主≠監。
ferocious moray J
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相変わらず選べない。
それは欲張った結果降らされた、天罰かもしれない……。
「…ん……んむ、ちゅ…――。ハァ……」
「……気を付けてお帰りくださいね」
「ん…ッ……、あの…」
「はい?」
「……っ」
シャワーを借り、身支度を整えて、髪もきれいに結ってもらった。
ここまでされて、特にドライヤーをあてられていたときなんて、どんな贅沢だろうと名無しは思った。
「今日もお利口でしたね…可愛らしかったですよ……とても。また連絡します……次は是非、フロイドも一緒に」
「、…ジェイドは……っ」
「?」
「……いえ…それじゃあ――」
明け方、正門で別れることにはもう慣れていた。
寂しいという気持ちを押し殺して、自分は溺れてなどいないと何度も言い聞かせる。
それをジェイドにも思い込ませて進める足は決して軽やかなものじゃなかったけれど、ぬかるみに居続けては、またその鰭に踵を囚われてしまう。
帰りどきを見失わない為に心を鬼にして、名無しは寮内の部屋にも、ラウンジにも……そしてジェイドにも背を向けた。
この日、彼女がいつになく後ろめたさを抱えていたのは、他でもない…――。
「ジェイドー?ただいまー。ビッチちゃんもう帰ったー?」
「~……何処でその単語を覚えたんですか、フロイド……おかえりなさい」
「えーどこだっけ……まあなんかの本とかじゃねえ?…って、いやてゆーかそれくらい知ってるし~。そうじゃなくてさァ名無し……帰ったの?」
「ええ……、最後まで気にしていたようですよ?話そう話そうと……その懸命な態度はじゅうぶんに窺えたのですが、残念ながら彼女の口からは聞かされませんでしたね」
「あはー!じゃあさ次は二週間くらい空けるー?そしたら呼んでねえのに自分から来ちゃうかもよ?気になってーヤりたくなってー我慢できなくなってさァ~」
「ふふふ……それもいいかもしれませんね。ただ……二週間は長いかもしれませんねえ…今の僕にも」
名無しが自分の帰路を辿る為にジェイドと別れ、彼が律儀に、名無しの背を見送っていた矢先のことだった。
そこに来たのはフロイドだ。
フロイドは、ジェイドの隣は正門の鉄柵に寄りかかり気怠そうに立っているものの、何やらご機嫌の様子である。
生憎時間が合わず、フロイドはその日名無しを抱き損ねていた。
にもかかわらずの上機嫌なのはなかなか小気味の悪い話ではあるけれど、それはあくまで、情事に耽るための時間が噛み合わなかっただけだ。
待ち合わせ時は、ジェイドが自ら名無しを迎えに出るとスマホで連絡していた。
目立たぬように物陰でひとり彼を待つ……名無しは約束の時間が来て、そこでひとつ、致命的といっても過言ではないミスをおかしていた。
――――。
『遅くなりました、名無しさん。待たせてしまいましたか?』
『ッ……、いえ…平気、で……っ!?』
『あっははは~!何そのカオー。お前ほーんっとに今ジェイドのコト好きだよね~!!知ってたけどー。あんまりマジ過ぎてちょっと引くわ』
『…っ……フ…ロ…』
『あーいいっていいって……マジさー、毎回毎回嫌がってる割りにはスケベしてえからってちゃ~んと真面目に来るしさー。おもしれーわーホント』
『っ……』
『ああ大丈夫~、オレまたアズールにお遣い頼まれててこれからおでかけ~。ジェイドももうすぐ来んじゃね?まあその最高に恋してるーみてえなカオ早く見て貰えるといいねーあはは!』
『な……ッ』
本当は来たくなんてない。
好きで来ていたことなんて一度もない。
言い聞かせることだけは自由だし、何度でもできた……だから名無しは、それをいつも心の中で唱え続けている。
自分のあられもない姿をおさめたスマホに加え、卑猥な動画の残された、泣く泣く共有するマジカメのアカウント。
他にどんな理由と武器がこちらにあれば、呼び出しを拒めるのか教えて欲しいくらいだ……。
『じゃあオレ行くわー……ジェイドとごゆっくり~。……オレともまたいーっぱいえっちなことしようねえ……あは』
『ッ……』
まるで靭に飼われた、脆弱な生まれたての仔猫も同然だった。
非力でか弱く、水の中で息苦しくもがくように足をすくわれる……。
ジェイドが来る少し前、別件で待ち合わせ場所を通ったフロイドにまんまと騙されていた名無しは、振り向いた時の自身の表情を指摘され、どこまでも狼狽した。
誰が誰に恋をしている顔だったかなど……フロイドの誇張もあるだろうとはいえ、そんな表情でいつもジェイドを待っていたのかと思うと、虚しさが急に押し寄せる。
巧妙な演技に虚を突かれ、そのことをのちにジェイドには言えなかった名無しは、それだけ彼を想っているのだと、まるで自分で認めているようなものだった。
