主≠監。
i bite u.
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関係者用の出入り口まであと少し。
その通用門を前に名無しが声をかけられていたのは、お昼に差し掛かる前の出来事だった。
「遅れちゃったな……行列、できていませんように……」
カレッジ周辺で道に迷っていたらしい一般の大人に話しかけられたまでは、まだよかった。
目的地を聞けば、そこはスマホの地図アプリを開けば余裕で案内出来る場所だったし、名無しはその場で口頭での説明をスムーズに続けた。
その際、足止めをくらった時間は僅かだ。
ゆえに焦りも無かったのだけれど、さあ今から自分も先を進もう……そう思い直したとき、再び同じ大人に背後から呼び止められてからは、すべてが上手くいかなくなった。
「はぁ……つかれた…」
迷っているあいだに落とし物をしていたらしいその大人は、名無しに手伝いを要求していた。
当然、名無しにそこまで配慮する義理はないし、余裕もまた右に同じだった。
断ることも出来たのを彼女がそうしなかったのは、元来の性格と、あとは、困っている人を放ってはおけないという素直な気持ちがあったからこそだろう。
自分の持っていた荷物を物陰に隠し、落とし物を探すこと十数分。
無事に見つかって喜んでいた大人がみせる名無しに向けられた笑顔は、少しだけ彼女の焦燥感を中和していた。
そして今度こそと、その場を離れた名無しが急いでカレッジの通用門を通って向かった先は、学食だった。
このとき、彼女の時計の針は、カレッジに通う生徒たちが昼食を摂っているまさに真っ最中をさしていた。
―――。
――。
「遅くなってすみません……今日の分です。お願いします」
数分後、通用口で関係者用の腕章を受け取ると、名無しはそれを見えるようにポケットに入れ、まっすぐ学食へと向かった。
持っていた荷物はそこに納めるものであり、到着すると、ゴーストたちが自分を心配してくれていたことが名無しを安堵させる。
定期的に、ただパンや食材を届けるだけの小さな仕事でもそれなりにやりがいはあったし、任されたことで手に入れられた幸せもひとつ、彼女にはあった。
その幸せをいつまでも持ち続けていたいし、長くここへ通える理由が自分にもあるというのは、同じ何かを共有しているようで、なんだか嬉しかった。
何か、なんてなんでもいい。
同じ気持ちでいられることがきっと大切だから……。
「それじゃあ……また三日後に……!!ひゃ…」
「遅せえよ……何かあったんじゃねえかって、ちょっと心配しちまった」
「っ……あ…」
名無しはゴーストに納品用の食材すべてを届け終えると、調理場の裏口からすぐにその場を離れようとした。
想像どおり、パンの入荷が遅れていた所為で学食には列が出来ていたため、これからそれを捌くゴーストたちの邪魔をしてはいけないと思ったのだ。
本当は、洗い場を担当する仲のいいゴーストと話もしたかった。
けれど今日ばかりはそんな時間もなく、名無しはまだ先を急ぐ理由を抱えていた。
もっとも、裏口で挨拶を済ませて扉を開けた途端、その理由のひとつが降りかかって彼女を驚かせていたのは、今日の印象的な出来事のひとつでもあった。
「ジャ……ッ、お昼は?もう食べたの……?」
「ああ……此処でお前に会える日は、大体早めに済ませてるぜ」
「ッ……そう…、あの……、……?」
「……」
さっさと返却する為に、腕章も既に手に持っていた。
我ながらせっかちが過ぎるのではとも思ったけれど、そうなるほどに気持ちが逸っていたのもまた事実。
が、名無しはふいに学食の裏口に現れたジャックに目を見開くと、ぶつかった反動で足元をふらつかせていた。
段差に倒れそうになったところ、彼女に胸を貸すジャックは冷静に名無しの肩に触れ、その身を支えた。
