短編なのだ

 歩くのだ。
 疲れてもうるさくてもつらくても歩くのだ。
 だけどアライさんはもう歩きたくないのだ、気力がなくなってしまったのだ。
 それでも歩かなきゃいけないのだ。そうしないと誰かが怒るのだ、誰がおこるのかはわからないけど怒るのだ。
 期待にこたえなきゃいけないのだ、「良くならなければいけない」という期待に。
 うんざりなのだ、何もかもうんざりなのだ。アライさんは何もしたくないのだ、ずっとぼうっとしていたいのだ。疲れたのだ、疲れたのだ、歩くなんて無駄なのだ、歩いても歩いても何も返ってこないのだ。
 それでも歩け歩けと声がうるさくて、耳を塞いでも聞こえるような気がして、だけれどそれは妄想で。声がするなんて、そんな気がするだけなのだ。けれども声は確かにするし、急かされて急かされて焦って焦って転ぶのだ。
 転んだアライさんは立ち上がれなくなって、そのまま何もできなくなって、それで……終わりなのだ。
 時が止まり、終焉がやってくる。
 それで本当に終わりなのだ。
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    拍手なのだ