短編なのだ

 夜。
 今日も一匹なのだ。
 端末を見ながら、流すのだ流すのだ。今日あったもやもやとぐるぐると息苦しさを流すのだ。
 フェネックの話がたいむらいんを流れてきて、少し、背筋がぞっとして。
 ■■がだめなら■■、それがだめなら■■、違うのだ、フェネックはそういう関係じゃないのだ、フェネックは、フェネックは、それでもアライさんはフェネックが嫌いなのだ。
 それなら?
 浮かんだ言葉は言葉にならず、ただ襲い来る記憶の嵐に耐えるのみなのだ。
 過去にあったことは消えず、処理しても処理しても思い出して苦しくなる。
 最近は凍結してしまってそういうこともなくなったけど、トリガーを引くと蘇るのだ。
 あの日、深夜、一匹きりで、空から降る雪を眺めて息を吐いたこと。
 あの日、深夜、建物の裏手で、一匹きりで■を探したこと。
 アライさんを苦しめるのは孤独で、癒やすのも孤独。もうずっと、長い間、孤独とは友達なのだ。
 だけどアライさんは「友情」を信じていて、捨てられなくて、それがあるから生きていけるのに、それでもいつも、雪の下の空洞で一匹きりで息を吐くのだ。
 孤独は冬なのだ。永遠に明けることのない冬。
 恵まれてると思わなくちゃいけないのに、一匹じゃないと思わなくちゃいけないのに、恩知らずのアライさんの心にはそれでも冬がやってきて、温かいものの全てを凍り付かせてころすのだ。
 春は来ない。夏は来ない。秋も来ない。ずっとずっと冬なのだ。
 居間から聞こえるうるさいてれびの音。今日も親イさんが怒鳴っているのだ。
『お前は頭がおかしいんだから、早く入院するのだ!』
「……」
『早くどこかに出て行って、一匹で死んでくれなのだ!』
「……」
 一匹じゃ耐えられないのに心は一匹で、一匹じゃないと耐えられないのにリアルはヒトがいて。
 結局のところ、アライさんの冬はアライさんのものではなく、アライさんだけの冬は限りなく無力なのだ。
 明日もきっと。
42/76ページ
    拍手なのだ