「ジャック……?どうし…」
「……人間の…男の匂いがする」
「!!」
名無しがジャックの登場に驚きを隠せなかったのは他でもないこと。
カレッジを訪れたとき、彼女の目的のひとつが、そのジャックと会うことだったからだ。
ただ、今は場所もタイミングもすべてがイレギュラーで初体験であり、脳内処理に時間を要した結果、顔が赤くなっていたことには自ずと自覚もあった。
腕章と一緒に、ゴーストから渡されたサイン入りの納品書を握り締める手にも、ゆっくりと汗が滲んでゆく……。
名無しはジャックの胸元から離れると、彼を見上げて赤い頬のまま口を開いた。
「あのね……ジャック……えっと…」
「~……とりあえずいつもの場所まで行くか。そこで会おうぜ」
「っ……ん…」
「……お前がそんなカオする必要なんてねえよ。大体分かるし、時間だってまだある」
「!……うん…。ありがと……」
「ッ……、ああ……じゃあ、すぐに来いよ?」
ジャックとの関係を知っているのはごく僅かだ。
サバナクロ―寮の生徒においては片手で事足りるし、口の堅いゴースト達にも救われている。
大食堂の裏口まで彼が来たことは本当に名無しにとっては想定外だった。
それが他人の目の届きにくい場所であれど、わざわざ来たことの意味を、名無しは内々問うていたのだ。
無論、当然ジャックの目を見ただけで気付いたことはいくつかあったのだが……。
納品の時間に遅れたことに対する心配の念や、会いたいと思ってくれている自惚れまじりのそれ。
胸部が締め付けられたのは、ジャックの鋭すぎる嗅覚の所為だろう。
事情を知らず口にされた一言はなかなかに名無しを悩ませたけれど、一瞬で杞憂に終わってくれたのもまた、彼のおかげ。
果ては、今はこの場で話す時間も惜しいとばかりに別々の道を通る。
その後二人が落ち合ったのは、本校舎の東側に面した、なんでもない裏庭だった。
―――。
――。
「ん……ッ」
「……やっぱりまだ少し匂うな…。男……大人か?」
「っ……」
きちんとした理由があってカレッジの敷地内に出入りは出来ているものの、自分が外部の人間ということにはかわりない。
魔法が使えど、別に日常で齧る程度のそれだったし、普段から使うわけでもなければ、関連する職につきたいわけでもない。
カレッジでの用が済んだのならば、本来ならば早急にあとにするべきだった。
名無しが食堂でジャックと別れ、数分後、目指した場所に着いた頃には、彼は既に名無しを待っている状態で木陰に立っていた。
人目を避けて訪れた裏庭は、そこにも自分たち以外に人の気配はない。
もっとも誰か居ようものなら、そのときはジャックが気付いているであろう。
「…ッ……ジャック…」
「分かってるよ……お前の人助けは、今に始まったことじゃない」
「!……気付いてくれてたんだ…」
「当たり前だろう?けど……どうにも鼻がききすぎて、……クソッ」
二人が逢瀬に裏庭を選んでいた理由もまた色々あった。
誰にも見られたくないことに加え、簡単に女性を寮に入れられるわけじゃないこと。
例外もまああるだろう……けれどジャックがその例外を駆使することはまだなかった。
レオナに見られて、諌められる以前に揶揄われ、ラギーに冷やかされる未来だって、なんとなく彼には見えていたからだ。
「……ッ」
ジャックは待ち合わせ場所に現れた名無しを手招くと、彼女をしばらくのあいだぎゅっと抱き締め、やがて木にもたれさせた。
身体を離せども、繋ぎ合わせた互いの手はそのまま、同じく繋がるのは唇だった。
数日ぶりに味わうそれぞれの感触。
食み合う口吸いは時折息が漏れ、俄かに気持ちに色艶が滲めば、野外ゆえに言動を抑制する。
特に、ジャックにとってはキス以上を名無しに求めることなんて簡単だったし、制止を振り切って行動を起こすのも容易かった。
