短編なのだ

 透けるのだ。向こうが透けて見えるのだ。ヒトの振る舞いから、何を望んでいるか、考えているか、どんな気持ちでいるか、全てが透けて見えるのだ。
 それは妄想、はかせは妄想だというのだ。アライさんが見えること、透けて見ているものは実際のヒトの心とは違ってアライさんの妄想なのだと。
 だけどアライさんには見えるのだ、見えてしまうのだ。妄想なのにうるさくてリアルで、それらを見てぐるぐる、ぐるぐる。
 妄想なら妄想らしく大人しく埋まっていてほしいのに、ふとした瞬間気になりだしたらもう終わり。ぐるぐる、ぐるぐる、あいつは■を考えている、こいつは■をしてほしがって、そいつはアライさんを■しようとしている、■、■、■■■■……
 際限なく飛び込んでくるのだ。透けて、透けて、透けて、そこらじゅうが透けたものだらけ。強烈な色彩に頭がくらくらするのだ。
 全ての願望に答えなければいけないと思うと胸がつまって何もできない、心の蓋を閉めても見えるものは見えて、視界を閉じても色が見えるのだ。
 自分を閉じれば今度は自分がうるさくて、不安、恐怖、孤独に焦燥感。
 落ち着かない日は何もかも落ち着いてくれず、特に疲れることなんかしてないのに何もかもがフラッシュしていて感覚がやられるのだ。
 何が悪いのか、全てが妄想なのか、妄想と現実の違いなんてわからなくてぐるぐる、自分で自分に疑心暗鬼になってぐるぐる、とっくに通り過ぎたはずの考えや不安が舞い戻ってぐるぐる、心臓が重くてぐるぐる。
 そうやって何もできずにただ時間だけが過ぎ。
 そうしてまた、「明日」が来てしまうのだ。
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