短編なのだ

 それは遠い記憶。
 嘘なのか本当なのか、アライさんにはもうわかりません。
「インドゾウなのだ! おーい!」
「違うよ~、あれはセルリアン」
「セルリアンなのだ? どう見ても……」
 ふらふらとセルリアンに近付いていくアライさん。フェネックは止めようとしましたが、するりするりとかわされてしまいます。
「アライさん!」
 どすん、という音がしました。
「お前、何してんだ! 危ないだろ!」
 手持ちの武器でセルリアンを消滅させたヒグマがアライさんを叱ります。
「インドゾウ……」
「インドゾウ? あいつならここに来る途中、じゃんぐるちほーで踊ってたのを見たぞ」
「おかしいのだ」
「おかしい?」
 ヒグマは怪訝そうな顔をします。
「随分前から、セルリアンを見ると、フレンズだーって言って走って行っちゃうようになったんだよ」
「何?」
「セルリアンじゃないのだ、フレンズなのだ。どうして攻撃なんかしたのだ? ひどいのだ」
「こいつは……」
「困ったねー……」
 むー、とヒグマは考え込み、そして、
「わかった、しばらく私がお前たちについていよう。こんな状態だと危険なことだらけだろ。そういうときはハンターに任せろ」
「いいのー? ありがとう」
「ハンター? でも、友達が増えるのは歓迎なのだ!」
「……、よろしく頼む」
 そうしてアライさんとフェネックの生活にヒグマが加わりました。
 それからしばらく、アライさんがセルリアンを見つける前にヒグマが倒す日々が続き、危険なことも減りました。
「ヒグマ、ありがとうねー」
「いや。仕事だからな」
「それでもありがとう」
「……ああ」
「フェネック! ヒグマ! たいへ……」
「どうしたの、アライさん?」
「セルリアンなのだ……」
「セルリアン?」
「なんで巣の中にセルリアンがいるのだ!? フェネックとヒグマをどこにやったのだ!?」
「アライさん……」
「早く見つけないとなのだ……」
 ふらふらと出て行くアライさんをヒグマが捕まえます。
「落ち着け、アライグマ。私たちはセルリアンじゃない」
「やめるのだー! アライさんはフェネックとヒグマのところへ行くのだー!」
「私はヒグマ、こいつはフェネック、今日まで一緒に過ごしてきただろ! わからないのか!?」
「やめるのだ、やめるのだ、アライさんはまだ死にたくないのだー!」
 アライさんの叫びと共に光が広がります。
「くっ……こいつ、野生解放を」
 ヒグマを振り払い、離れたところに着地するアライさん。
「探しに行くのだ」
 そう言い残してアライさんは走って行ってしまいました。
「アライさん!」
「まだ遠くには行ってないはずだ、探すぞ」
「うん……」
 ヒグマとフェネックは一生懸命アライさんを探しましたが見つけることはできず、一日経ち、二日経ち、一週間が経ち、アライさんたちの巣にキンシコウが訪ねてきました。
「すみません、最近セルリアンの数が増えていて……ヒグマさんの力がないと、私たちだけでは厳しくなってきて」
「そうか……」
「戻るのかな?」
「すまん、フェネック……」
「いいよいいよ、パークの平和を守るのはハンターの仕事だし、アライさんのことは私が探しておくから」
「すまん……」
 去って行くヒグマを見送ると、フェネックは息を吐きました。
「アライさん……どこに行ったんだろうね……」



「わはは、ヒグマにフェネック、そいつはケッサクなのだー!」
『……』
「アライさんもそう思うのだー!」
『……』
「やっぱり二人は親友なのだー!」
『……』
 セルリアンの群れの中、アライさんが一人で楽しそうに笑っています。
 セルリアンたちはじっと動かず、ただアライさんを見ています。
 ふと、アライさんは真顔になりました。
 そして、じっと黙ります。
「……」
『……』
「……」
『……』
「……ヒグマ? フェネック? それっていったい誰なのだ?」
 次の瞬間、アライさんはぱっと笑顔になりました。
「いやー、楽しいのだ! 見つけられてよかったのだー!」
 夜はどんどん更けていきます。
 今日もアライさんは一人。
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    拍手なのだ