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「テニスと勉強と私、どれが一番大事なの?」
「あんたの口からそんな不毛な質問が出るとは思いませんでした」
放課後の騒がしいカフェテリアの2階席で、恐らく学校一不毛な会話をしている付き合って半年のカップルがこの私たち。この半年、年下の彼から何かに誘ってくれたことは一度たりとも無く、部活オフの日を狙った今日だって、「テスト勉強があるから」とあっけなく振られた。実際不毛な質問とも言われているし、自分が一番でないことは頭では理解している。ただ、私にとっては若が全ての中の一番で、2人の「すき」の天秤が釣り合っていないことにもどかしさを感じていた。どうしても放課後一緒の時間を過ごしたくて図書館までストーカーすると、「周りに迷惑がかかるので」と場所をカフェテリアに変えられた。何の迷惑がかかるんだと思いつつ、騒がしい空気の中でも1人せっせと鬼のような集中力をみせる彼の目の前で、私は呑気にジュレロワイヤルを頬張っていた。彼の言う「不毛な質問」を発した直前、私はとんでもなく酸っぱいラズベリーをかじっていた。
「不毛な質問で悪かったですね」
「だってあんた、『自分が一番!』って自信満々に思ってそうじゃないですか」
おっと、それは認識の差がでかすぎるよ若くん。私を強靭なメンタルの持ち主だとでも思ってる?君が思うより私の乙女心は傷つきやすく繊細だ。心の中に図々しく踏み込んだとしても、何かと振り回したとしても、絶対に拒絶をしてこない優しさは理解している。だけどだからこそ受動的で私に流されて、自分の意思を諦めているような態度を感じると、「年上」に付き合わせているだけなのではないかと思ってしまう。彼が上下関係に厳しい体育会系部活に所属しているから尚更そう思う。たった半年の、心が通いあってないと思ってしまう絆はまだまだ弱くて、私が卒業して離れ離れになったとしたらこのままこの関係は終わってしまうんじゃないかって、ビクビクしてさえする。自信満々どころか自信なんて1ミリもない。
「じゃあ、私が一番なの?」
「あ、それはないですね」
参考書を片手に私に目も合わせず、さらりと言いのけた若の態度に思いっきり傷ついたし落ち込んだ。よりにもよってたった今かじったピンクグレープフルーツが思いっきり酸っぱかった。悔しい。悔しい。悔しいけどたんたんと参考書をめくり、筆を動かす目の前の年下彼氏が様になりすぎてたまらなく格好いい。眼鏡をかけたらもっと格好いいのに。彼の眼鏡姿をみたことがある女子生徒は私だけなんだと勝手に優越感に浸ろうとしても、彼の目線がこちらを向いていないことを思うと、虚しいだけだった。
「テニスも勉強も、どれもそれぞれ大事なので。別に絶対的な『一番』とかはないです。その時その時で大事にするものは変わりますけど」
私の一番はいつだって若なのに。毎朝若のことを思いながら目を覚ますし、授業中も放課後もご飯中もお風呂でも若のことばかり考えて、寝てる最中も若の夢を見る。若からいつか誘ってくれるかもしれないと思って予定はいつも空けているし(誘われたことないけど)、私の中では若が他の何よりも最優先なのに。
「今の一番は?」
「勉強ですね」
「目の前に私がいるのに?」
「今日は先に勉強の予定いれてたんです」
「そんなこと言わずに遊ぼうよー」
「もうすぐテストですが勉強しなくて大丈夫なんですか」
「どうせ私は若の一番じゃないですよーだ」
全ての自信を無くして、泣きたくないのに涙が目に滲んできて、消え入りそうな声で精一杯の強がりを発した時。音を立てて立ち上がった若の色っぽい顔が近づいてきて、突然唇が押し当てられた。頬に添えられた冷たい手のひらに身体がビクンと反応し、初めての若からの意思をもった口付けに、脳がとろんととろけていく。酸味に支配されていた口の中に甘味が広がる。人の多い騒がしいカフェテリア。目撃者0というわけにもいかず。
「若くん、皆みてるよ」
「そうですね。明日には噂が広まってテニス部の先輩たちにからかわれるでしょうね」
「なんで今キスしたの?」
「勉強に集中できないからです」
「口封じってこと?」
「それもありますけど…」
クールにたんたんと。椅子に座り直して一連の会話をする若の隣に自分の椅子を持ってきて、彼のシャツを引っ張りながらなんでなんでと駄々をこねた。
