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氷帝男子テニス部部室といえば、学校一広くて豪華で設備が整っていることで有名。巨大なテーブルの端っこにちょこんと座った若はしなやかな手を目の前まで持ってきて、何やら小刻みに動かしている様子。元々細い目がさらに細くなり、片目だけ瞑っちゃってウインク状態になったら私としては非常においしい。首を傾げて奮闘している姿は何だか可愛いくて、私にとっては最高級のご褒美だ。
「若、何してるの?」
「慈雨さんの視力なら肉眼で見えるんじゃないですか?」
さすがは若、脇目も振らずに上手い切り返し。取れたボタンをユニフォームに付け直そうとしているのを先ほど実際に確認済みだ。樺地に頼んでしまえば一発なのに、人に物を頼むのは絶対に嫌らしい。自分が苦しみから脱出するよりも、ポリシーを守るほうが先決、そんな姿勢が私は好き。だけど私だって若の彼女っていうポリシーがある。彼に背後から飛びついて、裁縫道具を奪い取った。
「何するんです!?危ないじゃないですか。」
「え、ボタン付けてあげようと思って。どう?彼女っぽくない?」
「余計な事しないでください。」
そもそも慈雨さん裁縫出来ないじゃないですかと溜め息を吐かれ、こちらに向けた目力がぐっと迫る。年下彼氏の真正面に陣取って針を握るけれど、若から取り上げた時に針穴から糸が抜けてしまっていたことに気が付いた。超絶ピンチな状況。こうなってしまっては仕方ない。
「もしもし若くん、糸通しという便利道具はお持ちでしょうか?」
「裁縫、出来るとかさっき言いませんでしたっけ?」
うーん後輩のくせに生意気、でもそんなつれないところがまたたまらない。私の心の中にはすぐに若の存在が入り込んできたっていうのに、針穴には一向に糸が通ってくれない。傷んだ先端を何回も切り揃えるもんだから、糸は徐々に短くなっていく。
「…やっぱり自分でやります。永遠にボタンがつきそうにないので。慈雨さんに譲った自分が馬鹿でした。」
「こ、これくらい出来るんだから!もう少しチャンスを…!」
「糸も通せない人が何を言うんですか。」
半ば呆れ顔で裁縫道具を根こそぎ奪われ、横でカチャン、と金属音がしたと思ったら、私の真横に若が座った。正面の顔も勿論良いけれど、横顔は何だか色っぽくてたまらなく好き。
「慈雨さんは何もしないでただそこに座ってて下さい。」
「彼女に対して扱い酷くない!?」
こういうのは糸先を舐めればいいんですよ、と鼻であしらわれ、若の舌がそれを捉える。糸の先端は若の舌に転がされ、やがて一つに纏まり、スルリ、と針穴に通る。真剣な若の横顔と、淡々とした作業にただただ目を奪われた。
「見過ぎですよ、見物料取りましょうか。」
「お金で解決出来るのであれば是非とも取っていただいて。」
「正直ですね…まさかこの糸になりたい、なんて思ってたんじゃないです?」
「さすが若、人の心読めるんだね。」
「慈雨さんの考えだから全部解るんですよ。」
他の人のことなんて知らないですから。茶色くて細い髪が揺れ、お約束通りに呼吸する術が奪われた。若のキスは長くて熱い。それに捕まってしまっては暫くの間は逃げ切れない。息は上がるし意識は朦朧とする。自分だって余裕がないくせに、そんな私を見計らっては時々若が私の口の中に酸素を吹き込む。
「このままじゃボタン、永遠にくっつかないまんまだよ」
「そんなもの、後回しで良いですから。よそ見しないでこっち見てください。」
若はいつだって私の中の一番で、きっと若にとっても私が一番で。
「…満足、ですか?」
「ん……もっと。」
「っ…解っ…て、ます。」
解ってるなら聞かなきゃいいのに、それでも敢えて聞くのはきっと、私からの愛を確かめたいから。そんなものならいくらだってあげる。脳が酸素不足で悲鳴を上げるまで、私はまた、彼の唇の虜になる。
一瞬で溶ける