『名無しさん』
『ひ…!……ッ、あ…ジェイ…ド……』
『!おやおや……どうしました…なにかありましたか?約束の時間はまだ過ぎていませんよね……?』
『っ……いえ…なにも…。平気です……』
『?』
その後ジェイド本人が名無しの元に来ても、彼は相変わらず冷静だった。
こちらの動揺など気にも留めず、自身を匿い、オクタヴィネルの自室へと当たり前のように連れ込んだ。
部屋に向かっていたとき、抱かれた肩に込められた手の圧が、これからすることをどこまでも予測させてくれるのは気を紛らわせるための優しさか、それとも……。
もっとも、自分がどこか心此処に非ずで、フロイドの件を引き摺ったまま身を委ねる結果になっても、きっとジェイドは全て分かった上で容赦なくその身を抱くのだ。
いつもなら考え事の微かにしようものならば、気遣いの一言でも優しくかけ、セックスに集中させるくせに。
本当に狡猾な男だと思った。
別れ際まで知らないふりをして……。
そしてそんな男の、ジェイドの誘惑にまんまと乗ってしまうのが、所詮簡単に股を開く淫らな女でしかない自分だ―――。
――――。
「僕はフロイドの真似は上手くはないですからね……当惑させるどころか、逆に名無しさんを笑わせてしまうかもしれません……きっとムードが壊れますよ」
「あはは~。かもねー……雰囲気台無しじゃん。でもちょっと見てみたいかもー…オレも今度ジェイドになりきってヤろうかな~……名無しさん?つってさァあはは」
「~…よしてくださいよ……ふふふ。それにしても……可愛かったんですよ?今日の彼女も…僕にぎゅっとしがみついて。本当に離れようとしない……ふふ」
「―――……その離れようとしないのがまたイイんでしょー……独り占め~。………飼い殺しといてよく言うよ」
「……、タイミングが合わないのは本当に残念です……次は一緒に遊びましょうね、フロイド―――」
遣いを終えたフロイドが荷物を抱え、ジェイドと共に向かう正門から鏡舎までの道のりは、少し長く感じた。
重いものを持たされていたストレスがそう思わせていたのだろうか。
「…、……」
待ち合わせの直前も直前、スマホにはフロイドからのメッセージを受け取っていた。
だから名無しが、二人を認識し間違えていたことに、ジェイドは最初から気付いていた。
彼女にはわざと、知らないふりをしてみせた。
それでも打ち明けてくるかを一人でその場で賭け、楽しんだのだ。
我ながら悪趣味だなとは思いつつ……。
けれど、それもまたジェイドなりの名無しに示す、ひとつの愛情表現だった。
「………」
ジェイドが賭けていたのは、なんてことはない些細なものだ。
そう形容するには少し違ったかもしれない。
が、名無しが素直に口を開くかどうかで、その日のセックスの趣向を決めるつもりでいたのだ。
そして、自分のことを甘いな……とジェイドは感じていた。
終わった今となっては、結局なんの賭けも成立していなかったのだから、まったく嘲笑ものだった。
「……フッ…」
名無しが打ち明ければ、彼女が自力で、すぐにアフターピルを飲めるほどの余力を残して、そのアシストまでしてやろうと思った。
逆に口を噤めば勿論……。
それを飲む間も与えず、けれど愛情だけは散々込めて時間ぎりぎりまで、前者とは裏腹に凌辱の限りを尽くしてしてやろうと思った。
「ふふふ……」
名無しが何も打ち明けられないまま迎えた事後、彼女の体力はちゃんと残っていたし、事後は睦まじい微睡みさえ少し交わした。
満たされた多幸感に頬を染め、ベッドの中で擦り寄って、胸元に甘えてくる。
その仕草は、あまりの愛らしさに思わず大目に見てやろう……と、贅を含んだため息を零して、ジェイドが珍しく折れていた。
何せドライヤーまであててやるほどの、自身の名無しの気に入りようたるや、なのだから――。
帰路に着いた名無しは、部屋で自分のことを思いながら、ちゃんと夜を過ごすだろうか……。
ジェイドはそう考えると、どうにも面白くて口元が綻ぶのを止められず、それをまたフロイドに軽く嗜められていた。
もっともジェイドにとっては、そんなことは小事に過ぎないのだが。
彼の頭のなかは、大事な大事な愛玩道具のことをいつも想っている。
次はいつ、どのようにして愛そうか……沸き上がる欲望を募らせることばかりでいっぱいだった。
耽る妄想はことのほか愉快で、鋭い歯が垣間見えるその黒い笑みは、ひとりの夜、スマホの中の名無しを見つめるときにも、それは続いていた―――。
ferocious moray
20200422UP.
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