「ですから!これ以上俺のこと掻き乱さないでください。こっちは冷静沈着さを…自分のペースを守るのにこれでも必死なんですよ」
こんなに狼狽えている若の姿を、初めて見た。私が、私だけが、彼をこんな状態にさせていると思うと、心の中に眠っていた支配力がうずうずと湧き上がってくる。かわいい。かわいい。若がかわいい。どうにかしてしまいたい。「計画的」「自分のペース」を誰よりも大切にする彼にとって、たった半年の私の存在はきっとまだ異分子で。
「俺の中であんたが一番なんてキャラじゃないですけど。それなりに俺にとって大きな存在だって伝わってなかったのが悔しかったんで、だから…」
「だから皆の前でキスしたの?」
「……何回も聞かないでください」
若はそんなに私のこと好きじゃないと思ってた。一切手を出ししてこないし、甘い言葉をかけるのも、キスをするのもいつも私から。告白したときも「いいですよ」というだけで、彼の口から「好き」なんて一度も聞いたことがない。私だけが彼に執着をしていると思っていた。彼の中でも私への気持ちはきっと芽生えてたんだ。ただ、彼がマイペースで、感情を育てるのがゆっくりなだけで。周りが同級生や年上彼氏と色んな経験を済ませていく中で、焦っていたのかもしれない。交際相手のことをちゃんとみていなかったのは、若ではなく私の方だったんだ。
「あなたにとっては何人目か知りませんけど。俺はこういう、付き合うとか、誰かに恋をするとか、初めてなんです」
余裕がなさそうに目を逸らして、顔を真っ赤にして言う若が、たまらなく愛おしい。若を困らせて、感情をぐちゃぐちゃにしているのも、私だけ。若にはじめてを経験させているのも、私だけ。ごめんね、これからはゆっくり若のペースで。少しずつあなたの中での存在を大きくしていって、若の毎日のルーティンの中の一番に、いつかきっとなってみせるから。
「それに俺だって男なんで、あんたに言えないような妄想くらいは、します」
「ねえねえそれってどんな妄想?」
「絶対に言いません」
「ちょっとずつその妄想現実にしようね!」
「それは考えなくもないですね」
メニューがずらずらと綴られた大きなメニュー表で今度は顔を覆い隠して、お互いの意思で唇をゆっくりと重ね合わせた。明日、思いっきり先輩たちにからかわれてね、若くん。
「あんたの口からそんな不毛な質問が出るとは思いませんでした」
放課後の騒がしいカフェテリアの2階席で、恐らく学校一不毛な会話をしている付き合って半年のカップルがこの私たち。この半年、年下の彼から何かに誘ってくれたことは一度たりとも無く、部活オフの日を狙った今日だって、「テスト勉強があるから」とあっけなく振られた。実際不毛な質問とも言われているし、自分が一番でないことは頭では理解している。ただ、私にとっては若が全ての中の一番で、2人の「すき」の天秤が釣り合っていないことにもどかしさを感じていた。どうしても放課後一緒の時間を過ごしたくて図書館までストーカーすると、「周りに迷惑がかかるので」と場所をカフェテリアに変えられた。何の迷惑がかかるんだと思いつつ、騒がしい空気の中でも1人せっせと鬼のような集中力をみせる彼の目の前で、私は呑気にジュレロワイヤルを頬張っていた。彼の言う「不毛な質問」を発した直前、私はとんでもなく酸っぱいラズベリーをかじっていた。
「不毛な質問で悪かったですね」
「だってあんた、『自分が一番!』って自信満々に思ってそうじゃないですか」
おっと、それは認識の差がでかすぎるよ若くん。私を強靭なメンタルの持ち主だとでも思ってる?君が思うより私の乙女心は傷つきやすく繊細だ。心の中に図々しく踏み込んだとしても、何かと振り回したとしても、絶対に拒絶をしてこない優しさは理解している。だけどだからこそ受動的で私に流されて、自分の意思を諦めているような態度を感じると、「年上」に付き合わせているだけなのではないかと思ってしまう。彼が上下関係に厳しい体育会系部活に所属しているから尚更そう思う。たった半年の、心が通いあってないと思ってしまう絆はまだまだ弱くて、私が卒業して離れ離れになったとしたらこのままこの関係は終わってしまうんじゃないかって、ビクビクしてさえする。自信満々どころか自信なんて1ミリもない。
「じゃあ、私が一番なの?」
「あ、それはないですね」
