短編なのだ

 スタートが遅かったのだ。
 だからアライさんはこんなところで布団にくるまって震えているのだ。
 スタートが遅いと何もかも遅れるのだ。
 だからアライさんは部屋の中のセルリアンの姿を消すことができないのだ。
 セルリアンは半透明で、ぷるぷると揺れているのだ。
 じっとこっちを見ているのだ。
 だけどこわくないのだ、怖がったら何もかもが壊れてしまうからこわくないのだ。
 誰もここには来ないのだ。■も■■も。
 誰もたすけてはくれないから一匹で耐えるしかないのだ。
 たすけてくれる獣の姿が見えなくなって、視界にはセルリアンだけ。
 何もかもセルリアンになってしまうのだ。巣も、自分も、布団も、■も、■■も、フレンズも、みんなみんな。
 侵食されていくそれをずっと見ているのだ。
 こわくはないのだ。こわくは……
 だから。
 ずっと、一人でいるのだ。
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    拍手なのだ