此処は場所も場所だ……だから名無しの前では理性的でありたいと常日頃感じていても、ふいに耐えられなくなるのもまた男の性というものだろう。
「…ッ……はぁ…ハァ……、イラつくな…」
「!……寮長さんみたいなこと言わないでよ…」
「ッ……悪い…、そんなつもりは……けど…、くそ……何なんだよ…」
「?!……ジャック…」
「分かっていても……お前から俺以外の……、男の匂いがするのが気に食わねえんだよ…」
休日、大体は名無しの家で。
それが二人のあいだで自然と定着していたルールだ。
ましてや此処はカレッジの敷地だし、「どうこうする」なんて普通なら考えられない。
ジャックも十分理解しているつもりなのだけれど、そんな彼が珍しく息を切らして、なんとかキスでこの場をごまかそうとしている。
欲情するまいと噛み締める唇に薄らと型がつくと、名無しはそんなジャックを見ていられず、自分から背伸びをした。
「!お前……」
「……汗…掻いたら……消えるかな。……ついでにジャックの匂いも…つくといいな……」
「待て……俺は…そんなつもりでお前を此処に…」
「だって……ジャックがそんなだから…――私だって欲しくなっちゃう…じゃん……」
「っ……名無し…」
名無しが道案内をして、ついでに落とし物を一緒に探した人物は、紳士と呼ぶに相応する男性だった。
誰というわけでもないのだが、身嗜みのきちんとした紳士ゆえ、その男性が身に纏っていた香水の香りが名無しに移っていたのだ。
ジャックにとっては、元の身体の匂いとも混ざり、異性を強く意識させるそれに感じた分、抱えた気持ちも複雑だったのだろう。
妬ける想いにも似た、けれど件だけを考えれば妬くまでもないもの。
ただただ、掠めるどころじゃない鼻にささる匂いが、ひたすら彼を煽っていた。
「名無し……」
「……、いまのジャック…見てるとさ。週末まで待てな……、!!わ……」
「ッ……、そうなったら時間も限られる…いいのかよお前は……」
「ジャ……!んんっ」
「あーもう無理だ……我慢できねえ…」
昼食のとき食堂に移動して、いつもならすぐに感じる匂いがしなかった。
ジャックが名無しになにかあったのかと思うのは当然であり、さりげなく調理場にまわってゴーストに聞き込んでも、彼彼女らは何も知らなかった。
心配まじりに早々に食事を終え、テーブルで名無しの到着を待っている時間はなかなかどうして不安だったのは言うまでもないことだろう。
やがて生徒が集まり始めて、購買の列が伸び始めた矢先に名無しの匂いがしたかと思えば、同時に感じたのは濁りの交差したそれだった。
異性と接触したことを悟れば、まさか名無しが変な気を起こすわけもない……。
そんなことは分かっていても、自分の大好きだった彼女の香りが澱んでいる事実そのものが、ジャックは許せなかった。
よくよく考えれば、調理場の裏口に向かった時点で、彼がいつもの待ち合わせ場所で名無しにしようとしていたことは決まっていたのかもしれない。
自分のものじゃない男の匂いの移った名無しを、自分の手で塗り替えなければ――。
そういう気持ちにどうしようもなく駆られ、そしてジャックが抑えていた想いを解放したのは、奇しくも名無しの方だった。
「ハァ……んんっ」
「ん……名無し…もっと舌出せ」
「ッ……は、ぁ…」
濃密なキスなんて、今まで何度だってしてきた。
それだけなら、ここで交わしてもいいと思っていたから。
まるで発情しているかのようにジャックの勢いが強まると、名無しはもたれていた木を背中でめりめりと鳴らした。
「んん……」
ジャックの制服のジャケットやブラウスは、できれば皺が残らない程度に掴みたい。
が、きっとそういうわけにもいかない……先刻よりもきつく、きつく抱き締められて、心地の好い苦しさが名無しを襲う。
ジャックは立ったまま名無しの露出していた肌に触れ、耳元に唇をあてがった。
