが、フロイドの中で、プツリと何かが切れたそれだ。
怖いとか、そういうレベルじゃない。
通り越えた先に感じるものが快楽だったなんて話は、きっと普通ならありえない。
怯えに全身が竦んでいる筈なのに、いつの間にか肩を抱かれ、うつ伏せに寝かせられた名無しが振り返らなかったのは、フロイドの目を見れなかったからだろう。
「あー……っイク…!名無し……っぐ、ア…ッ――」
名無しがフロイドの方を振り向けなかったのは、その恐怖に加え、彼に後頭部を抑えつけられていたからでもあった。
ジェイドの枕にである……。
息苦しくも微かに感じるジェイドの香りに敏感になって、どんなにフロイドの態度が一変しても、その凌辱を脅威と思っても、身体は結局正直なまま。
呆れることも出来ないのは、快感が全身を這っていた所為だろうか。
それがどんなに情けないことか……自らが漏らす卑猥な声は、枕に挟まれ相殺されていた。
「……ッ…」
フロイドの顔を見ながらにして、素で、本気で呼び違えた彼の名前。
名無しがジェイドの名を紡いだ瞬間の、フロイドの表情の変わり様は一生思い出したくもないほどのものだった。
これが強要されて漏らすいつもの冗談であれば、どんなによかったことか……。
それでも名無しはフロイドの射精に合わせ、膣中で二度目の高みを得てしまったのだ。
奇しくも焦れることなく陰核にあたっていたままのローター、芽と膣の二点を犯された果てに見た白い景色……返す言葉も絞り出せないのは当然だろう。
いつまでも引き摺る耳元での、あの成りかわった、低くて甘い大好きな声。
巧みに人を惑わせるクラウンのようにジェイドを演じた、すべてをフロイドの所為にできる資格は、名無しにはなかった―――。
――――。
「あー……飽きた」
「ッ……フ…、……?まって…何、を……!!やめて……ッ」
フロイドは名無しを背後から抱き伏せ、彼女の抵抗のすべてを、力で捻じ伏せていた。
絶頂のための律動に意識を集中させ、射精直前に吐いた暴言は、フロイドなりの愛情表現のようなものだろうか……。
「ジェイドが言ってたー……コレでしょー?お前が飲んでる薬って~」
「お願……やめ…っ」
「なんかすっげえキモチよかったのに、終わった瞬間マジで冷めちゃってさ~……何でもいいからなんか踏ん付けたい気分」
「フロイド……!!」
二度も快楽の渦に飲まれながら、出されたあとはなんの保証もない……そう思えたのは、彼の気分の浮き沈みを身体でも心でも理解しているから。
名無しは身体の中でつゆとして溢れる自分の蜜にフロイドの体液が混ざる感触を覚えると、凌辱に耐えた緊張感が抜け落ち、そのままうつ伏せていた。
勿論、数秒の間はフロイドにも体重をかけられた。
じっとりと火照る肌を直に感じ、互いにひどく汗を掻いたのだなと思わされる。
けれど、彼は何往復かの短かな呼吸を正常値に戻すとすぐさま起き上がって、冷めた声色を名無しに聞かせていた。
「ッ……、な…」
「あ、なんかスッキリしたかもー……あはー」
「……ッ…」
ぐったりと横たわり、寝返りすら打てなかった名無しは、汗と体液にまみれた自身の身体を早くなんとかしたいとは思っていた。
が、それとともにもう少し、ジェイドの匂いのする彼のこのベッドで、このシーツの上で、彼を思い出していたいという誘惑にも襲われていた。
そんな名無しに、寮服に袖を通しながら見させる悪夢はフロイド自ら。
彼は名無しを変わらずいいオモチャだと思っていた。
けれど今だけは、その代償を目の前で払わせてやろうと、言葉と行動に慈悲無き槌を含ませる―――。
「…、……ッ…」
「ねーオレもう行くねー?お腹空いちゃってラウンジで何か食べたい気分だし。ちゃんと連絡は入れといてやるからさー……このあとはジェイドに送って貰いなよ」
「っ……や…ジェイドには……!こんな…」
「大丈夫だって……、ジェイドのベッドでオレとドロドロになるまでやってたって、ジェイドは今更引かねえし。なんなら慰めて貰えばー?お前が今欲しいのって薬より~……あは」
「ッ……」
横たわる名無しに背を向け手を伸ばした、彼女の鞄に入っていたポーチからフロイドが取り出したものは、小さな透明のケースだ。
その中身は、名無しがいつも、二人との行為を終えたあとに必ず飲んでいたピルだった。
自分たちが陸で過ごす為には魔法薬が必須だったように、見た目も用途も違えど、その薬は名無しにとっても、自分たちのそれと同じくらい重要な役割を担っていた。
フロイドはピルが齎すその効果をちゃんと分かっていたし、だからこそ、踏み付けて粉々にしてやりたいと思ったのだ。
彼にとっては、セックスを以って餌付けして、気に入った愛玩に一番向けられたくない機で牙を剥かれたようなものだった。
鋭い歯ひとつ持っていない、ただの人間のくせに……。
「はいこれローター。ジェイドが来るまでさ、それでしてなよ……きもちよかったんでしょ?」
「ッ……」
今までのセックスでいちばん気持ちが好くて、いちばん名無しが可愛く思えた。
いちばん自分なりに愛したつもりが、射精の直前、真面目に自分をジェイドと呼び、その落差、興醒めも甚だしかった。
もっとも、怒りをまだなお奮い立っていた性欲に換え、背後から犯すことで自我は保っていられたし、結局果てていたところ、自分もちゃっかりはしているのだ。
だから少し脅して、後日また可愛がってやるつもりでフロイドは彼女の目前、本来すぐ口にするのが望ましいピルを踏みつぶしていた。
やはり何があっても、彼もまた、名無しを手放すには惜しいと痛感しているということだ。
虚しく震えるローターを持ち上げ、振動部をひと舐めして彼女に軽く投げつける表情は、如何とも形容し難かった。
「じゃあねー名無し……あ、今度はおそうじしてね、ハハ……ッ」
それが、名無しがその日最後に耳にしたフロイドの言葉だった。
自ら肩を抱き、喉も、唇も震わせて、ジェイドの部屋に取り残された名無しにできたことは、ただ彼を待つことだけだった。
たったひとり。
生々しい事後を思わせる、フロイドのぬくもりの残った、ジェイドのベッドの上で―――。
ferocious moray2
20200426UP.
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