短編なのだ

 ひきずるのだ。ずるずると、ひきずっているのだ。うしろに長くのびているのだ。
 ずるずるとひきずって、断ち切れないのだ。断ち切りたいのだ。だけどのびているのだ。
 ずるずると、呪わしいものが断ち切れないのだ。のびているのだ。のびているのだ。のびてうごめいて、呪わしい、過去なのだ。遠い過去。
 過ぎたことなのだ。だけどずるずるはふとしたときに目の前に現れて、ずるずる、ずるずる、今でもひきずってるようで、ずるずる、ずるずる。
 前向き。ずるずる。後ろ向き。ずるずる。アライさんは後ろ向きの方なのだ。
 ずるずるがいつか断ち切れて、軽くなってもずるずるはずるずるのままで、誰にも言えずにぐるぐると、ずるずると、引きずって引きずって黙って丸まって、墓石のような静寂。
 前向きなずるずると後ろ向きなずるずるの間にはとんでもない断絶。二つのずるずるは決してわかり合えずそうしてずるずる。
 反対側のずるずるが目の前にあるから悟られぬよう石になって、心を閉ざすのだ。閉ざして、閉ざして、仮面を被って、ずるずるはずるずるのまま。
 逃げられないのだ。きっと一生ここにあるのだ。
 そうやって今日も、騒がしい静寂の中。
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    拍手なのだ