短編なのだ

 アライさんが悪いのだ、アライさんが悪いのだ?
 ほんの少し前までは、アライさんが悪いのだ、と思っていたのだ。
 けれど今は、アライさんが悪いのだ?
 理不尽なことが見えてきて、理不尽なことも言われて、もやもやぐるぐる回るのだ。
 アライさんが今いるここは、平穏でなくひょっとしたら、いや、それもわからないのだ。
 自我を押さえつけられて、ぎゅうぎゅう苦しく締められて、縛られて、怒鳴られて、罵られて、そんな毎日がずっとずっと続いてきたのだ。
 真冬には戻りたくないと思っていたが、さすがに限界は来るのだ。
 恐ろしい夏からは逃げなければ。
 そこでこのジャパリコイン不足。
 何も変わらずアライさんは夏の下。
 親イさんは夏の嵐なのだ。台風なのだ。でも台風と違うのは、弱まったり強まったりいつ怒るかわからないところなのだ。
 機嫌を取らなきゃ当然怒るし、取っていても怒るのだ。
 何をしても無駄だと気付いたので、最近は何もせず自由に過ごすことにしているのだ。
 嘘なのだ。
 決まった時間に家事をやらないと烈火のように怒ることはわかっているので、それを避けるためにねむいけど頑張って家事はやっているのだ。
 やっても感謝はされないし、やってもやっても終わらない。家事にも親イさんにも本当にうんざりなのだ。
 うんざりしているのに、本心では好かれたくて、頑張っても無駄だったから、これはすねてるだけなのだ。どんな理不尽なことをされても親イさんが好きなのだ。でも嫌いでもあるのだ。ある朝起きたら消えてないかなと夢想することもあるけど、それは夢に過ぎないのだ。
 苦しいのだ。苦しいのだ。怒鳴るのをやめてほしいのだ。罵るのもやめてほしいのだ。うるさいてれびもやめてほしいのだ。色々な理不尽ルールを強制するのもやめてほしいのだ。
 やめてほしいことだらけなのだ。
 だけどこんな風に陰で悪口言ってるアライさんが一番悪いというのは一番わかりきってることなのだ。
 悪いのだ。
 悪いのだ?
 何もわからないのだ。何をしても楽になれないなら、思考を凍結させた方が平和なのだ。
 もういいのだ、何もかも。
 それでもやっぱり苦しくて苦しくて、無理矢理意識を落とすのだ。
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    拍手なのだ