ルシサン短編まとめ

 無事復活を果たし、役割を還したルシフェルはひとまず騎空団へと身を寄せることとなった。そんな彼へと団長が託した初仕事は、アウギュステ列島の小さな島での調査依頼だった。そんなことをルシフェル一人にやらせるなんてと抗議の声を上げたサンダルフォンがそのまま付き添うことになり、二人はアウギュステの空に放たれたのである。
「停泊する場所がないから飛んで行けなどと、扱いが雑にも程がある」
 普段はしまっている翼を広げ、文句を口にしながらもサンダルフォンは目標の島を探した。出立前に地図を記憶したので程なくそれは見つかる。
「だからこそ私達に任せてくれたのだろう。問題の島は空ではなく海の上にある。大きな島を経由するには水上を渡る船が必要だ」
 島の上空へと差し掛かり、降りる場所を探していると、突然ガクリと体が重力に引かれた。
「なっ……!?」
「サンダルフォン、こちらへ!」
 島へと吸い込まれるように落ちる最中、ルシフェルの腕がサンダルフォンを引き寄せ抱き込む。状況を把握する間もなく、衝撃が二人を襲った。
 あの高さから落ちたのでは、星晶獣と言えどタダでは済まないかも知れない。それよりも、ルシフェルは。
 恐る恐る瞼を上げると、やはり彼は己を抱き込んだまま倒れていた。慌てて身を起こそうとすると、小さな小枝や葉を纏い付かせたまま笑ったルシフェルが、上を指差した。
「木々が密集した場所へと狙って落ちた。その葉がやわらかく堆積していたことも良かったようだよ」
 癖のある毛に絡んだ葉を除かれ、サンダルフォンはまだ彼の上に乗っていたことを思い出し、這うようにして離れた。
「あ、ありがとう……ございます」
「お互い無事で良かった。さぁ、状況を確認しよう」
 二人が落ちたのは島の南端、海岸に近い辺りだ。このまま南に向けて歩けば島の端へと出られるだろう。
「任務はこの島にある遺跡の調査、だったね。これがそうじゃないかな」
 ルシフェルがポンと手を置いたのは、半ば緑に埋もれた石碑らしき物だ。生い茂る木々が作る陰ゆえに苔生したそれの表面には、何やら文字が掘られている。
「これは……星の民の文字、では」
「どうやらそのようだね。この島に手に負えなくなった強大な星晶獣を封じているらしい」
「なるほど、だから俺達はその封印の煽りを受け、この島の上空で力を失い落下したと」
「そういうことだろうね」
「ということはもう調査は終えたから島を出て封印の届かない場所から飛んで帰れば……!」
「封印の石碑は四方に四つ、封印箇所に五つ目があるそうだよ」
 項垂れたサンダルフォンの肩を抱き、ルシフェルはひとまず海岸に向けて歩き出す。
「幸い島はそれほど大きくはない。四日もあれば全て調査出来るだろう」
「しかし、肉体を顕現したままということは、それを維持しながら四日も過ごさなければいけないのでは。星晶獣の力も使えない今、人間と何も変わらないようなものだ」
 肩に回された腕を気にしながら、遅れぬようにと歩く。ルシフェルは復活してから、何故かスキンシップが激しいような気がした。
「肉体の維持には、水と食料がいる」
「私達の身体能力は元々高い。何とかなるだろう」
 君となら。そう囁きながら手を取ったルシフェルはどこか楽しそうで、返すべき言葉を失った。
 やがて見えて来た白い砂浜と青い海に、これからの四日感を思うサンダルフォンであった。


おわり
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