短編なのだ

「ぐるぐる回るのだ~たーのしーのだ~」
 アライさんは一人で笑っています。
「ぐるぐる~壁ぐるぐる~ジャパリまんぐるぐる~アライさんの毛皮もぐるぐる~」
 楽しそうなアライさんでしたが、ふと真顔に戻ります。
「ぐるぐるずっと終わらないのだ?」
 アライさんは下を向きました。
「地面もぐるぐる、うえ、気持ち悪いのだ……」
 アライさんの頭の中に「ぐるぐる」という文字が山のように登場し、ぐるぐると回ります。赤、青、黄色、緑。ごちゃごちゃとした文字の山はまるで何かの生物の群れのようにまとまってぐるぐると回ります。背景もぐるぐる回ります。巣の外で鳴っている風の音もぐるぐる回ります。耐えられずに目を閉じた真っ暗な視界もぐるぐる回ります。
「ぐるぐるやめるのだ……ぐるぐるやめるのだ~! フェネ……、いなかったのだ。最初から……」
 アライさんはしゃがみ込み、頭を抱えます。
「ぐるぐる……ぐるぐる……」
 アライさんはアライグマのフレンズであって、オオカミのフレンズではありません。
「ぐるぐる……ぐるぐる……」
 日が落ちても、月が昇っても、アライさんは呟き続けていました。
 巣は冷たく、ひんやりと静か。アライさんの声だけがぼそぼそと響き、そこに応えるものはいませんでした。
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    拍手なのだ