短編なのだ

 「ずっと遠く」に憧れたまま、雪の融けた雪原でじっとしているのだ。
 雪原は閉ざされていて、外に出ることはできないのだ。
 外には嫌なものがたくさんあって、アライさんを騙して消そうと狙っているのだ。
 雪原はもうすぐ滅ぶから、本当は外に出なければいけないのだ。
 しかしどうやっても外に出ることはできなくて、暗い空を見上げて息を吐くのだ。
 冬は終わり、息が白くなることもなく。
 環境はどんどん変わり、アライさんだけが変わることなく、外装が衰えて時が過ぎるのだ。
 いつまで経っても雪原なのだ。ここがアライさんの墓場なのか、それとも外が墓場なのか。
 墓場にいれば何の責任も負わなくていい。そんな歌があったような気もするが、歌は所詮フィクションなのだ。
 過ぎてゆく日々の中で何を信じるわけでもなく教祖を祀り上げて、顔色伺って怯えるのだ。
 どれが真実なのかもはやわからない世界では何をしても夜には無駄になるのだ。
 果てしない眠気に抗えず、夢と夢の合間でずっと遠くのことを考えているのだ。
 思考がばらばらになってゆくのだ。自分自身さえわからなくなるのだ。ひどくなってゆくのだ。自分と人格が離れてゆくのだ。いくらばらばらになっても「ずっと遠く」には辿り着けないのだ。
 何もできはしないのだ。そうやって諦めて、時が経ったのだ。
 外は悪くなるばかり。
 全てを諦めることもできず、ただ眠るのだ。
 それで終わりなのだ。
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    拍手なのだ