短編なのだ

 ふわふわ。ふわふわ。
 今日のアライさんはふわふわ。夢のような現実の中でふわふわと漂っています。
「ふわふわなのだ」
 ぼうっとした顔で寝床に転がって、寝返りをうつアライさん。
「ふわふわなのだ、何もかも」
 忘れられそうなのだ、と呟くアライさん。
 ふわふわ。ふわふわ。
 アライさんはふと真顔になって宙を見つめました。
「だめなのだ。忘れるのだ。ここには誰もいないのだ」
 ふわふわ、ふわふわ、
「大丈夫なのだ、誰もいないのだ」
 ふわふわに戻るのだ、とアライさん。
 差し掛けた影がすうっと姿を隠し、緊張していたアライさんの身体から力が抜けます。
「ふわふわなのだ。何もかもふわふわで」
 ぜんぶふわふわになっちゃえばどんなにかいいのだ。
 そう続けたアライさんでしたが、ふと笑って、
「そんなこと、あるわけないのだ」
 それが今日アライさんの浮かべた一番の笑いでした。
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