短編なのだ

 遠い記憶が蘇るのだ。
 あれは何年前のことなのだ? 数え、数えて■年前、もうそんなになるのだ。
 記憶が蘇るのはいつも唐突、前触れなんかなく、突然なのだ。
 それはもう普段は悪夢、悪夢、悪夢に次ぐ悪夢。役者は入れ替わり立ち替わり現れて、こんなに毎日出演してるのに現実には何の影響もないなんて信じられないのだ。
 毎日毎日夢を見るのだ。■■な夢。
 起きているときは無、眠りに落ちてから思い出すのだ。過去に次ぐ過去。
 のっぺりと、それはもうのっぺりと、続くのだ、続くのだ。それはアライさんを責めて責めて、苦しくて、逃れたくて、でも逃げられなくて、ぐるぐる、ぐるぐる。
 出演者が変わってもそれは続くのだ。のっぺりとのっぺりと、何をしていても、どんな夢でも、変わらずずるずるついてきて、ぐるぐる。
 目覚めた瞬間消えるのだ。不自然なほどきれいに消えて、そこに残るのはただ、無。
 どうやっても逃れられないのだ。明らかに不具合なのだ。恐ろしい自分なのだ。目覚めた後、何もなくなった心を見て恐怖するのだ。もしあの夢がここに現れてしまったら? 違う、本当は「無い」のがおかしいのだ。本当は在るはずのものがここには「無い」のだ。病理なのだ、それはもう。
 どこまで逃げても着いてくるのだ、夢の中では正気がないのでいちいち対応してぐるぐる、そうして焼かれてじりじり。
 いつになったら逃げられるのだ? いつまでこれが続くのだ? じりじり、ぐるぐる、ざりざりが。
 答えはないのだ。それよりそもそも前提が間違ってる、そんなことはもう知っているのだ。だけど向き合ったってそれは爆弾、対処できるわけもなく、結局のところ目を背けたまま表層だけ見て、解放してくれとぼやくのだ。
 そして今日もまわるのだ。
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