『雪の下』シリーズ

 金属は冷たいのだ。
 熱いときもあるのだ。
 でもそのときは冷たかったのだ。
 夏の朝、雨が降っていたのだ。アライさんはこうえんで、逆上がりをしようとしていたのだ。
 何度挑戦してもできなくて、フレンズたちは皆できるのにアライさんだけができなくて、親イさんからおこられて、どうしてできないのだ?
 そのときのことを思い出すのだ。
 金属は冷たいのだ。
 意識が冷えるのだ。
 濡れた金属は手に引っ付くのだ。
 心をひっかいたかのように、記憶に傷がつくのだ。隙間から何かが見えるのだ。あれは、あれは、冬、夜、やめるのだ、やめるのだ、それは、それだけはいけないのだ。
 金属は冷たいのだ。薄暗くて明るいのだ。
 地上で生きていたのに地下に潜ったまま生きることになった獣はいったいどんな気分になるのだろうな。
 わからないままスライドを埋めるのだ。
 思い出さない方が良いこともあるのだ。
 でも、いつになったら思い出してもよくなるのだ? 自分の記憶なのに、どうしてだめなのだ? 自分が自分に傷をつけるなんて生物としてナンセンスなのだ。そんな機能はいらないのだ。
 だけど現実に傷はついているのだ。
 埋めるのだ、埋めるのだ。時間は残り2ヶ月なのだ。
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拍手なのだ