短編なのだ

「星を見に行くのだ!」
 アライさんはそう言って、深夜に巣を出ました。
「星は高いところじゃないと見えないのだ!」
 急ぎ足で歩くアライさんの歩調が速くなって、速くなって、駆け足に。
 頭上で過ぎ去っていく星々はアライさんには見えません。
「いそぐのだフェネック! いそがないと星なくなっちゃうのだ!」
 夜の街を駆けるアライさん。
 走って、走って、いつしかアライさんは屋上に来ていました。
「やったーついたのだ!」
 アライさんは空を見上げようとしてくらくら、ぱたんと倒れてしまいました。
「くらくら……」
 目を回しているアライさん。
「フェネックー、アライさんの代わりに星を見てくれなのだー。アライさんはくらくら……フェネック?」
 アライさんは、は、と周りを見回します。
 フェネックは、
 フェネックは。
「ああ、そうだったのだ。フェネックは、フェネックは……」
 大の字になったまま空を見るアライさん。
「気付かなかった方が、」
 よかったかもしれないのにね。
 星はなく、他者もなく、一匹ぼっちの屋上はただ暗いだけ。
 街の灯だけがしらじらと、夜を照らしておりました。
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