短編なのだ

 言えないのだ。言えないのだ。
 それは本当に言えなかったのだ?

 どろどろの何かがそこにいたのだ。どろどろの何かは遠ざかっていって今はもういないのだ。
 どろどろの何かは、アライさんのそれを崩して、そうしてそれを忘れたのだ。

 何かがいないのは良いことだとアライさんは思ったのだ。けれどしばらくすると忘れられたことが■くなってきたのだ。
 アライさんを忘れたことじゃない。
 それを忘れたことが。
 ■いと。

 それならどうすればよかったのだ? 線を繋ぐわけにもいかないのだ、線は全て切ってしまった……それなら?
 アライさんのこともそれのことも、何かにとっては過ぎた美談。きっと■■■と一緒にお涙頂戴のしぐさをして笑っているのだ。

 ■いのだ。■いのだ。■いのだ。

 アライさんは一人、灰色のへやで丸まって、頭をぐるぐる。
 ぐるぐる。止まらないのだ。■いのだ。
 何も消えてはくれないのだ。時間が解決するなんて嘘だったのだ。凍結されたものは鮮度が保たれ、永遠に色鮮やかなまま。■しみも、■みも。
 忘れられないのだ。
 その■■の■い■きが。

 だから今日もおしまいにして、そう――世界は滅びましたのだ。
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    拍手なのだ