参考書を片手に私に目も合わせず、さらりと言いのけた若の態度に思いっきり傷ついたし落ち込んだ。よりにもよってたった今かじったピンクグレープフルーツが思いっきり酸っぱかった。悔しい。悔しい。悔しいけどたんたんと参考書をめくり、筆を動かす目の前の年下彼氏が様になりすぎてたまらなく格好いい。眼鏡をかけたらもっと格好いいのに。彼の眼鏡姿をみたことがある女子生徒は私だけなんだと勝手に優越感に浸ろうとしても、彼の目線がこちらを向いていないことを思うと、虚しいだけだった。
「テニスも勉強も、どれもそれぞれ大事なので。別に絶対的な『一番』とかはないです。その時その時で大事にするものは変わりますけど」
私の一番はいつだって若なのに。毎朝若のことを思いながら目を覚ますし、授業中も放課後もご飯中もお風呂でも若のことばかり考えて、寝てる最中も若の夢を見る。若からいつか誘ってくれるかもしれないと思って予定はいつも空けているし(誘われたことないけど)、私の中では若が他の何よりも最優先なのに。
「今の一番は?」
「勉強ですね」
「目の前に私がいるのに?」
「今日は先に勉強の予定いれてたんです」
「そんなこと言わずに遊ぼうよー」
「もうすぐテストですが勉強しなくて大丈夫なんですか」
「どうせ私は若の一番じゃないですよーだ」
全ての自信を無くして、泣きたくないのに涙が目に滲んできて、消え入りそうな声で精一杯の強がりを発した時。音を立てて立ち上がった若の色っぽい顔が近づいてきて、突然唇が押し当てられた。頬に添えられた冷たい手のひらに身体がビクンと反応し、初めての若からの意思をもった口付けに、脳がとろんととろけていく。酸味に支配されていた口の中に甘味が広がる。人の多い騒がしいカフェテリア。目撃者0というわけにもいかず。
「若くん、皆みてるよ」
「そうですね。明日には噂が広まってテニス部の先輩たちにからかわれるでしょうね」
「なんで今キスしたの?」
「勉強に集中できないからです」
「口封じってこと?」
「それもありますけど…」
クールにたんたんと。椅子に座り直して一連の会話をする若の隣に自分の椅子を持ってきて、彼のシャツを引っ張りながらなんでなんでと駄々をこねた。
「ですから!これ以上俺のこと掻き乱さないでください。こっちは冷静沈着さを…自分のペースを守るのにこれでも必死なんですよ」
こんなに狼狽えている若の姿を、初めて見た。私が、私だけが、彼をこんな状態にさせていると思うと、心の中に眠っていた支配力がうずうずと湧き上がってくる。かわいい。かわいい。若がかわいい。どうにかしてしまいたい。「計画的」「自分のペース」を誰よりも大切にする彼にとって、たった半年の私の存在はきっとまだ異分子で。
「俺の中であんたが一番なんてキャラじゃないですけど。それなりに俺にとって大きな存在だって伝わってなかったのが悔しかったんで、だから…」
「だから皆の前でキスしたの?」
「……何回も聞かないでください」
若はそんなに私のこと好きじゃないと思ってた。一切手を出ししてこないし、甘い言葉をかけるのも、キスをするのもいつも私から。告白したときも「いいですよ」というだけで、彼の口から「好き」なんて一度も聞いたことがない。私だけが彼に執着をしていると思っていた。彼の中でも私への気持ちはきっと芽生えてたんだ。ただ、彼がマイペースで、感情を育てるのがゆっくりなだけで。周りが同級生や年上彼氏と色んな経験を済ませていく中で、焦っていたのかもしれない。交際相手のことをちゃんとみていなかったのは、若ではなく私の方だったんだ。
「あなたにとっては何人目か知りませんけど。俺はこういう、付き合うとか、誰かに恋をするとか、初めてなんです」
余裕がなさそうに目を逸らして、顔を真っ赤にして言う若が、たまらなく愛おしい。若を困らせて、感情をぐちゃぐちゃにしているのも、私だけ。若にはじめてを経験させているのも、私だけ。ごめんね、これからはゆっくり若のペースで。少しずつあなたの中での存在を大きくしていって、若の毎日のルーティンの中の一番に、いつかきっとなってみせるから。
「それに俺だって男なんで、あんたに言えないような妄想くらいは、します」
「ねえねえそれってどんな妄想?」
「絶対に言いません」
「ちょっとずつその妄想現実にしようね!」
「それは考えなくもないですね」
メニューがずらずらと綴られた大きなメニュー表で今度は顔を覆い隠して、お互いの意思で唇をゆっくりと重ね合わせた。明日、思いっきり先輩たちにからかわれてね、若くん。
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