短編なのだ

『生きていくのだ? 生きていくのだ? 生きていくのだ?』
 セルリアンがうるさいのだ。セルリアンが窓をばんばんと叩いているのだ。
 窓が割れたらこまるので、アライさんは窓に段ボールを貼り付けたのだ。
『そんなことで耐えられるのだ? 耐えられるのだ? 耐えられるのだ?』
 セルリアンがうるさいのだ。セルリアンは段ボールの隙間からアライさんを覗いているのだ。うるさいのだ。うるさいのだ。
『社会は厳しいのだ。お前程度では耐えられないのだ。社会は厳しいのだ。無理なのだ。無理なのだ。無理なのだ』
「うるさいのだ、黙ってほしいのだ」
『無理なのだ? 無理なのだ? 無理なのだ?』
 アライさんは布団を全身にぐるぐると巻き付けて、耳をふさぐのだ。
 セルリアンが何か言っているけど、聞こえないのだ。
『そうやってまた耳をふさぐのだ。聞こえないふりをするのだ。合わないフレンズは切り捨てて、見ないふりしてそれで終わりなのだ。平和な世界なのだ。それでいいのだ? 世界はクソどもでいっぱいなのだ。それでいいのだ? それでいいのだ? それでいいのだ?』
「いやなのだ。お前は間違ってるのだ。帰れなのだ、言論の自由なのだ。生命の保持なのだ」
『アライさん、アライさん、アライさん』
「黙ってなのだ! 集中できないのだ!」
『何に集中するのだ? もはや何もないのだ。何ができるのだ? アライさんは何もできないフレンズ。何もできない、何も』
「うるさいのだ……うるさいのだ……」
 耳をもっと強くふさぐのだ。それでも聞こえるのだ。頭の中で声が鳴っているのだ。
『何もできないフレンズ。■■■しまえばいいのだ。何もできないのだ。罪を贖え、罪を贖え、罪を』
「罪なんてないのだ……セルリアン、消えるのだ……」
『ない? おかしなことを言うのだ。罪は確かにそこにあるのにないふりをするのだ? 世間は許しはしないのだ。アライさん、アライさん、アライさん』
 身体を丸めるのだ。頭の中の声をかき消すのだ。声を出したら誰かの迷惑になるのでひたすら体を丸めて耐えるのだ。
『……、……、……』
 遠くで何かを言ってるけど聞こえないのだ。それでいいのだ。何も聞かないのだ。■■はなかった、■はいなかった、出会わなかった、セルリアンは死んだ。
 それでいいのだ、それで。
『……! ……! ……!』
 何も聞こえないのだ。おわりなのだ。だからそれでいいのだ、それでおわりなのだ。
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