短編なのだ

 精神統一するのだ。心頭滅却するのだ。冬に近い春だが心頭滅却するのだ。そうすれば涼しくなるのだ。
 寒くなるのだ。
 寒くなければだめなのだ。寒くなければおわりなのだ。アライさんは寒い中にいなければならないのだ。■をしたから。■を吊ったから。
 永遠の冬であれば贖罪になるのだ。世界はもっともっと寒くならなければいけないのだ。それが永遠の冬なのだ。
 永遠の冬がくるとみんな眠ってしまって、アライさんも眠ってしまうのだ。眠らない程度の寒さでなければいけないのだ。部屋の中に雪が積もって、寒いのだ、寒いのだ。足がすっぽり埋まっているのだ。寒いのだ。
 どうしようもなくなって天井を見ると、地下なのだ。地下深く、長い長い階段でしか行けない部屋にアライさんはずっといるのだ。
 いつか、春が来た夢を見たのだ。けれどもそれは一瞬のことで、すぐにまた長い冬が来たのだ。
 ■からは逃げられないのだ。ずっとずっとずっと背負い続けなければいけない、と半透明のセルリアンが言うのだ。遠くに行ったセルリアンが言うのだ。
 一人だけ覚え続けていて、ほかの■はそれを忘れてしまうのだ。それが■なのだ。
 永遠の冬の部屋で楽になるには贖罪をやめるしかないのだ。それは■なのだ。■なので、楽になることはできないのだ。
 ずっとずっと重いのだ。余生は贖罪で過ごさなければいけないのだ。アライさんは失敗作なので。
 余生などないのだ。ずっと獣生なのだ。つらさは去らず、明日もさらなる苦難が来るのだ。
 求道者になることは許されず、己の教義で■を与え続けるよりほかはないのだ。
 誰も救わず、誰にも救われず。
 結局誰が赦すのだ?
 概念だけが浮いていて、一番自分を赦していないのは自分自身だと知りつつも、贖罪を続けているのは世間のせいではなく己自身が望んでいるからだと知りつつも、続けるしかないことに絶望しつつも、アライさんは雪に埋まることしかできないのだ。
 おわりなのだ。おわってしまったのだ。ここからどこにも行けないのだ。行ってはいけないのだ。ずっとずっとずっと背負い続けなければいけないのだ。幸せになってはいけないのだ。誰にも明かせないのだ。
 それが絶望なのだ。
 幸せなど存在しないのだ。幸福も希望もただのまやかしにすぎず、絶望こそが真実なのだ。
 そう言い切るには己は恵まれすぎているのだ。つまり、甘えているのだ。世界に?
 わからないのだ。それは呪いなのだ。
 いつまで苦しみ続けなければいけないのだ? わからないのだ。誰も教えてはくれないのだ。
 埋めた己はいつまでも苦しみ続けろと呼ぶのだ。土の下から呼ぶのだ。
 呼んでいるのだ。雪の下、土の中から。
 ■■でいるのだ。もうずっと前に。
 ■■したと思ったのに。一匹きりで生きていけると思ったのに、まだ放してくれないのだ。ずっと呼んでいるのだ。償い続けろと呼んでいるのだ。
 しんだのは■で、生きているのは■なのだ。■が■で、■は■なのだ。
 おろかなのだ。心底おろかなのだ。
 何もかもが「わかる」世界なら「わからない」己はいったい何なのだ? ■なのだ。わかっているのだ。けれどもわからないふりをしているのだ。
 それは守るためなのだ? わからないのだ。嘘かもしれないのだ。まやかしかもしれないのだ。己が己を化かしているのだ。
 雪で。
 地下のものを忘れさせようと、忘れさせまいと、化かしているのだ。
 埋めたものの正体を周囲に気取らせまいと、己すら化かして。
 その先にあるものはたぶん、破滅なのだ。
 結局自分自身のことしか考えられなくなって、誰にも顧みられなくなって、雪の中、■■でいくのだ。そう思うのだ。たぶん、おそらく、確実に。
 確実なんて存在しなくても、己の中では確実なのだ。
 そうやってまやかしに呑まれて、おわりなのだ。
 と。
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    拍手なのだ