(それは彼にしか使えない魔法)
*****
First draft: 20081231
Second draft: 20200213
「若、何してるの?」
「慈雨さんの視力なら肉眼で見えるんじゃないですか?」
さすがは若、脇目も振らずに上手い切り返し。取れたボタンをユニフォームに付け直そうとしているのを先ほど実際に確認済みだ。樺地に頼んでしまえば一発なのに、人に物を頼むのは絶対に嫌らしい。自分が苦しみから脱出するよりも、ポリシーを守るほうが先決、そんな姿勢が私は好き。だけど私だって若の彼女っていうポリシーがある。彼に背後から飛びついて、裁縫道具を奪い取った。
「何するんです!?危ないじゃないですか。」
「え、ボタン付けてあげようと思って。どう?彼女っぽくない?」
「余計な事しないでください。」
そもそも慈雨さん裁縫出来ないじゃないですかと溜め息を吐かれ、こちらに向けた目力がぐっと迫る。年下彼氏の真正面に陣取って針を握るけれど、若から取り上げた時に針穴から糸が抜けてしまっていたことに気が付いた。超絶ピンチな状況。こうなってしまっては仕方ない。
「もしもし若くん、糸通しという便利道具はお持ちでしょうか?」
「裁縫、出来るとかさっき言いませんでしたっけ?」
うーん後輩のくせに生意気、でもそんなつれないところがまたたまらない。私の心の中にはすぐに若の存在が入り込んできたっていうのに、針穴には一向に糸が通ってくれない。傷んだ先端を何回も切り揃えるもんだから、糸は徐々に短くなっていく。
「…やっぱり自分でやります。永遠にボタンがつきそうにないので。慈雨さんに譲った自分が馬鹿でした。」
「こ、これくらい出来るんだから!もう少しチャンスを…!」
「糸も通せない人が何を言うんですか。」
半ば呆れ顔で裁縫道具を根こそぎ奪われ、横でカチャン、と金属音がしたと思ったら、私の真横に若が座った。正面の顔も勿論良いけれど、横顔は何だか色っぽくてたまらなく好き。
「慈雨さんは何もしないでただそこに座ってて下さい。」
「彼女に対して扱い酷くない!?」
こういうのは糸先を舐めればいいんですよ、と鼻であしらわれ、若の舌がそれを捉える。糸の先端は若の舌に転がされ、やがて一つに纏まり、スルリ、と針穴に通る。真剣な若の横顔と、淡々とした作業にただただ目を奪われた。
「見過ぎですよ、見物料取りましょうか。」
「お金で解決出来るのであれば是非とも取っていただいて。」
「正直ですね…まさかこの糸になりたい、なんて思ってたんじゃないです?」
「さすが若、人の心読めるんだね。」
「慈雨さんの考えだから全部解るんですよ。」
他の人のことなんて知らないですから。茶色くて細い髪が揺れ、お約束通りに呼吸する術が奪われた。若のキスは長くて熱い。それに捕まってしまっては暫くの間は逃げ切れない。息は上がるし意識は朦朧とする。自分だって余裕がないくせに、そんな私を見計らっては時々若が私の口の中に酸素を吹き込む。
「このままじゃボタン、永遠にくっつかないまんまだよ」
「そんなもの、後回しで良いですから。よそ見しないでこっち見てください。」
若はいつだって私の中の一番で、きっと若にとっても私が一番で。
「…満足、ですか?」
「ん……もっと。」
「っ…解っ…て、ます。」
解ってるなら聞かなきゃいいのに、それでも敢えて聞くのはきっと、私からの愛を確かめたいから。そんなものならいくらだってあげる。脳が酸素不足で悲鳴を上げるまで、私はまた、彼の唇の虜になる。
一瞬で溶ける
(それは彼にしか使えない魔法)
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First draft: 20081231
Second draft: 20200213
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