短編なのだ

 何をしても何をしても一匹、アライさんは一匹きりなのだ。
 消えたフェネックの影を追ってどこまでも走れたらよかったのだ。
 だけどアライさんには勇気も根気もないのでフェネックなんて追うこともできず、消えてなくなってしまったのだ。
 アライさんにはすべてが見えるのだ、というのは幻覚で、事実、何も見えてはいないのだ。
 追っても追っても無駄だから、追うのをやめてしまったのだ。
 全ては幻覚の中。灰色の雪だけがしんしんと降っているのだ。
 アライさんが███として扱われることに慣れたのはいつからだったろうな?
 アライさんはよわいのだ。プライドもなく、引っ込み思案で弱気で。
 うじうじしているのだ。
 どうして?
 わかりはしないのだ。
 こんなはずではなかった、はもう通り越し、いやな獣生だったなあ、でおわるのだ。
 何も成し遂げることなく。

 それを悲しみと呼ぶのかどうかはきっと、アライさんの決めることではないのだ。

 おわり。
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