短編なのだ

 過去はぼんやり。
 普段は大人しいくせに、思い出そうとすると牙を剥くのだ。
 過去自身に牙を剥いてる自覚はないのだ、過去は過去、ただの事実であって、それを苦痛に思っているのはアライさんがアライさんだからで、でも、つらいものはつらいのでやっぱり過去は嫌いなのだ。
 普段は過去のないアライグマなのだ。のっぺりとした空白の後、突然「存在」だけがある、たよりないアライグマなのだ。
 過去は空白、未来は不安、現在はふわふわ。どこにも身の置き場がないのだ。おそらく、過去の上下にずっしり積もった灰色の雪のもっと下、何もない地下空間に無理矢理居場所を作るのが一番いいのではないかと思ったりもして、実際たぶんそうなのだ。
 重苦しい雪の下で生きて、息が詰まるのだ。忘れようとするのだ。それでも過去は重たくて、苦しくて。
 いつになったら解放されるのかわからなくて、永遠に続くのだ。
 無意識の中、夢に出てくる過去の残骸に苦しめられて正気を失って。
 そうして夕方起きるのだ。
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    拍手なのだ