そこを動物そのもののようにスンスンと嗅ぎ、彼女の存在そのものを確かめる仕草は、猛々しさも愛らしさも混ざっている。
舌を出せば、曲線に沿って軟骨を舐り、耳のなかもねっとりと舐め回した。
「ひぁ……、ん…ン……」
「敏感だな……まだ何もしてねえよ…」
「っ……してるじゃない…ッ、あ……」
「はは……そうだな…、んっ……」
名無しの肌に触れ、ジャックは初めて落ち着きを取り戻していた。
匂いが気になるのは相変わらずだ。
それでも、好きな女性に触れることそのものがどれだけ影響を齎すかをよく物語っている。
その落差に名無しが驚くのは当然だったが、身体に流れる心地好さは驚きを超越しており、よりジャックが欲しいと彼女にも思わせる。
いつ、どのタイミングで誰が現れるかもしれない……が、それもまたジャックの様子次第ですべて分かること。
半端に乱れた服の上から胸元を鷲掴まれ、耳から首筋に滑る彼の甘噛みする所作を浴びていれば、名無しが焦る必要はまだなかった。
どころか、焦るべきは、ジャックの容赦ないそこへの愛撫だ――。
「!……んっ…ジャック……」
「あんまり声は出すなよ……まあ、俺は聞きたいけどな。ん……」
「っ……!!や…あ……」
「ハァ……ここも…こっちも……全部舐めてやりてえけど…今は無理か……。今度の休みまでお預けだな」
「……ッ…ジャ……ック…」
「まあ、問題ねえか……これだけ濡れてるなら。――もう挿れるぜ、名無し」
「ッ……、ん…」
外ゆえに、できることは限られている。
それでも名無しを悦ばせる為に、ジャックは舌を伸ばし続けた。
もともと名無しは遅れてカレッジに来ていたし、ジャックの昼休みから午後の授業までのあいだが、二人に許された時間だった。
制限の多いなか攻め立てられ、下半身は脚を開かされる。
そこにジャックが片膝をぐいぐいと押し込んだ時、名無しは生地ごし、下着に違和感があったことを察し、再び顔を赤らめた。
そんな彼女の表情が、ジャックから見て愛らしいのは当然だ。
スカートのなかに褐色の腕が伸びて下着のラインに触れた瞬間、ジャックの太ましい指は、静かに名無しの湿り気を掬っていた。
「!!ん……っ…」
「……っぐ…」
キスと、耳と首筋への愛撫だけでジャックを受け入れる態勢ができていたことが少し恥ずかしい。
本当はもっと色々して欲しかったけれど、リスクを考えれば仕方なかった。
まるでマーキングでも施されたかのように甘い痛みが走る首筋は、名無しの細々とした生白いそこを艶やかにみせている。
ほんのりと残ったジャックの噛み痕は、下手に肌を吸い上げられるよりもいやらしかった。
「ジャック……っ、あ…」
「ッ……痛いか…?」
「…ううん……」
「そうか……ん、動くぜ……ほら…」
「!ひ…ァ……」
名無しがされたいと思うように、全身を愛でたいと感じていたのはジャックも同じこと。
今できることだけに集中して、その結果、彼女が下着を濡らしていたことは素直に嬉しかった。
服の上から揉みしだく名無しの胸を直接啄ばむのも、下着を捲って、熟れたそれを摘むのも、もう少し先、別の場所でのこと。
名無しの小さな嬌声で興奮していたジャックは、彼女の下着をずらし、自らも制服のベルトに手を伸ばしていた。
「……ッ…」
高揚心を煽られて、それゆえにゆらゆらと揺れる自身の尾部が名無しの腿をするりと撫でている。
軽やかな感触、けれど快感を覚え、名無しは震えながらジャックにしがみついた。
挿入の是非を問い、ゆっくりとひとつになったあとは、互いに急激な快楽が齎されるだけ……。
そこからは最高潮に満ちるものを得るため、ジャックが激しく名無しの腰を打ち付けた。
「ん……っ…!あ……」
「ハァ……可愛いな…お前……」
「…っや……!!ひゃ…」
「ほら……つかまってろ…、一緒に達こうぜ…名無し――」
「ッ…―――」
名無しの膣奥を何度も突き、律動のたびに濡れてゆく感触を覚える。
