黒々したもやが心の中にあるのだ。
 黒々したもやは見えなくて、見ようとしても焦点が合わないのだ。
 普段は存在を忘れているけどずっとずっとそこにあって、ふとしたときに浮上してアライさんを戸惑わせるのだ。
 もやは昔は見えてたのに、いつからか見えなくなったのだ。いつからだったかは忘れたのだ。本当にいつの間にか見えなくなってしまったのだ。
 戦おうとしても、見えないので戦えないのだ。
 せめてセルリアンのように形があればよかったのかもしれないのだ。形はないし、アライさんの心の中にしかないので戦えないのだ。
 夢の中でははっきりしていて、睡眠中の朦朧としたアライさんはいつもそれに悩まされるのだ。でも起きたら見えなくなるのだ。
 なんてことないもやだけど、アライさんにとってはなんてことなくないのだ。いつになったら見えるようになるのかわからないけど、見えるようになったらなったで困ることも多いのだ。
 なんてことないもやすぎて、戦うことすら馬鹿らしいのにどうしてここまで怯えなきゃいけないのかわからないのだ。
 嘘なのだ。本当はわかってるのだ。でも、言葉にすると終わってしまうのだ。
 もやはきっと、ずっとあるのだ。アライさんが死ぬまでそこにあるのだ。解消されないままずっとあるのだ。
 きっとそうなのだ。そうじゃないと、許されないのだ。
 許されないから今日もアライさんは眠るのだ。
1/6ページ
拍手なのだ