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【シアン化カリウム】
化学式KCN。別名青化カリ、青酸カリ。
黄血塩を赤熱すると生ずる無色の結晶。
《猛毒》。
「……約束より1分と23秒遅い。」
「悪かったわね!これでも急いだの!」
化学実験室窓際の席、息を整えて乾の横にちょこんと座る。黒板には本日最後の授業で言及されたのか、なんだか物騒なことがつらつらと書かれていた。遡る事約7日前、1週間の相手の奴隷を賭けたチェス勝負で私は乾に見事に惨敗。(乾がこんな洒落たゲーム得意とか反則じゃん!)それで放課後毎日乾の実験を手伝わされる始末。どんな恐ろしい物質をこの世に生み出そうとしているのか、奴隷の私に情報は一切教えてくれない。正直怖い。…そんな非日常もあと数時間で終わろうとしているのだけれど。
「今日は何してるの?」
「企業秘密だよ。いつも言っているだろう。」
毎日毎日彼が何をしているのかを、先述の通り私は知らない。無報酬で手伝ってあげてるんだから、少しくらい教えてくれても良くない!?そう反論するとフフフと不気味な笑みを浮かべながら、ボランティアではなく奴隷の身分の筈だが?と正論で殴られた。それもその筈あの勝負をふっかけたのは私なのだから、今はただただ口をつぐむしかない。
慣れた手付きで駒込ピペットに入った赤色の液体を、ビーカーの中の青色に染まった液体に注入する。二つの異なる液体が混ざり合い、姿形がみるみるうちにドロドロした紫色に変わる。何をどう調合したらこんな恐ろしい物体が生まれてしまったのか。そもそもこれは何を目的とした物体なのか…。得体の知れないそれを見ながら乾は満足そうに頷いた。
「うん、漸く成功だ。」
「は、何が?」
その得体の知れない紫色に私が現を抜かしていたら、乾はその眼鏡をキラリと光らせて、恋の媚薬だよ、なんて言いやがった。化学で証明出来ない《恋》というもの。彼の口からこんな単語が零れ落ちてくるなんて思ってもみなかった。
「水野の好奇心から予測するに…そろそろ飲みたくなってきた頃合いだろう?」
「そこまで好奇心旺盛じゃありません!普通誰かに使ってみたくなったかとかを聞くもんじゃないの!?」
「生憎まだこれを一般人に試してみる度量は持ち合わせていないんでね。」
いやいやいやそれ危ないじゃない!それを私に飲ませようとするなんてどういうつもりよ!?
「忘れたのか?水野は俺の奴隷だろう?」
「あのねえ!?」
「奴隷を1週間から1ヵ月に延長してやってもいいが。心配しなくていい、生命の安全は保障する。」
黒縁眼鏡のレンズが蛍光灯の光を反射する。口元にうっすら広がる笑みはもう不気味そのもので、奴隷契約を1ヵ月に引き延ばされたらたまったもんじゃない。乾が小さなグラスにほんの少量移し替えた紫色の液体を、私は決死の思いでグイッと飲み干した。
「気分はどうだ、水野。」
「意外と甘酸っぱかった…っていうかドキドキする。」
「フフフ……データ、取られる気になったか?」
「なりません!!!」
乾が右手の人差し指で、少しずり落ちた眼鏡をくいっと上に上げた。双子座のAB型、かなりの変わり者だけど、顔だけは人並み以上に整ってる。いや、ちょっと待って、この胸焼けは、何?