ジャックはその締め付けと、目下でいやらしく悶える名無しの表情に象徴を震わせ、ひどい射精欲に駆られていた。
立位に限界がくれば、途中でジャックが制服の上着を脱ぎ捨て、それを敷いて名無しを木の傍に座らせる。
もたれさせていることには変わらずとも、屈むことで体位が替わり、より彼女の奥を攻めることが可能になったいま、二人からは我慢の文字が消えていた。
「!……ッ…、ジャック…」
「…っく……出、……ッ――」
ジャックの首にぎゅっとしがみついて、両腕をまわす名無しの声が彼の耳元で響く。
それは名無しにとっても同じであり、低く、男らしいジャックの声音には、吐息をまじえて名無しにも届いていた。
下半身に来る愉楽と、時折見つめ合って感じる互いの存在。
絶頂の瞬間は、自然とキスをしてそれを迎えていた――。
―――。
――。
「…っ……ばれてないかな…、誰にも…」
「まあ……大丈夫だろう…。近くに変な気配もなかったしな」
「そ…そっか……、ッ……」
「どうした?」
いちばん上までのぼり詰めてしまうと、あとは下るだけだ。
それだけ例えるの少し寂しい気もしたけれど、実際に得ているものは何物にも代え難かった。
「……わたしさ。このあと、今日は午後から学校なんだ……間に合うと思うけど…」
「!な……お前、先に言えよ…」
「ッ…言ったらジャック……最後までしてくれないと思って……。ここに仕事で来る日は、その……ちょっと会って、…いちゃいちゃして終わりだし…」
「あー……ああ、まあな…」
果てたのちの事後というものは、ベッドの上でゆっくりと、まったりと過ごしたかった。
行為が終わっても離れたくないというのが本音のなかでも大きかったし、実際いま名無しは、ジャックの傍から離れるのを拒んでいた。
同じ木陰で出来うる限りの処理をして、身嗜みを整え彼の胸元に寄り添い、もたれる……。
横目に見た腕時計の時刻にはまだゆとりはあったけれど、ジャックにも午後の授業があったし、確実にその日の別れは迫っていた。
「……いや。俺は多分、お前が先に言ってても、今日はお前を抱いてたな」
「、……?!え……」
「……スンスン」
「ッ……あ、……消え…た?」
「ああ……もう俺の匂いしかしねえよ。染み付いてる…あとは俺にも、お前の……」
「!…ッ、ば……もう…ッ」
「ハハ」
会えない日は決して少なくない。
だから会える日はその時間を大事に過ごしたかったし、いつでも互いに笑っていたかった。
ジャックはまだ起き上がるのが辛そうだった名無しを抱き寄せると、上着を手に取り、それを彼女の肩にかけた。
予鈴も鳴っていなかったし、まだ十数分はここでまったりとできるだろう……。
乱れていた髪を撫でて整えてやりながら、微睡むいまを大切に――。
「それじゃあ……またな。気を付けて帰れよ」
「ん……ありがと。ジャック……」
その後、いよいよ鳴った予鈴が二人の気持ちを引き締めれば、名無しは再び入校用の腕章を持ち、ジャックも上着を羽織り、教室へ向かう態勢になっていた。
ここでは週に何度か会える……が、時間は本当に少しだ。
休日を楽しみに、名無しはジャックにキスをせがむと、ジャックはそれを快く受け入れた。
名無しの身体はすっかり彼色に染まり、元々の混在していた匂いは消え、あと残っていたものといえば、薄らと浮かぶ首筋の噛み痕だけだった。
そしてジャックは、通用門に向かった名無しの背を最後まで見送って、ひとり教室へと向かった。
途中、廊下ですれ違ったレオナとラギーの嗅覚をごまかすことだけはどうしても敵わず、その日は終始揶揄われて終わったことは、勿論名無しには言えない話だった――。
i bite u.
20200329UP.
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