短編なのだ


 どしゃぶりの日、悪夢を見るのだ。
 過去の夢、そこはいつも雨が降っていて、寒くて、灰色。
 雪ならまだ良い、雨だと最悪。傘なんか役には立たなくて、折れて壊れてアライさんはずぶ濡れ。そのまま家に帰って毎日風邪気味なのだ。
 水浴びはキライでタオルもキライで何もかもキライだから布団に潜るのだ。
 ■■はキライで自分もキライで何もかもキライだから■■なのだ。
 そうやって逃げて逃げて、どこにも辿り着けずに、気付けば穴の底。そこからは落ちて、落ちて、落ちるばかり。
 自分は他者に迷惑しかかけない獣だと思っていたのだ。困らせて、怒らせて、見下させて、相手を嫌な気持ちにさせて、そのサイクルをいつも繰り返して。
 どれだけ経ってもそれは変わらず、困らせて、怒らせて、見下させて。
 アライさんは哀れな獣なのだ。ヒトから見下されることしかできない畜生なのだ。
 アライグマとヒトは決してわかり合えることはなく、仲良くなることもできない。もとより種が違うのだ。そのことにもっと早く気付けていれば。
 言っても何も変わらないのだ。アライさんは哀れな獣のまま、過去はどしゃぶりのまま、心は曇天のまま。
 雨が降っているのだ、止まない雨が降っているのだ。解凍されたそれはアライさんを侵食し、狂わせるのだ。
 だから今日もずるずる、変わらず、不変の過去の悪夢を見るのだ。
 ずっと見るのだ。
 ずっと。
 それで終わりなのだ。
31/76ページ
    拍手なのだ