『雪の下』シリーズ

 ざりざり。
 ざりざり。
 一番大きい記憶。
 大きくて、ぎらぎらしていて、捉えきれないのだ。
 こいつから手をつけるのは明らかに間違いなのだ。重すぎたのだ。
 手に持った媒体の画面に偶然映ったとある情報をスライドがキャッチしてしまい、スイッチが入ったのか色づき初めてしまったのだ。
 困ったのだ。今のアライさんではこいつを処理することはできないのだ。
 ぎんいろ。
 光。
 ぼんやり。
 春のようで春でない真冬にあったその記憶は一番大きくて、重くて、取り扱い注意のモノなのだ。
 媒体の画面をつけっぱなしで放置していたのは失敗だったのだ。一人で向き合うのはしんどいから気を紛らわそうとつけておいたのがあだとなったのだ。
 このまま解凍されてしまうと大変なことになる、いや、もうほぼ解凍されてしまっているのだ。だけど今処理はできないのだ。
 どうするか。
 そのときメッセージが届いたのだ。
 外の世界から届いたそれは、「アライさん」の記憶に強く作用し、ほぼ解凍されかけていたそれを半セピア色ぐらいに戻してくれたのだ。
 アライさんはよっこらせと記憶を持ち上げ、もとあった場所に戻したのだ。
 媒体から該当するレクイエムを流し、記憶が落ち着いてくれるよう祈ったのだ。
 それでひとまず落ち着いたのだ。
 まだ早い、まだ早いのだ。
 こいつに手をつけるのはもっと先の話なのだ。
 それまでどうか眠っていてくれと、アライさんは祈ったのだ。
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拍手なのだ