「それが恋、というものか。良いデータが取れたよ。」
「ちょっ、な、何言って!」
「ちなみに俺がYESと答える確率は100%だ。安心したか?水野。」
乾のばーか、彼に聞こえるようにわざとらしく呟いてみる。私の声でビーカー内の液体が微妙に振動した…ように見えた。……本当、回りくどい事するんだから。両片想いで意地っ張りな私たちの水面下の戦いに終止符をつけるためには、必要な洗礼だったのかもしれない、なんて納得している自分がいたりいなかったり。1週間の奴隷契約は今日で解消するけれど、明日また別の契約が交わされるのかもしれない。一応、期限は、無し、ということにしておこう。一応ね。
こんな事しなくたって、彼の一言一言は、いつもいつでも心に猛毒。
ヒトの致死量0.15g
(ほんの少量、恋という名の罠に堕ちる)
*****
First draft: 20081228
Second draft: 20200130
化学式KCN。別名青化カリ、青酸カリ。
黄血塩を赤熱すると生ずる無色の結晶。
《猛毒》。
「……約束より1分と23秒遅い。」
「悪かったわね!これでも急いだの!」
化学実験室窓際の席、息を整えて乾の横にちょこんと座る。黒板には本日最後の授業で言及されたのか、なんだか物騒なことがつらつらと書かれていた。遡る事約7日前、1週間の相手の奴隷を賭けたチェス勝負で私は乾に見事に惨敗。(乾がこんな洒落たゲーム得意とか反則じゃん!)それで放課後毎日乾の実験を手伝わされる始末。どんな恐ろしい物質をこの世に生み出そうとしているのか、奴隷の私に情報は一切教えてくれない。正直怖い。…そんな非日常もあと数時間で終わろうとしているのだけれど。
「今日は何してるの?」
「企業秘密だよ。いつも言っているだろう。」
毎日毎日彼が何をしているのかを、先述の通り私は知らない。無報酬で手伝ってあげてるんだから、少しくらい教えてくれても良くない!?そう反論するとフフフと不気味な笑みを浮かべながら、ボランティアではなく奴隷の身分の筈だが?と正論で殴られた。それもその筈あの勝負をふっかけたのは私なのだから、今はただただ口をつぐむしかない。
慣れた手付きで駒込ピペットに入った赤色の液体を、ビーカーの中の青色に染まった液体に注入する。二つの異なる液体が混ざり合い、姿形がみるみるうちにドロドロした紫色に変わる。何をどう調合したらこんな恐ろしい物体が生まれてしまったのか。そもそもこれは何を目的とした物体なのか…。得体の知れないそれを見ながら乾は満足そうに頷いた。
「うん、漸く成功だ。」
「は、何が?」
その得体の知れない紫色に私が現を抜かしていたら、乾はその眼鏡をキラリと光らせて、恋の媚薬だよ、なんて言いやがった。化学で証明出来ない《恋》というもの。彼の口からこんな単語が零れ落ちてくるなんて思ってもみなかった。
「水野の好奇心から予測するに…そろそろ飲みたくなってきた頃合いだろう?」
「そこまで好奇心旺盛じゃありません!普通誰かに使ってみたくなったかとかを聞くもんじゃないの!?」
「生憎まだこれを一般人に試してみる度量は持ち合わせていないんでね。」
いやいやいやそれ危ないじゃない!それを私に飲ませようとするなんてどういうつもりよ!?
「忘れたのか?水野は俺の奴隷だろう?」
「あのねえ!?」
「奴隷を1週間から1ヵ月に延長してやってもいいが。心配しなくていい、生命の安全は保障する。」
黒縁眼鏡のレンズが蛍光灯の光を反射する。口元にうっすら広がる笑みはもう不気味そのもので、奴隷契約を1ヵ月に引き延ばされたらたまったもんじゃない。乾が小さなグラスにほんの少量移し替えた紫色の液体を、私は決死の思いでグイッと飲み干した。
「気分はどうだ、水野。」
「意外と甘酸っぱかった…っていうかドキドキする。」
「フフフ……データ、取られる気になったか?」
「なりません!!!」
乾が右手の人差し指で、少しずり落ちた眼鏡をくいっと上に上げた。双子座のAB型、かなりの変わり者だけど、顔だけは人並み以上に整ってる。いや、ちょっと待って、この胸焼けは、何?
「それが恋、というものか。良いデータが取れたよ。」
「ちょっ、な、何言って!」
「ちなみに俺がYESと答える確率は100%だ。安心したか?水野。」
乾のばーか、彼に聞こえるようにわざとらしく呟いてみる。私の声でビーカー内の液体が微妙に振動した…ように見えた。……本当、回りくどい事するんだから。両片想いで意地っ張りな私たちの水面下の戦いに終止符をつけるためには、必要な洗礼だったのかもしれない、なんて納得している自分がいたりいなかったり。1週間の奴隷契約は今日で解消するけれど、明日また別の契約が交わされるのかもしれない。一応、期限は、無し、ということにしておこう。一応ね。
こんな事しなくたって、彼の一言一言は、いつもいつでも心に猛毒。
ヒトの致死量0.15g
(ほんの少量、恋という名の罠に堕ちる)
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First draft: 20081228
Second draft: 20200130
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