『雪の下』シリーズ

 今日の終わりも明日の始まりもアライさんには不明瞭なのだ。
 溶けるように意識が落ちて、ぐずぐずと苦しい明日が始まって、途切れ途切れの意識の中でようやくきちんと目覚めるともう今日が終わるのだ。
 長い、長い、長い、区別のない日々が永遠に続いているのだ。
 月曜日も火曜日も水曜日も木曜日もない、金曜日と土曜日と日曜日だけがある、平日に息をすることは苦しくて、休日が終わるのは早くて、皆と同じ仕事スタイルじゃないくせにそんなとこだけ皆と合わせて空気を読んで、馬鹿みたいだと思うけど、馬鹿みたいなのだ。
 眠って、眠って、眠って、悪夢ばかり。夢なんてすぐ忘れてしまうと言うけどアライさんは夢のことばかり覚えていて、重く息苦しい夢の空気を引きずったまま朝が過ぎ昼が過ぎ、夜だけ正気の時間なのだ。それもすぐに過ぎて夢の中、また息苦しい夢(にちじょう)が始まるのだ。
 起きてる時間より寝てる時間の方が長い、よく聞く言い回し。寝てる時間の方が長いなら、現実よりも夢の方が現実なのだ。
 夢。昔の知り合いがたくさん出てくるのだ。そのヒトたちの評価をアライさんは気にして気にして媚びて媚びて、疲れ切って目を覚ますのだ。
 お前は相手に優しさを期待しているんだ、と言われたことがあるのだ。アライさんはそれが苦しくて苦しくて、だめだと思っていて、甘えだと思っていて、でもやっぱり期待をしてしまって、夢の中で下出に出て優しさをもらって心が満たされて、惨めな気分で目を覚ますのだ。
 ずっとずっとそれなのだ。期待。媚び。優しさ。繰り返すのだ。
 いい加減解放されたいのだが、やめられないのだ。
 それもまた、スライドの一つなのだ。
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