今時の女子大生のリアルな生活や心境を知りたい、ということで、私は露伴先生に協力することになった。
漫画の参考にするのに私みたいな平凡な女でいいのだろうか、と思うが、露伴先生が満足そうなのでまあいっか。
ピンクダークの少年はあっという間に全部読み終わってしまい、新刊早く出ないかなーと待ち遠しく思っていた。


バイト中、色々あって命を助けてもらったことや、お礼として取材協力をすることになったことを友達に伝えると、少女漫画みた〜い！と興奮していた。
私と露伴先生の関係は少女漫画とはかけ離れてるんだけどな…と思っていると、当の本人が現れた。
「あ、露伴先生、こんにちは。」
「ナァ、君、この後時間あるか？」
「バイトはあと30分で終わりだし、講義もないので暇ですよ」
「じゃあここで待ってる」

このあと取材をするんだろうか。
私の後方で友達がキャー！デートだー！とはしゃいでいる友達の声が聞こえるが、デートじゃない。取材だ。

バイトが終わるまでの30分間、先生はサラサラとスケッチブックに絵を描いて待ってくれていた。

近くに止めていた先生の赤い車に乗ると、岸辺邸へ向かう。
露伴先生は同い年なのに家も車もバイクも持っていてすごいなあ、と思う。
しかも彼はお金のためではなく、読んでもらうために漫画を書いている。
その結果、多くの読者から支持されるような漫画家になった。
そのプロ意識に、あらためて尊敬の念を抱いた。

ソファに座るよう促され、先生はまた紅茶とクッキーを淹れてくれた。
先生からの質問は、好きな食べ物、今欲しいもの、今行きたいところなどと結構一般的なものだった。
私は平凡な女子大生なので、物欲は無限にある。

「先生、欲しいもの100個くらいあるんだけど」
「100個も聞いてられん、一番値段が高いものだけ聞かせてくれ」

と言われ「ウーン、グッチの新作ワンピース…？」と答えた。
ほしいけど、アルバイトの女子大生にはきっと買えないだろう。
まあ言うだけならタダなので正直に言った。

行きたいところは、最近杜王町の別荘地にできた、オーシャンビューのカフェだ。
パンケーキが美味しいらしい。
最後に好みのタイプは、と聞かれたが、特に思いつかなかった。
ありきたりだが、
「顔が好みで、私のことを特別扱いしてくれる人、かなあ？」と答える。

こんなんで本当に参考になるのか…？と不安に思い露伴先生の方を見ると、満足そうに頷き、私の言ったことをメモしていた。
「参考になった」
「はぁ、そりゃどうも」

ピンクダークの少年の感想を言い、新刊出るのが待ち遠しい、と言うと露伴先生は今週分までの生原稿を読ませてくれた。
生原稿に夢中になっていると、すっかり夜になってしまい、露伴先生の車で家まで送り届けてもらった。

「先生、結構やさしいんだね」
送ってもらったお礼を言うと、先生は「僕はいつだって優しいだろ」と見当違いなことを言っていた。
反論して突っ掛かられてもめんどくさいので、黙ってヘラヘラと笑っていると、

「僕はなまえのことを………」
と私の顔を見て何かを言おうとしている。
「私のことを？」
と首を傾げて聞き返すと、先生は顔を真っ赤にした後に、パッと後ろを向いてしまう。

「友達だと思ってるからなッ！！」
と叫ぶように言うと、彼はそのまま足早に帰ってしまった。